華麗に踊るムーミン。小首をかしげたりと全身で愛らしさを表現するスノークのおじょうさん。2人が寄り添って繰り広げる“パ・ド・ドゥ”(※男女2人の組み合わせの踊り)。躍動感あふれる動きを見せる、スナフキンやちびのミイ、スニフたち……。


最近は映画だったり、アニメやゲームを原作にした“2.5次元”舞台で「まさかこれが再現されるとは!?」という作品に出会えることがあるが、そんな衝撃と感動を覚えること間違いナシなのが4月22日から行われているフィンランド国立バレエ団の公演『たのしいムーミン一家 〜ムーミンと魔法使いの帽子〜』だ。


フィンランド生まれで母国の国民的な人気キャラクターであるムーミンを、名門・フィンランド国立バレエ団が2015年に初めてバレエ化。第1作『ムーミン谷の彗星』のキュート(&シュール)さは、ここ日本のネット界隈でも大いに話題を呼んだ。

ムーミンたちを主人公にした小説『楽しいムーミン一家』をベースにした今回の『たのしいムーミン一家 〜ムーミンと魔法使いの帽子〜』は、ここ日本で初めて幕を開ける世界初演作品。しかも子供向けに演出されていた2015年の『ムーミン谷の彗星』とは異なり、大人のムーミンファンも楽しめるような世界観になっているという。一体どんな内容なのか、Bunkamuraオーチャードホールで確かめてきた。

※本国フィンランドで行われたリハーサルの様子。日本では上演順が変更になっている。

今回の公演は2部構成になっていて、一部がクラシカルな作品から現代的な作品までを組み合わせた、バレエの魅力に親しめる『北欧バレエ・ガラ』、二部が『たのしいムーミン一家 〜ムーミンと魔法使いの帽子〜』になっている。
劇場に入ると、バレエダンサーの顔ハメを発見! 正統派なのになぜか漂うゆるいニュアンスに期待感が高まる……ちなみに2階ロビーにも記念撮影用の巨大パネルが用意されていた。


グッズコーナーに並ぶさまざまなムーミングッズの中には、日本公演だけの限定アイテムも。Tシャツ(白/ピンク/黒の3種類)各3000円やトートバッグ(生成り/黒)各1800円、キーホルダー(4種類)各600円(すべて税込)があり、特にキャラクターが選べるキーホルダーなどは全部集めたくなるかわいさだ。



かなり見応えありな『北欧バレエ・ガラ』


まず一部の『北欧バレエ・ガラ』がスタート。こちらは定番中の定番『白鳥の湖』などからの一幕や現代的なコンテンポラリー作品など、人気作品の見どころをピックアップした構成になっていて、バレエやダンスにそれほど明るくなくても楽しめるのがうれしい。
例えば男女ダンサーが二人羽織のようにぴたりと寄り添って踊る『レンミンカイネン組曲』の“トゥオネラの白鳥”では、「人間の体ってこんなに曲がるんです?」と思うほどアクロバティックな組み技に驚かされる。かと思えばバレエ『悲愴』の一幕では、ふわふわのチュチュをまとった白塗り&スキンヘッドの男性ダンサーがコミカルな動きを交えた“舞い”を披露したりもする。

もちろん32回のフェッテ(※片足連続回転)といった、素人目にも超絶なテクニックが次々と繰り出される『ドン・キホーテ』の“グラン・パ・ド・ドゥ”などのクラシカルな作品も、かなり見ごたえがあるのだ。

いよいよムーミンバレエ開幕! 動きは意外にダイナミック



さて休憩を挟み、いよいよ『たのしいムーミン一家〜』の幕が開いた。
白い布のようなものが敷き詰められた舞台にはベッドがあり、ムーミンたちが冬眠をしているシーンからスタートする。
真っ白な衣装の雪の精たちがやがて去り、季節は春へ。

ちびのミイがムーミン一家を起こし、スノークのおじょうさんがやってきたりとムーミン家は急ににぎやかに。
朝ごはんを作りながら、ムーミン&スノークのおじょうさん、ムーミンパパ&ママ、ミイとスニフの3組で和やかなパ・ド・ドゥを披露する一家。
冬眠から目覚めてまずは新聞を読むムーミンパパ、パンケーキの生地をあわ立てながら上機嫌なムーミンママ。ちょこまかと動き回るミイや食いしん坊のスニフ。このシーン、なぜかいい香りが漂ってきそうだ……!


ストーリーのカギの一つとなるのは、タイトルにもある“帽子”。ある日ミイが見つけた帽子をスニフの顔にかぶせると、鼻がトナカイのように突然赤く光った……!? 実はこの帽子はあらゆるものの姿を変えてしまう不思議な帽子なのだが、旅から戻ったスナフキンを含めた一家のみんなが、この帽子の引き起こす数々の不思議なできごとに巻き込まれていく。


そしてもう一つのストーリーのカギになるのが“ルビー”。スニフが森で見つけた大きく美しいルビーを探して、巨体の魔物・モランなど“招かれざる客”が次々とムーミン谷へやってくる。果たしてルビーは誰の手に渡るのだろうか?


愛嬌あふれるキャラクターたちの意外にダイナミックな動きや、季節を表現する衣装をまとったダンサーたちの優雅さ、セリフはなくても伝わるムーミンとスノークのおじょうさんのラブラブ感など、カラフルで多幸感あふれる演出の数々にはとてもワクワクさせられた。


ちなみに世界21カ国のダンサーが所属している同バレエ団から、日替わりキャストとしてスノークのおじょうさん役で小守麻衣さん、ルビー役で松根花子さんという日本人ダンサーが出演するのも気になるニュース。
入団17年目になる小守さんはあるインタビューで、この公演ではトウシューズを履いた上から全身モコモコの衣装を着るため「普段は舞台を踏みしめて体を支えるので、足元がおぼつかない気持ちになります」と語っていて、熟練のバレエダンサーにとっても実は難易度の高いパフォーマンスなのだという。


東京公演は4月25日で終わってしまうが、まだGW中の大阪公演が残っている。ムーミンファンはもちろん、気軽にバレエを楽しんでみたい人にも全力でおすすめしたい作品だ。
(古知屋ジュン)

●フィンランド国立バレエ団
一部:たのしいムーミン一家 〜ムーミンと魔法使いの帽子
二部:北欧バレエ・ガラ
【東京公演】
会場:Bunkamuraオーチャードホール
開催日時:4月25日(火)13:00
料金:S 9,000円 A 7,000円 B 5,000円 こどもS席 4,500円(全席指定)

【大阪公演】
会場:フェスティバルホール
開催日時:4月29日(土・祝)17:00・4月30日(日)13:00
料金:S 9,000円 A 7,500円 B 6,000円 C 4,500円 BOX11,500円(全席指定)
※東京公演、大阪公演ともに4歳未満のお子様は入場不可。