昭和の香りただよう東京の「シブいビル」をめぐる
4月下旬にオープンし、話題を集める「GINZA SIX」など、東京には今も続々と新しいビルが誕生している。
スタイリッシュなビル、カッコいい建物、由緒ある建築など、さまざまあるが、東京には“シブいビル”も、ある。
“シブいビル”とはなにか。
昨年発売され、話題となった書籍『シブいビル』にはこうある。
<1964年東京オリンピック前後に建設された 昭和の香りただようビル>(『シブいビル』帯より)
<「ビル」は未来を、都市を、発展を象徴するカッコいい存在>(『シブいビル』より)
そんな時代から約50年。今も残るそれらのビルたちは、時間によって熟成され、なんともいえない雰囲気を醸し出す存在となった。
<いつの間にか建築としての円熟味を増し、シブい味わいを持つようになってきた>(同)
東京散歩をするにはうってつけの季節、シブいビルめぐりというのはどうだろうか。それにあたり、雑誌『東京人』の元副編集長で著者の鈴木さんに聞いた。
時を経てヴィンテージ感を備えた“シブいビル”
まず、シブいビルの魅力とは、どういったところにあるのか。
「60〜70年代ならではのデザイン、工法、建材、インテリアなどが、今見ると新鮮なところ。外観、インテリアなどに手作り感があり、ビル全体もヒューマンスケールで親近感を感じられます」
肝心なのは、この時代に作られたビル全てが“シブいビル”というわけではないということ。
「50年前後の時を経たことによって、ヴィンテージ感ともいえる魅力を備えているものに限ります」
鈴木さんが「これはシブいビルだ!」と感じるポイントは、どんなところだろうか。
「まず、ビルの高さがかつての高さ制限である31メートル以内(8階建て前後)であること。窓の形が、角が丸くなっているラウンドコーナーだったり六角形だったりというもの、またはコルビュジェっぽい水平連続窓のものも多いです。外観、インテリアともにタイル仕上げがよく見られ、ガラスブロックもよく用いられています」
他にもこんなシブいビル的特徴がある。
「1階がエントランスホール、階段周りなどによく見られるモザイクタイル壁画。床がテラゾーという擬石仕上げだったりもします。また、最上層に回転スカイラウンジがあったり、屋外が見通せるシースルーエレベーターがあったりするなど、遊園地的な仕掛けのあるビルも、この時代に多くつくられました」
数あるシブいビルの中でも、お気に入りを聞いた。
「丸の内の『新東京ビル』と『国際ビル』は、外観、エントランスホール、階段など見所がたくさんあります。有楽町の『東京交通会館』や紀尾井町の『ホテルニューオータニ』の回転スカイラウンジから都心の景色を味わうというのも、他では得がたい経験でしょう」
鈴木さんによると、有楽町・新橋エリアは、上記の交通会館をはじめ、「有楽町ビル」「新有楽町ビル」「ニュー新橋ビル」「新橋駅前ビル」など何軒ものシブいビルが集まる「シブビル名所」、ビギナーにもオススメだという。
「シブいビルの世界観を味わうのに絶好の場所です。これらはビル内に入居しているシブい喫茶店、飲食店などおすすめのお店もたくさんあります」
東京のシブいビルをめぐる
そんなお話を参考にしながら、自分でもシブいビルめぐり、してみた。
丸の内の「新東京ビル」と、「国際ビル」。
東京国際フォーラムやKITTEなども近くにありながらも、古くからのビルも立ち並ぶ、景観のいいエリア。
ビルのどこかいかめしくも見える建材やシンプルそうにみえて凝っていそうなつくり、なんとなく「シブい」気がしてくる。
有楽町の「東京交通会館」。
近年は、各地のアンテナショップが入っていることでも人気で、「ちょっと珍しい物産を探す場所」的な使い方もしたりするが、建物そのものに注目すると、また違う魅力を持ったビルとして感じられる。
そして、新橋。
「新橋駅前ビル」。
そして、「ニュー新橋ビル」。
鈴木さんが言う通り、中に入居している飲食店ごと「シブい」。さらにいえば、食事をしているお客さんごと「シブい」。そんな気もする。
単行本「シブいビル」には、他にも、新宿「紀伊國屋ビル」や池袋「ロサ会館」、「目黒区総合庁舎」など、おなじみでありながら「シブい」ビルがたくさん収録されている。
なかには、現在はもう見ることができない銀座「ソニービル」の貴重な写真も。
だんだん、単行本で紹介されていないビルを見ても、「もしかしてこれもシブいビルかな?」と、見慣れたビルも違う見方ができるようになってきたかもしれない
気候的にも散歩するのに心地良いシーズンでもある。東京在住の人はもちろん、東京観光などに訪れた人も、本書を手に「シブいビル」めぐりで、「これはシブい!」と、新たな東京を発見してみては。
(太田サトル)