ゴーン氏が日産CEOを退任しました。経営危機に陥っていた日産はこの18年間でどのように息を吹き返し、そしてどう変化したのでしょうか。

カルロス・ゴーン氏、日産CEOを退任

 2017年2月23日(木)、日産は同社CEOがカルロス・ゴーン氏から西川廣人氏に変わることを発表しました。ゴーン氏は引退ではなく、ルノー・日産・三菱自動車のアライアンス全体を率いることに。つまり、階段をさらに一歩上に上がったのです。

2014年6月、日産自動車の第115回定時株主総会に臨むカルロス・ゴーン氏(画像:日産自動車)。

 そんなゴーン氏の率いる、ルノー・日産・三菱自動車のアライアンスにおける2016年の自動車販売数は約996万台でした。気がつけば、業界トップ2のフォルクスワーゲン(1031万台)とトヨタ(1017万台)に、あと少しで手が届くところまできています。カルロス・ゴーン氏が日産にやってきた1999(平成11)年のころを考えれば、なんという違いでしょう。当時の日産は、まさに倒産寸前だったのです。

 ゴーン氏がやってくる直前の日産の「1998年の実績(見込み)と1999年の計画」には、当時の日産は年間約280万台を生産し、そのうち約100万台を日本国内で販売していることが記されています。しかし、1998(平成10)年の生産は前年比マイナス8.6%、国内販売はマイナス13%という非常に厳しい状況です。国内シェアは約20%。かつてはトヨタと覇を争っていた日産ですが、90年代は日産にとって没落の時代となっていたのです。

わずか1年でのV字回復、ゴーン氏はなにをなしたか

 ゴーン氏が日産にやってきた半年後の1999(平成11)年10月に、「日産リバイバル・プラン」が発表されます。1兆円のコスト削減や工場閉鎖など、文字通りにリストラの嵐。当時、ゴーン氏が「コストカッター」と呼ばれたのも無理のない内容でした。

 ただ、いま資料を読めば、プラットフォームが24もあったり、工場稼働率がわずかに53%だったりと、経営危機も仕方ないと思わせるような効率の悪さです。ちなみに、1999年のルノー・日産アライアンスの年間生産台数は480万台でした。

 そしてゴーン氏は辣腕をふるい、2000(平成12)年度の決算で、日産はいきなり過去最高の3311億円の利益を叩き出したのです。わずか1年でのV字回復には、誰もが驚きました。

日産「ジューク」は2010年6月9日、日本国内販売開始(画像:日産自動車)。

 それから日産は、プラットフォームの整理をどしどしと進めます。「サニー」や「パルサー」「プリメーラ」「ステージア」「アベニール」「ラシーン」といったクルマたちはいなくなりました。「セドリック/グロリア」や「ブルーバード」といった歴史ある車名も刷新されています。しかし、「フェアレディZ」や「GT-R」「スカイライン」といった伝統の車名は大切に守られています。また、「エクストレイル」や「ジューク」といった新しいヒット車も生まれました。世界に先がけて電気自動車の「リーフ」もリリースされています。国内導入はできませんでしたが、世界市場に「インフィニティ」ブランドを定着させることにも成功しています。また、中国市場など、世界進出も積極的に行いました。

グローバル企業への成長と、その一方で失ったものとは

 2017年現在の日産はどうなったでしょうか。2016年の実績を見ると、年間生産台数は約555万台。会社の規模は2倍に成長しました。三菱自動車をアライアンスに加えることで、世界3位のポジションも手に入れています。ゴーン氏は18年の日産在籍で、大きな成果を残したのです。

インフィニティ「Q60」の2017年モデル(画像:日産自動車)。

 一方、日本市場はどうでしょうか。日産の2016年の国内販売は約38.5万台。軽自動車を含むと約53万台です。シェアは11%から12%程度。かつては100万台を国内で販売し、シェア20%を誇った日産としては寂しい数字です。世界での成長を横目に、日本市場は縮小してしまいました。

 ただし、日本市場自体の元気のなさも理由のひとつでしょう。1990年代の後半の日本は、年間500万台もクルマが売れていました。しかし、現在は320万台規模。全体のパイ自体が小さくなっているのです。斜陽の日本市場はそこそこに、グローバルで儲けるという会社に日産を育てたのがゴーン氏の仕事だったのでしょう。

 経営者としては正しいのかもしれませんが、日本に住む人間としては、もう少し日本市場に力を入れてほしいものだと思うのが正直なところです。

【写真】日産新CEOの西川廣人氏

西川(さいかわ)氏は1977年に日産へ入社、2017年4月1日より同社社長兼最高経営責任者(CEO)に就任する。2017年3月現在、日本自動車工業会の会長も務めている(画像:日産自動車)。