相撲人気に水を差すトラブルが起きた(写真は国技館)

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大相撲の横綱・日馬富士が同じモンゴル出身力士の貴ノ岩の頭をビール瓶で殴ったとされる一件は、角界に暗い影を落としている。

貴ノ岩は「右中頭蓋底骨折」などで入院したが、実はけがをしてからしばらくは秋巡業の出場を続け、取り組みもこなしていた。頭の骨を折ったのなら重傷で、相撲どころではない気がするが、本人は気づかなかったのか。

殴打された後も稽古や巡業出場を続けていた

トラブルが起きたのは、2017年10月25日夜。複数の報道によると、モンゴル人力士による酒席で、貴ノ岩の態度に激昂した日馬富士がビール瓶のほか、素手で殴打を繰り返したとされる。

貴ノ岩は、九州場所を初日から休場しているが、日本相撲協会に診断書が提出されたのは既に場所が始まった11月13日だ。その内容は「1.脳震盪、2.左前頭部裂傷、3.右外耳道炎、4.右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」という。11月15日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)に出演した脳神経外科医の新村核氏によると、頭蓋底骨は脳を下から支える骨で、神経や血管が通る重要な部分だ。亀裂が入れば、これらに障害が起こりかねない。また、交通事故のような相当強い衝撃がないと、骨折しないという。

かなり重度のけがと考えられるが、ひとつ疑問が残る。貴ノ岩が福岡市内の病院に入院したのは11月5日で、けがを負ってから11日後だ。殴打された翌日の10月26日は鳥取市で行われた巡業に参加している。その後、松江市と広島市での巡業にも出場し、特に変わった様子を見た観客はいない。さらに11月2日には、師匠の貴乃花親方らと共に福岡県田川市役所を表敬訪問した。

新村医師は、頭蓋骨骨折と言っても少し亀裂が入って全く問題ないレベルから重傷まで、さまざまだと指摘。「推測ですが」と断ったうえで、初めは軽症で、違和感がありつつも巡業や稽古を続ける中で日数が経過したのではないかと話した。

ビール瓶で殴られれば、尋常でない痛みが伴うのは当然。だが、日々の厳しい稽古に耐えられる体づくりをしている力士は、一般人と比べて相当痛みに強いとも想像できる。ただし、稽古や巡業を重ねれば頭には繰り返し衝撃が与えられ続ける。そのため症状が悪化した可能性はある。

転倒事故から半年たって「頭蓋骨骨折です」

頭蓋骨骨折に本人が気づかない――。意外な気もするが、J-CASTヘルスケア編集部にも似たような経験をした記者がいる。今から30年ほど前、オートバイを運転中に転倒する自損事故を起こした。ヘルメットをかぶっており、幸いすり傷程度だったので、そのまま帰宅したという。医師の診察を受けることもなかった。

ところが事故から半年後、「どうも頭痛がひどく、重い感じ」が気になり、医師のもとを訪れた。頭部エックス線写真を撮った結果、診断は「頭蓋骨にひびが入っています」。線状骨折だった。頭痛を止めるための薬は処方されたが、ひび自体は経過観察、つまり手術など積極的に治療することはなく、自然に治るのを待つしかないとの話だった。その後頭痛は治まり、今も元気だ。

貴ノ岩の頭蓋底骨折とは状況や負傷部位が違うが、先述の新村医師が指摘したように、貴ノ岩も仮に最初は症状が軽かったら気づかなかったかもしれない。髄液漏についても、透明な液体で耳や鼻から漏れるので鼻水と勘違いされるケースもあるという。

ただし、頭部のけがだけに非常に心配だ。相撲を続ける以上は頭からぶつかることは避けられず、症状によっては力士生命にかかわる懸念もある。