秋吉 健のArcaic Singularity:「xR」はスマホの代替技術になり得るか。その進化と現在抱える問題点からスマートグラスデバイスの未来を考える【コラム】
xRデバイスの現在と未来について考えてみた! |
もう8年も前の話になりますが、筆者はNHKの某番組に出演したことがあります。その時は「ケータイの活用術」を紹介するという内容での収録で、ケータイ利用の初心者からビジネスで頻繁に利用する人などさまざまなタイプの方が出演し、筆者は「ケータイの達人」(いわゆるケータイオタク)の代表として呼ばれました。
当時はまだガラケー(従来型携帯電話)が主流で出演者の多くが愛用のガラケーを紹介する中、1人スーツのポケットから「iPhone 3GS」やらモバイルルーターやらを次々に取り出し、司会を勤めていたお笑い芸人の方から「手品師か何かですか?」とツッコミをもらう美味しい役までいただきましたが、その番組の最後に「未来のケータイはどうなると思いますか?」という質問に答えるシーンがありました。
しかしあれから時代は流れ、メガネ型のxRデバイスは現実となりつつあります。時代が発想に追いついたと言えばカッコイイですが、実際にはまだまだ数多くの問題点や解決すべき課題を抱えているようです。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はそんなxR技術の現在と未来を考えます。
まさか10年以内に筆者自身がそんなデバイスを身に着けられることになるとは。かつての夢はすでにここにある
■未来を感じさせる数々のxRデバイス
はじめにxR技術とはどういったものでしょうか。これは完全に仮想世界へ没入するVR(仮想現実)、現実世界にCGを平面的に投影するAR(拡張現実)、ARをさらに拡張させ仮想現実の世界を現実世界と融合させるMR(複合現実)、そして時間軸すら超越して現在と過去の境目をなくすSR(代替現実)といった、CGによる新しい視野表現技術を総称したものです。
これらの技術に共通するものはヘッドマウントタイプもしくはさらに軽量なメガネ型デバイスであるという点で、CGを現実世界に投射・投影するのか、はたまた現実世界をCG側に擦り寄せる形で投影するのかといった違いはありますが、スマートフォン(スマホ)のように手を塞ぐ(手を使う)ことなく映像を観られるというメリットを活かすためにこのような形状に落ち着きつつあり、将来的には「スマートグラス」の呼称が定着しそうです。
ヘッドマウント型デバイスの代表とも言えるソニーの家庭用ゲーム機「PlayStation 4」用のVRデバイス「PSVR」
Microsoftの「HoloLens」(ホロレンズ)。ARやMRを目的としたメガネ型デバイスだ
一見するだけでもその未来感は強く、何か新しい体験をさせてくれるのではないかというワクワク感に駆られますが、実際その体験をしてみると最初はかなりの衝撃を受けます。特にMR技術などは現実の空間上にCGによる物体を「配置」するため、自分がその物体の周辺を歩くことで裏側を見たり、内側を見ることもできるのです。まさにCGと現実の融合です。
現在はまだ外部から電源の供給を受けたりCG演算そのものに外部機器を利用しケーブルで繋がれているものも多く存在しますが、バッテリーを内蔵しCG処理もデバイス内で完結させるスタンドアローン型デバイスも徐々に登場しつつあります。デバイスの自由度が上がり、通信に関しても4Gや来たる5Gといった超高速通信モジュールを内蔵すれば、その利用範囲と用途は爆発的に拡大する予感がします。
GoogleのVRプラットフォーム「Daydream」に対応したレノボのスタンドアローン型VRデバイス「Mirage Solo」
ケーブルレスなので、より自由にVR空間を動き回ることができる
■業界を悩ませる「2つの問題」
映像テクノロジーの輝かしい発展と進化の象徴のように見えるxR技術とそのデバイスですが、実は「ある問題」が常にその開発者やメーカーを悩ませ続けています。それは安全性とプライバシーの問題です。
xRデバイスはその性質上常に眼前に装着しておく必要があり、どんなに軽く小型化されたとしてもメガネやコンタクトレンズのように用いる未来を想像するのが一般的だと思います。そこまで未来の話をせずとも、現状あれだけ視界を覆うデバイスを常時身に着け、現実とCGを同時に見るという行為の危険性は一度でも使ったことのある人であれば容易に想像がつくのではないでしょうか。
人の視覚と意識はそんなに器用にはできていません。何かを意識して見ている間、それ以外の視野はほとんどモノを認識していません。対象物の形や色をハッキリと認識できる「中心視野」はせいぜい1〜2度、物体や文字などをある程度明瞭に認識できる「有効視野」は4〜20度程度とかなり狭く、それ以上の100度前後までの「周辺視野」ではぼんやりと何かを映しているにすぎず、色や形などは正確に把握できないのです。
だからこそ「歩きスマホ」が問題になるのであって、常時眼前を覆うxRデバイスは常に歩きスマホ状態であると言っても過言ではないのです(VRデバイスに関しては完全に眼前を覆ってしまうので論外)。xRで映し出される映像に意識が集中している時、目の前を人が横切ってもすぐには反応できません。
xRデバイスに表示されたメニューを選択している最中、目の前の現実世界に意識はない
プライバシーの問題は「常時身に着けている」ことが大きな障害となります。例えばスマホであれば料理や誰かを写真に撮る際、スマホを目の前にかざして撮影するため「今撮影してますよ」と撮影対象や周囲の人間に認識させることができますが、メガネ型のデバイスの場合はいつ撮影しているのか、そもそもデバイスとしての機能を起動させているのかどうかも周囲からはわかりません。
一部ではxR技術の目覚ましい発展と進化から「xRデバイスはスマホの代替となる」、「スマホの次はスマートグラスだ」といった意見も出ているようですが、それは非常に楽観的すぎると筆者は考えます。スマホの代替となるにはスマホで人気(というか、もはや必須)のカメラ機能などもxRデバイスが備えなければいけなくなりますが、そうなった際の危険性についての議論が十分になされていません。
現在はまだデバイスが大きく目立つためにデバイスを装着している時点で相手に警戒されたりもしますが、これが某映画のスパイカメラのように一般的なメガネと大差がないデザインや大きさになった時、いつどこで誰が撮影しているのか分からなくなってしまいます。これが大きく問題となるのは一般利用よりも、むしろ企業や官公庁などセキュリティーが重要となる場所ではないでしょうか。
単なるカメラ機能のみのメガネ型デバイスであれば今やネット通販でも簡単に買える。これがネット接続されたxRデバイスの未来だとしたら……
■技術開発とともに用途への議論を
以上のことから、現在のヘッドマウント型あるいはメガネ型のデバイスとしてxR技術が進化していく限り、xRデバイスは少なくともスマホの代替品にはなり得ないと筆者は考えます。スマホに限らずモバイルデバイスはその利用シーンが限定されるからこそ容認されるのであり、いつでもどこでも利用されてしまっては逆に迷惑やマナー違反として迷惑がられる存在になってしまいます。
筆者はかつて未来のケータイについてメガネ型デバイスになると夢見ましたが、やはり少々突飛すぎたようです。xRデバイスの未来はスマホやケータイとは違う、新しいデバイスとして分化・進化していくのでしょう。
xR技術が生み出す現実と仮想空間の融合した世界は明らかに新たな価値を生み出すものであると確信できます。しかし今はまだその用途すら手探り状態で、この技術を何にどう活かしていくのかという議論と模索がようやく始まったばかりですが、その未来が明るいものであることを願っています。
そのメガネの先に見えるものが、楽しく感動できるようなxR世界の未来であるために
記事執筆:秋吉 健
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