3月19日、参議院予算委員会での安倍晋三首相と麻生太郎財務相(写真:REUTERS/Issei Kato)

大阪府豊中市の国有地の売却を巡る「森友学園問題」は、国会での審議が始まって1年以上になるにもかかわらず、いまだ終息する気配はない。

3月19日朝には14の文書に加えて「森友学園事案に係わる今後の対応方針について」と題された決裁参考メモが削除されていたことが、参議院予算委員会理事会で報告された。

クビがとれるのに・・・

財務省の太田充理財局長はこの日に開かれた予算委員会集中審議で陳謝したが、いったいどこまで財務省は事実を隠しているのか。疑念は募る一方だが、野党の追及はさほど鋭くないように見える。

「(麻生太郎財務相の)クビがとれるのに、なぜとろうとしないんだ。辞任に追い込めば、9月の総裁選まで安倍内閣はもたない。我が党にとってせっかくのチャンスだったのに、棒に振っている」

民進党内からは、ため息混じりの怒りの声が聞こえてくる。怒りの矛先は、民進党から質問者として立った難波奨二参議院議員と大野元裕参議院議員だ。

「難波氏は野党のトップヒッターとして、もっと鋭く問題の真髄に切り込まなくてはいけなかったのに、『(安倍昭恵夫人には森友学園の国有地取引に)間接的な関与があり、そこから忖度が発生する』などと無理やりなこじつけを示すのみで印象論から出ていない。また大野氏は細かい質問をするが、追及型ではない。検事出身の小川敏夫民進党参議院議員会長のようなエースならともかく、どうしてあの2人なんだ」

確かに民進党は何も引き出せていない。

何も引き出せていない、という点は自民党も変わらない。もっとも自民党の目的は野党と異なり、佐川宣寿前国税庁長官で責任を止めることに尽きている。質問に立った青山繁晴参議院議員は、国会議員の質問内容や陳情の予算措置を“人質”にする財務省の「おごり高ぶり」を批判した。


3月19日、参議院予算委員会で答弁する安倍首相(写真:REUTERS/Issei Kato)

和田政宗参議院議員は太田充理財局長に「まさかとは思うが、民主党政権の野田総理の秘書官も務め、増税派だからアベノミクスを潰すために、安倍政権を潰すために意図的な答弁をしているのではないか」と述べ、太田氏から「いくらなんでも」と全力で反論されている。

この和田氏の発言については、党内外から多くの異論が出た。財務省出身の片山さつき参議院議員は同日夜の報道番組で、和田氏の質問は「あれは和田さんの個人の思想信条でなさったこと」として自民党とは関係ないとばっさり斬り捨てた。経済産業省出身で、鳩山内閣で内閣官房副長官を務めた松井孝治慶應義塾大学教授も、SNSで遺憾の意を示している。

青山氏も和田氏も安倍晋三首相に近い。自民党内では森友学園問題についてあえて質問を希望する議員がいなかったので、人選は官邸が行ったのだろう。その前日に公表された共同通信など各社の世論調査によれば、内閣支持率は大きく低下。毎日新聞や朝日新聞、日本テレビの調査に至っては、10ポイント以上も下落している。そのような状態で、安倍首相に近い人物をあえて質問者に出すことは、果たして得策といえるだろうか。

「安定感」を示したのは共産党

その一方で、「安定感」を示したのは共産党だろう。小池晃書記長は、なぜ決裁書に昭恵夫人の名前が記載されているのかについて太田局長に尋ね、以下の答弁を引き出した。

「それは基本的に総理夫人だということだと思います」

その後、太田局長が「籠池氏が盛んに昭恵夫人の名前を出したから」と述べたが、これはかえって「総理夫人」を強調することになる。そもそも昭恵夫人が総理夫人でなければ籠池氏が何度もその名前を出すはずがないし、昭恵夫人の名前を決裁書に記載した近畿財務局の職員は籠池氏がその“威光”を利用しようとしていたのを知らないわけがない。

ただしこれをもってしても、共産党が希望する「昭恵夫人の証人喚問」は実現する見込みはない。証人喚問を行うには全会一致の賛成が必要だが、現在の状況では自民党が受け入れるはずがないからだ。

「筆頭間協議整わず、明日に向けて引き続き協議」ーー。集中審議が終わった後、立憲民主党の参議院国対委員長の蓮舫氏がツイッターでこう書き込んだ。早ければこの日、佐川宣寿前国税局長の証人喚問が決議されると思われていたが、翌日以降に延ばされた。

そもそも証人喚問には様々な手続きが必要なため、自民党側は「党本部や官邸の意向を聞く必要がある」と主張。具体的には20日12時半からの与党2幹2国(自民党と公明党の幹事長と国対委員長の会談)で自民党の二階俊博幹事長がどのように判断するかにかかっているようだ。

二階幹事長が「昭恵夫人カード」を切る可能性も

もっとも二階氏自身は証人喚問について明言していない。立憲民主党の福山哲郎幹事長が14日に二階氏と電話で会談し、「二階氏は証人喚問も含めて佐川氏の国会招致を容認した」と発表したが、それは野党を国会審議に復帰させる呼び水にすぎなかった可能性もある。


1月14日リトアニアで撮影された首相夫妻(写真:REUTERS / Ints Kalnins)

仮に証人喚問が実現しても、「捜査中」という理由で佐川氏が証言を拒否するとも囁かれている。また予算が成立したら、麻生財務相が辞任するという噂も飛び交っている。

しかし麻生財務相が辞任すれば、安倍首相に責任が及びかねない。さらに麻生氏だけに責任を負わせた場合、安倍首相は9月の総裁選で麻生派の支持を受けられなくなる危険性もある。そうなれば4月の日米首脳会談が成功しても、党内の求心力を維持するのは困難だ。

かつては「政高党低」といわれた官邸と自民党との関係だが、いつの間にか拮抗するようになった原因は、森友学園問題だろう。「佐川カード」を二階氏がどう切るのか。その先に「昭恵夫人カード」を切る局面も出てくるのか。こじれた状況は、まだしばらく終わりそうにない。