高評価にも関わらず、視聴率では苦戦の『カルテット』(公式HPより)

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 1月クールスタートの連続ドラマのなかで、専門家の間で絶賛されている作品が『カルテット』(TBS系)だ。前評判も高く、また、大ブームとなり最高視聴率20.8%を記録した『逃げるは恥だが役に立つ』の後番組であることから、高視聴率が期待されたが、ふたを開けてみれば、初回9.8%といきなりの10%割れでスタート。その後も、3回目7.8%、4回目7.2%と下落傾向に歯止めがかからない。抜群の評価でありながら、視聴率がとれないのはなぜか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんは3つの理由があるという。ズバリ解説する。

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『カルテット』は、松たか子さん、満島ひかりさん、高橋一生さん、松田龍平さんという4人もの演技派が共演し、脚本に坂元裕二さん、演出に土井裕泰さんと業界屈指の実力者をそろえただけあり、ドラマ通たちが絶賛。先日、コラムニスト、ドラマ評論家、テレビ誌編集長などのいわゆる“ドラマ識者”が集まる場で話をしたときも、ほぼ全員が「イチオシ作品」に挙げていました。

 また、『テレビジョン』発表(角川アスキー総合研究所調べ)の「視聴熱ランキング」(Twitterでつぶやかれた数)でも、全ドラマ中トップを記録するなど視聴者の反応も活発で、しかもほめ称える声がほとんど。なかには、「私的には『逃げ恥』よりも面白いのに、何でこんなに視聴率が低いの?」という疑問の声も少なくありません。

◇「全員片想い」、「全員嘘つき」…内容がつかみにくい?

『カルテット』の視聴率が上がらない理由は、主に以下の3点。

 1つ目の理由は、「これ」というテーマがつかみにくい作品であること。「全員片想い」のラブストーリーであり、「全員嘘つき」のサスペンスであり、会話劇のコメディのようでもあり、現時点では「どんな目的でどんなゴールに向かって進んでいるのか」、つかみにくいところがあります。

これは、あえてテーマをぼかしてさまざまな伏線を見せることで、「こういうことだったのか」という終盤のカタルシスを高めるための狙い。ただ、前期放送された『逃げ恥』の契約結婚、現在同じ火曜に放送されている『噓の戦争』(フジテレビ系)の復讐劇と比べると複雑で集中力と思考能力を必要とするため、「ハードルが高い」という印象を持たれているのでしょう。

◇リアルタイム視聴ではなく、録画されやすい坂元裕二作品

 2つ目の理由は、録画されやすいコンテンツであること。視聴者の多くは坂元裕二さんのつむぐセリフの面白さに期待していて、それを「聞き逃したくない」「繰り返し聞きたい」ため、リアルタイム視聴ではなく、録画視聴を選ぶ傾向が強いのです。

「唐揚げ洗える? レモンするってことは不可逆なんだよ。二度とは戻れない」「ふだんは僕がノーパンなのか、アリパンなのか認識してないでしょ?」「告白は子どもがすることですよ。大人は誘惑してください」「泣きながらご飯食べたことがある人は生きていけます」などの練られたセリフは、落ち着いて見られる日時を選んでじっくり楽しみたいもの。録画視聴が増えるのは、作品に対する愛着と信頼に他なりません。

 もともと坂元裕二さんの作品は、『Mother』『Woman』(日本テレビ系)、『最高の離婚』『問題のあるレストラン』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)など、視聴率は1桁から良くても10%前半。「サクッと見られて視聴率が高い」作品ではなく、「録画してじっくり見たいから視聴率が下がる」作品であり、数字よりも心に刺さる深さで支持を集めてきました。

 また、昨年から火曜22時は録画視聴の傾向が強いドラマ枠。実際、前期の『逃げ恥』もフィーバー前の初回から、視聴率10.2%をタイムシフト(録画)視聴率10.6%が上回る異例の事態が起きていました。各局のテレビマンたちは密かに驚き、のちの大ヒットを予想する声が密かに上がっていたのです。

◇SNSをフル活用した「逃げ恥」とのPR戦略の違い

 3つ目の理由は、番組PRの違い。『逃げ恥』があれほど社会的なブームになったのは、「脚本・演出・キャストなどが高品質だったから」だけではありません。これまでも高品質の作品はありましたが、『逃げ恥』だけが社会的なブームになったのは、PRが飛び抜けて凄かったからです。

 まずはベースとなるTwitter、Facebook、Instagram、LINEと4つのSNSをフル活用。出演者を次々に登場させたほか、恋ダンスや毎話10数分のダイジェスト動画を作って、視聴者がシェアで拡散しやすい状況を整えていました。同時にそれを見たネットメディアも食いつき、次々に記事をアップ。「シェアや記事をドラマ未視聴の人々が見て、リアルタイム視聴につなげる」というネット上で新規視聴者を作るサイクルが機能していたのです。

 その他にも、クックパッド、横浜市、日産とコラボするなど、テレビ視聴者以外との接触場所を増やして、視聴率につなげていました。これまでドラマのPRと言えば、自局番組にキャストを出演させて、「見てくれ」と押しつける形がほとんど。ネットやスマホの普及でテレビの優先順位が下がりつつある今、もはやこの形では大きなPR効果は期待できません。

 テレビ局に求められているのは、押しつけるのではなく、『逃げ恥』のように「これは面白い」と視聴者に広めてもらうためのPR。しかし、今期の『カルテット』はまだそれができていないため、認知度が思うように広がっていかないのです。

 高品質のドラマを作ることと、レコメンドしてもらうためのPR。この両輪がそろわなくても高視聴率が期待できるのは、今や数十年の歴史を持ち、「この時間帯はドラマを見る」という固定ファンのいるTBSの『日曜劇場』と日本テレビの『水曜ドラマ』だけなのです。

 今後も視聴率が劇的に上がることは予想しにくいものの、心に刺さる深さは増す一方。『カルテット』は、最後まで見続けた人にとって長年の記憶に残るドラマとなることは間違いないでしょう。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。