メインフレームとは、企業などの組織において基幹業務用に使用される大型のコンピューターのこと。主として企業に向けて生産されるため一般人が入手することはほとんどないメインフレームですが、ビンテージコンピューターの収集を趣味にしている18歳の大学生コナー・クラスコスキさんが、2004年に発売されたIBM製メインフレームの「IBM z890を購入して自室に設置してみた」という一連の出来事について話したムービーがYouTubeで公開されています。

Here's What Happens When an 18 Year Old Buys a Mainframe

スライドで説明を行っているのがコナーさん。生後18カ月で両親からコンピューターを与えられ、15歳ごろからビンテージコンピューターの収集を趣味にしているとのこと。



コナーさんが所持する車の荷台はビンテージコンピューターに関する収集品でいっぱい。コンピューター本体以外にも、かつてコンピューターシステムの入力に使われた古いキーパンチなどがあり、これはe-Bayでたったの9ドル(約1000円)だったとのこと。自宅の部屋も似たような感じだそうです。



IBM z890とはIBM製のメインフレームであり、2016年にコナーさんが購入した時点で10年以上前のモデル。インターネットの掲示板でIBM z890が売りに出されているのを発見したコナーさんは、早速持ち主にコンタクトを取り、IBM z890を購入することができたとのこと。コナーさんはお礼のメールに「ありがとう!これでこの冬、僕の部屋を暖める暖房器具が手に入ったよ!」とジョークを交えて感謝を述べていますが、実際にコナーさんの部屋は非常に寒く、「IBM z890が待望の暖房器具になる」というのもあながちジョークとは言い切れないそうです。



なお、IBM z890は2200ポンド(約1トン)を超える重さとのことで、コナーさんは友人からのメールで「家の床が抜けるんじゃない?」と聞かれたとのこと。



さて、めでたくIBM z890の購入を決めたコナーさんですが、今回の購入は親にも内緒で進めたため、親に「ケースが1500ポンド(約680キロ)よりちょっと重いくらいで高さが1.8メートルある新しいマシンを買ったんだ」と告げなければならないという問題に直面しました。「親はある程度僕の趣味は黙認してくれているけど、さすがにこれは買う前に言ったら止められるからね」とおどけるコナーさん。



ちなみに、IBM z890本体の価格は237ドル39セント(約2万6000円)だったとのこと。



IBM z890はとてもコナーさん1人では移動させられなかったため、近所に住んでいる友人たちを呼び集めて、なんとか荷台に積み込んだとのこと。



メインフレームのケースはさすがに通常のPCケースとは桁外れの大きさで、全体がスチール製で特に底面は厚さ2インチ(約5センチメートル)もあるためとんでもない重さだったそうです。友人たちとどうにか台車にのせ、車の後ろにつないで牽引していくことにしました。



やっとの思いでコナーさんの自宅に到着したIBM z890ですが、ここで緊急事態が発生。当初の計画では、コナーさんの自宅は1階部分が地上から浮いた構造になっているため、1階デッキの下を通してコナーさんの部屋に運び入れる予定だったとのこと。ところが、予想以上にIBM z890のケースが大きく、デッキを通して運ぶことが不可能だと判明。



そこでコナーさんは庭の地面を父親に協力してもらって掘り進め、なんとかIBM z890のケースが通るように地面とデッキの幅を広くすることにしました。この作業をしている間、かわいそうなことにIBM z890のケースは2日にわたって屋外に置かれていたとのこと。



ギリギリの隙間をどうにかくぐり抜け……



最後はチェーンを使って引っ張り上げ、どうにかコナーさんの部屋にケースを運び入れることに成功しました。



今回の経験からコナーさんが学んだことは、「計画はちゃんと立てよう」「ものを運ぶときは少なくとも2回は計測して、運ぶのが1回ですむようにしよう」「お母さんの言うことは聞こう、あと自分の倉庫を買おう」「1500ポンド(約680キロ)あるメインフレームのケースは、床が斜めだと勝手に動く」ということ。今回IBM z890のケースを運び入れるまで気づかなかったのですが、どうやらコナーさんの自室は斜めに傾いているらしく、ケースを運び入れた後に滑って他のものにぶつかってしまったとのこと。



そしてようやく、IBM z890の組み立てがスタート。運び入れたケースにすでに運んであったパーツをセットしていきます。



組み立て自体は簡単に完了したそうですが、いくつかの問題が発生。そのうちの一つに、データの入出力に関連するI/Oモジュールを外すと、コンピューターの放熱を目的とするヒートシンクが見えるというものがありました。「これは経験上、非常によくない配置です」とコナーさん。



他のモジュールにも同様の問題があったとのことで、コナーさんは解決の必要性に迫られます。部品を外してはまた貼り付けるという繊細な作業を、かなりの長時間にわたって続けなければならなかったそうです。「みなさんも同様のコンピューターを持っていたら、ぜひチェックしてみることをおすすめします」とコナーさんは教訓を述べます。



そして次に持ち上がった問題は電源プラグ。オリジナルは3ピン電源プラグだったそうで、「まさかこんなのがでてくるとはね」と笑いを誘うコナーさん。



3ピンプラグの問題も解決したコナーさんが次に直面したのは、起動した後に表示されたこのスクリーン。「なんだと思いますか?」と会場に尋ねるコナーさん。しばらく誰にも見当が付かないようでしたが、やがて「ライセンス認証?」という声があがるとコナーさんは「それ!」と反応。



ここまでで購入からすでに2週間が経過しており、コナーさんは疲れ切っていたそうですが、ハード面よりもソフト面のほうがまだ解決は簡単だったというコナーさん。その後もIOCDS(入出力構成)やFTPの問題などを解決していき、どうにかIBM z890を通常起動させることに成功しました。



次にコナーさんへ降りかかったのがストレージの問題。長旅の末に到着したIBM z890付属のストレージは古く劣化もしていたため、新しいストレージを用意する必要がありましたが、正規品を購入するとあまりにも高価すぎるとのこと。結局代替品をつなぎ合わせて対処することになったそうです。



そしてストレージの部品を組み立てる作業が始まりました。



続いてIPLをメインメモリに読み込む必要がありましたが、IBM z890を運用するまでの道のりがあまりにも長く、コナーさんはこの時点ですでに頭痛がしてきたため……



メインメモリに関しては再びe-Bayに頼ることにしたとのこと。「そもそもIBM z890を買ったのだってe-Bayだったんだから、これは全然アンフェアじゃないよ」とコナーさん。



「面白そうだから買ってみるか」という気持ちからかなりの大事になったIBM z890の運用ですが、これでようやく完了。



実際に全員の前でIBM z890の起動画面を表示させると……



盛大な拍手がわき上がりました。



「部屋は暖かくなった?」という質問には「ちょっとね」と答えるコナーさん。



「実は先週、IBM z890を緊急シャットダウンしたんだ」というコナーさんが見せたのは、コナーさんの部屋が水浸しになっている写真のスライド。どうやら水漏れが発生したらしく、IBM z890をやむなくシャットダウンしなければならなかったとのこと。「部屋がこんなになってると知られたらマズいし、親は絶対入れちゃダメだね」とコナーさんは笑います。



今回IBM z890を運用可能な状態にするまでかかった本体・部品の費用が、車での輸送費や労働力などをまったく加味していない計算でおよそ340ドル(約3万8000円)。コナーさんが見つけた昔のプライスタグによればIBM z890の本体価格は35万ドル(約3900万円)とのことで、コナーさんは実に「1000分の1」にまでプライスダウンを実現させたことになります。「まあ、35万ドルっていうのは10年前の価格だけどね」と笑うコナーさん。



コナーさんはこの2016年3月にこの講演を行った後、IBMから声がかけられてIBM施設を見学することができたそうです。そこでメインフレームに関する豊富な知識を見いだされたコナーさんは、現在では大学生でありながらIBMのメインフレーム関係の仕事に就いているとのこと。趣味が高じて始めたIBM z890の整備は、コナーさんの人生に大きな影響を与える結果になったようです。