昨年12月18日に東証マザーズに上場したジーニー(写真:ジーニー)

「日本発の世界的なテクノロジー企業をつくる」という想いのもと創業された株式会社ジーニー。日常生活の中で、パソコンやスマートフォンの広告に触れる機会は頻繁にある一方、そうした広告を下支えする技術や、SSP・DSPといったネット広告特有の業態には、馴染みが薄い面もあることでしょう。

今回は「技術開発力」と「事業推進力」にこだわってアドテクノロジーの展開に取り組まれているジーニーの工藤智昭社長に、経営に対する考えや世界展開に向けての戦略に関するお話を伺います。


当記事はシニフィアンスタイル(Signifiant Style)の提供記事です

2010年4月創業のジーニーは、最先端のアドテクノロジーで顧客の収益を最大化する企業。SSP/DSP/DMPを同時にOEM提供できる世界で2社のうちの1社。主力事業であるGenieeSSPは国内トップクラスの規模を誇る。2016年7月、MAJIN(マジン)の提供を開始し、マーケティングオートメーション事業を推進。海外展開にも積極的でアジアNo.1を目指す(事業の詳細については、「成長性に関する説明資料」を参照)。

アドテクで世界を変える

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):まずはどのような経緯で起業に至ったのか、聞かせていただけますか?

工藤智昭(ジーニー社長。以下、工藤):実は学生時代にも起業していました。自分でプログラムを書いてビジネスを作ろうと思っていたんです。一方で研究もすごく楽しくて、学術レベルの技術的に難しいことをビジネスに繋げられたら世界を変えられるだろうとも考えていました。ただ、その時点では世界を変えるような会社を作れるイメージが持てなかったので、一度どこかで勉強しようと考えて、リクルートに入りました。

村上:その後、もう一度起業された2010年は、日本でもアドテクが盛り上がりつつあるタイミングでしたね。どうして再び起業しようと思われたのですか?


工藤智昭(くどう ともあき)/早稲田大学大学院理工学研究科で充足可能性問題(AI)の研究の傍ら、インターネット広告ベンチャーの起業と経営を経験。卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)入社。事業開発室にてアドネットワーク事業推進を行い、リクルートの広告を起点として、日本最大のエリアアドネットワークの構築を手掛ける。2010年4月、ジーニーを設立、代表取締役社長に就任。2012年8月 Geniee International Pte., Ltd.を設立、Representative Directorに就任(写真:Signifiant Style)

工藤:アドテク分野は、もともと自分がやりたかった技術力が勝負を分ける分野で、この技術が広告業界や世界を変えるかもしれないと思っていました。当時、アドテクの基本技術であるRTB(リアルタイムビッディング)や、その頃アメリカでRTBやアドテクの会社が伸びそうだということに関して、日本での認知度はほとんどなく、ようやくブログに書かれるかどうかという程度でした。そういう状況でしたから、リクルートがアドテク分野に本気でコミットするのかどうか分からなくて、それなら自分で起業してみようと思って決断しました。

村上:その後、孫正義さんと会われて、経営者としてもいろいろ刺激を受けられて、また会社としても提携に至ったというストーリーを拝見しましたが、起業の前から面識はあったのですか?

工藤:孫さんと知り合ったのはソフトバンクアカデミアに入ってからです。アカデミアに入ったのもいろいろ逆算してのことでした。三木谷さんのそばで働いていた人がジーニーに面接を受けに来たことがあったのですが、そこでその人に三木谷さんが普段どういうことを考えて、どんなことをしているのかヒアリングしたんです。その中で印象に残ったのが、提携したい相手と半年や1年前からプライベートで仲良くなるということでした。

当時、アドテクが伸びていく中で、世界的な企業と組んだほうがいいと考えていました。その相手は日本の中だとソフトバンクだろうなと思っていたんです。それでソフトバンクアカデミアの試験を受けて参加したんです。行ってみるとソフトバンク内部の幹部もいれば外部の経営者もいました。内容もめちゃくちゃ面白かったです。孫さんの話を伺うと、自分なんて本当にまだまだだと毎回感じます。もっと頑張らねばと気合が入ります。

着実にプロダクトを積み上げて面を取る

村上:プロダクトについて教えてください。現在はフルラインナップで事業を展開し、またMAJINというプロダクトで自動化にも挑戦されています。世のアドテク企業はフルラインナップだけではなく専業型、また専業型でもDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)専業など様々な企業が乱立しています。その中で当初SSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)から事業を始められたのはなぜでしょうか?


ジーニー説明資料より

工藤:創業当時に方針を決める時にみんなで議論して決めたんですが、当時のカオスマップ(インターネット広告市場の業界地図)を見ても、DSP、SSPといろいろある中で一番重要なのはSSPだと僕らは考えました。SSPによってメディアのマーケットシェアを取ったあとに、メディアのデータやユニークな広告枠を使うことで、DSPなどの他の展開もしやすくなると考えたからです。世界の会社でDSP単体では厳しいところが多かったので、戦略上SSPが最終的に有利になるだろうと思いました。

村上:SSPからDSP、自動化へと展開する戦略も当初から想定されていたのでしょうか?

工藤:2013年頃に自分たちのプロダクトを全て、再度生み直そうとなったタイミングがあって、その時にこの戦略を考えました。

村上:きちんとマネジメントさえできれば、アドテクの会社としては複数プロダクトを揃えて広告主の面を取りに行ったほうが有利だと思われたということですね。

工藤:はい。データの面でもビジネスの面でもスケールメリットが働きますからね。今、我々のプロダクトが扱うのは800億インプレッションくらいなんですが、30億とか40億だったときと比べると、発注したいとか入札したいとかいう広告主さんの量が圧倒的に増えました。スケールメリットを追求するとそうなるんだと思います。

村上:とはいえ、複数のプロダクトをラインアップすると、パイプラインマネジメントやファイナンスの工面が難しくなってくると思うんですが、そのあたりはどう対処されてきたのでしょうか?

工藤:新しい機能を制作したら、一つひとつちゃんと利益が出るまでマネジメントしていくようにしていますね。作ったものをきちんと価値を出して継続的に使ってもらえる状況までこだわってやっていきます。成功しないなら早期にやめ、リソースは割きません。そうやってプロダクトごとに開発競争も勝ち抜いて一定利益が出ている状況にする。既存プロダクトで利益が出ている状態を担保した上で、次のプロダクトを生み出すということをやっています。

技術と経営の両輪を回す

村上:アドテクのような技術が重要な業界では、相対的にビジネスがなおざりになってしまう落とし穴があると思います。そんな中、工藤社長は早い段階から「経営」という言葉を使って、両輪でやるんだ、ということを強調されています。技術と経営について創業時からどんなことを意識されてきたんでしょうか。

工藤:リクルートでは主に営業戦略と商品戦略を経験したのですが、技術の会社をやるには営業と商品の戦略に加えて、技術の方針を中長期の戦略と同時に作っていくべきだという思いが最初からありましたね。それを今、少しずつ体現していっている感じです。

村上:なるほど、リクルートでの経験が活かされているのですね。中長期のトレンドを読むことも意識されている。

工藤:そうですね。技術と経営のミックスでは、経営会議に技術のヘッドを何人も参加してもらっています。動画でもネイティブアドでも、新しい分野において、結局商品の力というのは技術の力半分とビジネスの力半分だと思っているので、ビジネスの深い話もエンジニアと共有しながらプロダクトを生み出すほうが強いと考えています。そもそもビジネス側が新しい商品を作りたいと思ってもすぐできるものではないし、商品をどう安くできるか、安くするためのコアの技術は何かというのは技術上の勝負の話なので、それなしにビジネスの勝負の話はできないですよね。


「ビジネスの深い話もエンジニアと共有しながらプロダクトを生み出すほうが強いと考えています」と語る工藤智昭社長(写真:Signifiant Style)

村上:私が見てきたアドテクの会社では、技術トレンドの変化の波にもまれ、開発と収益化のいたちごっこになり、構造的にレッドオーシャン、もしくは低収益に陥ってしまうことがありました。アドテクブームの時代にあっても低収益というのは多くの企業の課題であったと思います。ジーニーの場合、経営と技術、双方の視点がハイレベルで融合していることが、落とし穴を避けてこられたポイントなのでしょうか?

工藤:基本的には売れるものを作るという原則でやっていますが、正直なところ、以前は勘でした。これを作ったら回収できるだろうなっていう。

最近は定量化するようにしています。この新機能を開発したら、何社くらいと取引できて、これくらい取引量が生まれて、という予測をたて、最初の一歩をリーンに作ってみて、行けそうだったら一気に作って拡販します。エンジニアって作った後で「売らない」と言われるのを嫌うので。

村上:まずリーンに行くという仕組みをしっかり作ることで、エンジニアの納得感とビジネスとしての収益性の担保のバランスをうまく取っているわけですね。

工藤:そうですね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):関連して、アドテクの会社には、開発部隊と営業というカルチャーが違う人達をうまくまとめなければいけない難しさがあると感じます。営業と開発で情報のフィードバックをスムーズに行うために工夫していることはありますか?

工藤:BD(ビジネスディベロップメント)とPM(プロジェクトマネージャー)というポジションがあります。基本的にはBDのポジションの人がマーケットインの開発の見定めをして、PMがプロダクトアウトに責任を持ちます。営業と開発が直接話してものづくりをしてはいるんですが、組織に役割を作ってその人達にも担保してもらっている形です。

小林:BDとPMがやりあうということにはならないんですか?

工藤:リソースの取り合いにはなりますね。マーケットインだけだと伸びが悪くなるというフェーズもありますから、事業やプロダクトのフェーズに合わせて、両者のバランスをとるのが経営の役割だと思っています。今はこっちに寄せよう、というのを経営で議論して決めています。

重要な3つの問題を解けばビジネスは成長できる

村上:技術と経営を両輪で回す中で、規模が大きくなることの弊害はありませんか?開発パイプラインの管理にしても、ジーニーのようにフルラインナップでやっていると大変な面もあるのかなと感じます。経営上どういう方針で対応されていますか?

工藤:最近思っているのは、重要な問題は意外と少ないということです。この業界にとって本当にインパクトのある問題というのは3つか4つしかない。ここの開発を完璧にやればビジネスはグロースします。それも年平均成長率30%とかで。逆に価値のない問題を10個解いても駄目なんですよ。本当に価値のある問題3つをちゃんと成し遂げればビジネスのグロースは担保できるんです。

村上:それは面白いですね。大事な問題は3つ4つしかない。

工藤:そうです、それらにフォーカスですね。お客さんが喜ばない問題を一生懸命開発しては駄目だってことですね。すごく汎用的で、日本とアジアに売れて、5000社・1万社のパブリッシャーが喜ぶ、パブリッシャーの業務の中で最も大切な機能を作るということです。見極めが難しいんですが、3つ4つの話なので、属人的にやれてしまうんです。

手を広げるよりは重要な問題を解くのが大切

村上:なるほど。投資余力と配分の方針についてお聞きします。現在は自社で全ての開発を行っていますよね。競合がテクノロジーを一気に獲得するために買収という手段を活用していることを踏まえると、今後さらにスケールさせていくためには、現在の資本力で十分とお考えですか?

工藤:自社開発がいちばん大切なものなのでそこに全力投下していきます。手を広げるよりは重要な問題を解くのが重要で、クライアントが困っていて価値がある問題にセールスもテクノロジーもみんなの力を結集させることが肝要です。人数や資本力の問題ではないと思っています。

村上:やはり数個の重要な問題にフォーカスできるかが、とにかく重要だというお考えですね。

工藤:その数個の問題さえ解ければ、グロースできると思っています。

小林:その重要な問題は何か、というところはどうやって絞っていくんですか?

工藤:1週間に1回、僕とプロダクトマネジャー、取締役の廣瀬や技術のヘッドたちとプロダクトの会議やっているんですが、そこで議論をして、「多分これだろうな」というのをみんなで考えていますね。現状は、業界と顧客のことに詳しい人同士で話せば「ここを解決すればすごく伸びるな」ということが合意できるんです。次のステップは、その意思決定プロセスをどう属人化させないか。これについてはプロダクトマネージャーと話し合っているところですね。

小林:では、高頻度で課題をブラッシュアップしているということですか?

工藤:大方針は変わらないですが、各論がどんどん磨かれていく感じです。


「本当に価値のある問題3つをちゃんと成し遂げればビジネスのグロースは担保できる」と語る工藤社長(写真:Signifiant Style)

村上:アドテク業界は一時期大ブームで、その後、急激に落ち込むといった局面もありました。御社でも「うちの会社も危ないかな」というような時期はありましたか?

工藤:もちろん、年によって楽に伸びるときと、大変な時はあります。僕たちはずっと淡々とやっていました。以前から海外のアドテクの会社ともよく話をしていて、業界がどうなるか、手数料でも、この辺りで収斂するだろうというポイントを見定めてビジネスを設計していたので、周囲の会社ほど影響は受けませんでした。また問題が発生しても、すぐに対応しています。

村上:当時から海外市場や動向にアンテナを張っていたのが活かされているわけですね。また中長期を見定めて戦略立案されていたことも、アドテクのような急激な変化に直面する業界では大きなプラスだったと。

工藤:ピンチと言えるとすれば、4〜5年前にシステムを全部入れ替えたときですね。当時、商品も良くてセールスも頑張っていたんですが、結果的にこれ以上パブリッシャーを獲得していくとアクセスに耐えられなくて落ちるという状況になってしまいました。その時に、根本の部分から技術を見直す決断をし、4ヶ月間開発を全部止めて、エンジニアがホテルに缶詰になって全部作りきったんです。

村上:総入れ替えとは大きな決断ですね。そこでやり切れていなかったら、ここまでの成長につながってないのでは?

工藤:そうですね、大きな経営判断でしたが、やってよかったですね。

村上:システム総入れ替えは相当大きな手術、また経営的判断です。どうしてその判断ができたのでしょうか?

工藤:当時の経営会議に出ていたメンバーで話していて、エンジニアも、「大きな取引先を見つけてくると落ちるという状況が嫌なので、全部ゼロから直したい」と言っていたので決められましたね。あと、ちょうど海外の大手のアドテク企業が買収交渉に来たんです。彼らのヴァイス・プレジデントが、インフラをどうやってマネジメントしているかなど、いろんなことを喋ってくれたんですよ。

村上:彼らの技術自慢を聞かれたんですね。

工藤:そうですね。1個のサーバのCPUでRTBこれだけさばけるとか、どういう言語で書いていてこういうふうにやっているとか話してくれて。その場にエンジニアも同席していたので、これはうちでも作れるなって思ったんだと思いますね。それで基礎の技術開発をしてやり直したんです。

村上:海外にアンテナを張られていたこと、経営上の判断に普段からエンジニアを関与されていたこと、それらがあったからこそ重要な判断が下せたというわけですね。

工藤:そうですね。

村上:これだけ複数のプロダクトを管理されていれば、何か1つのプロダクト売上が急落したなんてことはなかったんでしょうか?

工藤:短期的に企業価値が毀損するような出来事はもちろんあります。ただそれらは技術でクリアできるので、そういう場合にはプロダクトもサービスや組織も緊急手術をして成長路線に戻します。

村上:これも大方針が決まっていればというお話ですね。技術力があれば乗り越えられると。

空白地帯の東南アジアから世界へ

村上:かなり早い段階で海外、具体的には東南アジアに進出されていますね。なぜあの段階で海外、しかも東南アジアを目指されたんですか?

工藤:実はもともと、日本でアドテクのビジネスをやりながらメールとスカイプだけで海外に営業していて、拠点を作ればすぐに黒字化できるだけの売上を持っていました。それをどう伸ばしていこうか、という議論の結果、海外に進出する決断になったのですが、シンガポールと同時にニューヨークにもチャレンジしていたんですよ。

村上:え、そうだったんですね。

工藤:アメリカは難しいと一瞬で気づいてやめました。同時に、東南アジアの方は空白地帯だということもすごく感じました。

村上:外部から見れば進出タイミングが早く見えているだけで、実はすごくリーンに売上を立ててみるということをやっていたんですね。更に「世界一を狙う」とも仰ってますが、それはどのような意図があってのことなんでしょうか?

工藤:ファースト・プライオリティは、東南アジアやこれから展開したいと考えているインドで勝ち抜くことに置いています。実際にセールスで色んな国に行って、パブリッシャーや顧客の声を聞いて、競合がどれくらい強いかを体感すると、インドは結構大変そうなんです。インドのローカルな企業はすごく優秀だし、世界的な企業からお金も集まってきているので、展開する際は本腰入れてやらないといけないなと思っています。

一方で、我々のプロダクトの競争力が上がってきているので、以前よりはアメリカでも通用するようになって来ているという手ごたえもあります。先々を見ればヨーロッパやアメリカでもやれるだろうとも思っているんです。


ジーニー「成長性に関する説明資料」より

村上:アドテクで地域拡大を考えれば、地域ごとに旬の技術が違うこともあると思います。地域ごとの技術トレンドの変化やローカライズにはどう対応されていますか?

工藤:確かに東南アジアにおいては、トレンドのタイミングがずれますね。日本で通じたプロダクトが海外でも強力だと思われる場合もあるし、日本でしか使えない場合もあります。プロダクトを強くしていくことがそのまま海外での成長に密接にリンクしているわけではないんです。

村上:ローカライズが必要だとすると、中期的なトレンドを見極めてフォーカスするというお話ですが、地域別にフォーカス課題を見つけて対応するマネジメントが必要になるということですね。

工藤:そうですね。今は、1年後を重要なマイルストンとしておいていますが、安定してくると2年後のグロースのためにどこを取るのが一番いいか、という議論になる可能性もあります。そうすると海外ももう少しやりやすくなるのではないかと思っています。

上場をてこに世界戦略を加速させたい

村上:このタイミングで上場された理由はどうしてなのでしょう?

工藤:いくつか理由があるんですが、国内のアドテク事業の継続的な市場シェア拡大が見込めており、安定的に成長して利益が出ている、つまり収益の基盤が安定していること。それから海外も伸びていて、ほぼ黒字化の水準になってきていること。新規事業だったマーケティングオートメーションも伸びてきて黒字化が近づいてきており、今後、中長期で継続的なグロースを目指せることです。それらを考え、今がベストのタイミングだと考えました。

村上:なるほど、基盤事業の安定性と成長性のバランスがよい頃合いと判断されたのですね。ところで、当期純利益が赤字になったのは投資有価証券評価損が原因だと思いますが、何への投資だったんですか?

工藤:海外で営業組織とテクノロジーを確保するために買収をしていたんですが、その際の株式の評価損です。その件を通じて、買収の難しさがわかりました。「勉強」と言うと怒られますけど、買収において何が大変かわかりました。

でも、今後M&Aをやらないということではありません。先ほどは自社開発が優先というお話をしましたが、一方で特に自社で持っていない要素や技術を持っている会社や、ユニークなプロダクトを持っている海外の会社があるかもしれません。だから、M&Aという手段を活用しないと上場の意味がないだろうなと思っています。

「世界一を狙う」成長戦略

村上:今はSSP、DSPが主軸だと思います。MAJINも海外戦略もあります。今後の成長を見据えて、本当にフォーカスしていきたい部分はどこでしょうか?

工藤:DSP、SSPの市場はまだまだ伸びると思っていますし、マーケットシェアもまだまだ取れると思っています。それに、メディア側は儲かっていない会社が多いので、広告主にとっても付加価値の高い取り組みをしながら、業界に還元していきたいです。

ただRTBの市場は1000億程度なので、その先を考えてマーケティングオートメーションなどマーケティングの新しい分野に進んでいる感じです。

村上:ソフトバンクさんのようにOEM型でプラットフォームを提供されているケースもありますが、その場合データは共用してやられているんですか?というのも、OEMの狙いがデータにアクセスすることなのか、それとも売上を作るのに手っ取り早いからなのかお聞きしたいと思いまして。

工藤:相手先によって、共有している場合としていない場合があります。

OEMを積極的に展開しているのにはいろいろな理由があります。海外でもOEMをやっているんですが、その場合、提供先の営業組織やグループのメディアを使えることもあり、自社の直販でやっているより伸びが速いと言うのはあります。

村上:他に成長戦略として、例えばIoT分野。この分野でアドテクがどう貢献できるとお考えですか?

工藤:屋外広告がデジタルになってインターネットに繋がったり、タクシーの中で時刻や位置情報に合わせてアドが出せるようになったりしていて、今後もいろいろなデバイスがインターネットにつながって広告がデジタルに置き換わっていくだろうとは思います。なので、ある程度は期待していて、その時にいろいろな会社と連携してやっていくんだろうなという展望はあります。例えば、電車の中に配信するなら鉄道会社と連携が必要ですし、今の日本ではいろいろな企業がそれぞれの分野でシェアを持っているので、そういう企業と組んでいくことが大切だと思います。

村上:最後に「世界一を狙う」ための心構えのようなものがあれば教えていただけますか?

工藤:ちゃんと価値のあるものを作っていって、それが受け入れられるから世界に広がっていく。その積み重ねで世界一に到達したいと思います。

村上:本日はありがとうございました。経営チームとして技術や世界にアンテナを張りつつ、中長期の視点を大事に経営に取り組まれているのがよくわかりました。ジーニーの世界戦略、今後も期待しています。