衛星に搭載した小型受信機を組み込んだ基板(写真:中部大学の発表資料より)

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 中部大学工学部電子情報工学科の海老沼拓史講師は2月27日、全地球測位システム(GPS)衛星からの電波を短時間で受信し、高速移動する低軌道衛星でも正確な位置を検出できる小型受信機を開発したと発表した。時速3万キロメートルの人工衛星をナビゲーションすることで、人工衛星の衝突を回避し、宇宙デブリの増加を避ける。

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 切手サイズの小型受信機は2月3日、東大が開発した超小型衛星「たすき」に組込み、JAXAの小型ロケット「SS-520-5」に搭載して打ち上げた。民生カメラを用いた画像取得実験などを進め、1カ月近く経過後もGPS受信機が正常に動作していることを確認。

 超小型衛星「たすき」本体は、縦横約12センチメートル、長さ約35センチメートル、重さ3.2キログラムで、太陽電池のみで動作。そのため、GPS受信機も150ミリワットと低消費電力を実現。これは全ての衛星に搭載できる大きさと消費電力だ。

 人工衛星の打ち上げには、宇宙デブリ対策が求められる。25年以内に寿命を終えて大気圏に突入し、燃え尽きるように設計しなければならない。それでも秒速7キロメートルで走行する人工衛星の衝突を回避するには、地上で活用されているGPSと同じような仕組みを人工衛星に搭載することが必要で、宇宙デブリの増加を防ぐ。

●人工衛星搭載用GPS受信機の特長

 全ての人工衛星に搭載するには、超低消費電力は必須だ。超小型人工衛星の太陽電池でも動作可能な150ミリワットを実現。従来の衛星搭載用のGPS受信機の1/10以下の消費電力だ。

 人工衛星の位置計測精度も大きく向上する。衛星は90分で地球を1周するが、その間に周波数が大きく変化するGPSからの電波を短時間で捕捉し、誤差10メートル以下で位置を計測。現状では、地上からのレーダー観測で推定するが、その誤差は数キロメートル〜数十キロメートルと大きい。

●人工衛星搭載用GPS受信機(中部大学、切手サイズGPS)のテクノロジー

 超低消費電力の実現に加えて、人工衛星の位置測定では民生用の技術を最大限活用して低価格化に挑んでいることであろう。

 自動車・航空機用のナビゲーションシステムを、海外GPSメーカの協力の元に改良。地上の自動車や航空機の移動速度はせいぜい時速100〜1,000キロメートルだが、衛星は時速3万キロメートルにも迫る。高速移動によって大きく変化するGPSからの電波も1分以内で捕捉し、正確に位置を計算できるアルゴリズムを独自に開発したという。

 ナビゲーション機能に加えて、ハードウェアも過酷な放射線環境に耐える必要がある。そのために、特別な電子部品を使えば高価な受信機となる。市販の民生品で構成しつつ、東工大の協力の元、宇宙環境を模した放射線試験を実施し、低コストを実現。ソフトウェアのリセットは発生するものの、正常に再起動・再補足を開始。一般的な超小型衛星の数年から5年程度の運用期間での放射線耐性は十分な結果だった。

 実際の宇宙空間で約1カ月に亘り正常に動作している。宇宙環境を模した実験環境の精度確認にもつながるであろう。