3月末からしばらく、世間はまさしく「てるみくらぶ狂想曲」といった様相を見せていた。
テレビでも新聞でもネットでもその名前を見ない日はなかった…が、最近は鳴りを潜めつつある。

しかし、だからといって被害者の状況が好転した訳でもなんでもない。
今もなお苦しんだり、返金に奔走したり、諦めたりと、状況はさまざまだ。

かく言う私も、実はその被害者のひとりである。
倒産のほぼ2週間前、てるみくらぶにベトナム旅行大人二名分を申し込んだ。支払金は148,800円。

話題が落ち着いてしまった今だからこそ、当事者として世間に強く広く伝えたいことがある。
そこで、弁護士の方や経営者の方に話を聞きまとめた話を前後編の二回に分けて書くことになった。

前編は、「法的な観点による返金の可能性」だ。

親孝行のつもりが…突如として消えた15万円


日本からベトナムに移り住んで5年半が経ち、経済的にも少しゆとりが出てきたので、親孝行になればと思って両親に来てもらうためにベトナム旅行大人二名分を申し込んだ。一度も利用したことのない旅行会社に申し込んだ理由は、航空券とホテルを自分で直接手配するよりも2割ほど安かったからだ。半日から終日の現地ツアーが複数追加できるプランだったので、そういうビジネスモデルなら自分で案内できるから安く済む、と考えた。

さて、どのような場所を回ろう。両親に自分が住み慣れた街を見せてあげたい。15万円はやはり大金ではあるが、それでも親孝行と割り切ってしまえば安いもの。二ヶ月後を楽しみにしながら、いつもの日々を過ごしていた。

3月25日の早朝、いつものように目覚めと同時に眠気眼でスマホを見ると、父からメールが届いていた。

「ツアー会社を変えて下さい」

え、何事?ベトナム旅行の件??
格安ツアーだからと言って心配しすぎ?そもそもなんで今さら??

少し憤りながら、URLが添付されていたので見てみると画面に表示される「てるみくらぶが発券トラブル」という見出し。え、嘘、2ちゃんねるの怪情報じゃないの?しかし、ソースはテレビの報道で信用度も高い。事態を飲み込んだとともに頭を抱えた、こんなことって、あるのか…。このままツアーが催行されるとしても、不安を抱えたまま両親に来てもらう訳にもいかない。その日の朝のうちにキャンセルのメールを送ったが、三週間以上経った今も返事はない。会社そのものが消滅した今となって、この先も返事は望めないだろう。


返事のないメール。

どうしたもんか。待てよ、そういえば…クレジットカードで払っていたんだった!しかも、ほかで大きな出費もあったので、使用限度額以下に抑えるために分割払いにしていた。よし、今ならまだ間に合うかもしれない!窓口が開く週明けを待って、カード会社に相談することにした。

カード会社に引き落とし中止の相談、結果は…「保留」


窓口が対応す週明けの朝早々に電話をかける。5,6度目のコールで回線につながり、自動音声による案内から2分ほど待ってやっと聴こえる人の声。私と同じようなケースで相談している人が多く、問い合わせが殺到しているのかもしれない。それを裏付けるように一切承知といった印象で、親身に相談に乗っていただいた。会話の内容をまとめるとこうだ。

・てるみくらぶとの契約書類を会社まで送ってほしい
・書類内容の確認後、引き落としは一旦「保留」する
・当然、私以外にも多数の問い合わせを受けているとのこと
・調査と決定には半年間は掛かると思われる ※これは書類確認後に別の担当者とした電話での内容
・全額返金されるか(保留からキャンセル扱いになるか)、一部返金か、または返金されないか、今はまだ分からない。

半年後、私の口座から15万円が引き落とされるか、されないか、または一部引き落とされるか。
望みがあるだけ幾分は良かったのだろうけど、不発弾を抱えてしまった気分になった。

会話中で気になったこととしては、「弊社ではすでに支払い済み」と何度か言われた点。まるで「本来は無関係だが」と前置きされている印象で、そもそも今回のケースに対してカード会社が保障するべきなのかどうなのか私も結論を持ち合わせていなかった。

ここのところを詳しく知りたいと思い、遠藤経営法律事務所の遠藤弁護士に話を伺った。
クレジットカードの返金は、どれほどまで望めるものなのだろうか。

「結論から言えば、カード会社によって返金されるところとされないところがあります。ただし、代金が引き落とされる前であること、分割払いであること、という条件を満たすほど返金の可能性が高まるため、該当する方は一刻も早く返金を申し入れるべきでしょう。カード決済というものは三者間契約であり、(1)申込者と旅行会社(この場合てるみくらぶ)、(2)申込者とクレジットカード会社、(3)クレジットカード会社と旅行会社(この場合てるみくらぶ)、それぞれの契約が発生しています。ここでカード会社からてるみくらぶへの立替払いが完了している以上、カード会社はその後てるみくらぶが破産しようが、原則的には申込者への返金に応じる義務はありません。しかし、たとえばカード会社の立替払い後に申込者が旅行をキャンセルした場合などは立替払いの根拠がなくなるため支払いは取り消され、申込者の口座からカード会社が支払金を引き落とすこともありません。ですが今回は、てるみくらぶが破産してしまったのでキャンセルできていない以上は立替払いの根拠も消えず、カード会社は返金に応じない可能性が高いのです。しかしながら、分割払いなどの一定条件を満たしていれば抗弁権を利用できる場合があり、海外旅行保険の適用がなされる場合もあり、またはカード会社の『運用』として返金に応じる場合もあるため、返金を請求することに意味はあるでしょう。」

とのことだった。
今回は事態が事態なので特例扱いもある、カード払いの方はほぼ対応済みだとは思うが、まだの場合は一刻も早く動こう。

そこで、ないとは思っていたが、てるみくらぶから返金される可能性があるのかどうか伺った。

「てるみくらぶが破産手続きを行っている以上、裁判所によって選出された破産管財人がてるみくらぶの財産を債権者に分配していきます。その債権者にも優先順位があり、『税金の徴収者である国や地方公共団体』『抵当権を設定していた人たち」「管財人など破産の手続を行った人たち」『てるみくらぶのために働いていた人たちの給与』、ここまで来て最後に『旅行代金を支払ってしまった申込者の方々』となります。以上のような理由から、日本旅行業協会やその他、てるみくらぶ以外からお金を受け取る手段が無い限り、申込者が返金を受けることは現実的ではないでしょう。」

上記を踏まえた上でまとめると、「カードで支払っている人は今すぐカード会社に電話、しかし引き落とし前か分割払いかによって返金の可能性は変わる。カード会社の運用によって対応もさまざま。」ということだ。ただ、話題が落ち着いた今、引き落とし前だという人はもういないだろうが、それこそケツの毛まで抜かれるてるみくらぶを恨むより、カード会社の運用に望みを賭けて問い合わせる方が幾分はマシと言えるだろう。

後編は、被害者に対してまるでシュプレヒコールのごとく叫ばれつづける「安物買いの銭失い」という言葉について考えたい。今ひとつだけ言うならば、そもそも被害者は銭を失う以前に安物すら買えておらず、この言葉を使うにはあまりに前提が間違っていると考えている。では、なぜ銭を失ったか。原因は単純で、てるみくらぶが石につまづくだけで転がり落ちる自転車操業だったからだ。
(ネルソン水嶋)