鈴木拡樹「舞台の上で、“初恋”をしたい」――舞台『あずみ〜戦国編』に懸ける思い
取材が行われたのは、公演のヒット祈願&制作会見が開かれた都心の神社。せっかくなので“神社デート”をコンセプトに写真を撮影させてもらったが、鈴木拡樹は「ちょっと僕にはレベルが高すぎるのではないかと…」と弱気な笑みを浮かべる。舞台上で誰よりも躍動するこの男だが、こと恋愛に関してはプライベートはおろか、作品中でさえ「いまだに苦手意識がある(苦笑)」のだという。舞台『あずみ〜戦国編』ではヒロインへの切ない恋心が重要な要素となっており、「舞台上で初恋したいと思います!」と強い意気込みを口にするが果たして…。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



学生時代は、「歴史」が苦手だったけれど…



――普段、神社に足を運ぶ機会はありますか?

ほとんどないんですよね。今日の会見も普段とは違う雰囲気で緊張しました。ヒット祈願で玉串の奉納もさせていただいたんですが、説明を伺っていてこんなに細かいのかと驚きました。

――では神社デートへの道のりは…。

ちょっとまだ僕には早いんじゃないかと思います(苦笑)。もうちょっと、ビギナーのレベルのシチュエーションからお願いできれば…。というか、神社デートを成功させられる人ってなかなかいなくないですか?(笑)

――歴史好きの女の子なら喜ぶんじゃないでしょうか? 今回の『あずみ』も時代劇ですし、これまでも歴史上の人物を何度も演じていますが、鈴木さんご自身は歴史はお好きですか?

学生時代は歴史はてんでダメで、そもそも興味が持てなかったんです。ただ、最近、役作りのために事前に調べものをするようになったんですが、歴史上の出来事って、複数の説があることが多いじゃないですか? そこに惹かれて歴史に興味を持つようになってきたんですよね。




――なるほど。

ひとつの事件、出来事に対して、何通りも解釈がある。当たり前のように教科書に書いてあったり、授業で習ったことについて、実はこんな説もあって…というのが面白い。台本と照らし合わせつつ、今回の物語では、こっちの説に沿って演じたほうが面白いんじゃないか? とか、意外な説を役柄のニュアンスに取り入れてみたり。

――人物像に関しても、解釈は作品、演じる人によってさまざまですが、自分が演じた歴史上の人物を、他の俳優さんが別作品で演じていると、気になりますか?

TVドラマなどでやってたら、間違いなくチャンネルをザッピングする手が止まりますね(笑)。ついつい見ちゃいます。演じた後よりも、まず作品に入る前に、これまでにどなたがどんな作品で、どうやって演じていたのかなどを調べることが多いです。

――ときに突拍子のない、ユニークな解釈も存在しますね。

現在ではどの説が有力なのか? 逆にマニアックな説やレアな解釈がどんなふうに盛り上がっているのかを調べるのも、すごく好きです。芝居として見せる上で、どちらのほうが盛り上がるのか? ということも考えます。

――有力な説だから採用するわけではなく…。

メジャーな解釈がいいとは限らないし、むしろ新たな解釈を知っていただく機会にもつながると思います。まさに歴史のそういうところに僕自身、惹かれたわけで、同じように感じてもらえたら、その作品をやる意味がもうひとつ増えるなと思っています。

――そこまで歴史に熱いなら、十分、神社デートに応用できそうな気もしますが…。

大丈夫ですかね? デート後に親友に「神社連れて行かれてうんちくを聞かされて、ちょっとありえないんだけど…」とか愚痴られないか、心配なんですけど…(苦笑)。




役に「なりきる」のではなく「寄り添う」



――今回の作品について伺う前に、鈴木さんの役作りについてお聞きしたいんですが、以前のインタビューで「役になりきるのではなく、寄り添う」ということをおっしゃっていたのが印象的でした。その点について、深くお伺いしたいのですが。

僕も、以前は役になりきっているつもりで演じてたんですよ。でも、ふと考えたとき“なりきる”というワードがしっくりこないことに気づいて…。どういうことなのか? と考えていくうちに、なりきるのではなく、一番身近な存在になろうとしているというのが一番近いんじゃないか? と思い当たったんです。

――まさに“寄り添う”ですね。

その人物のことを、一番よく知ってる――難しいんですが、友達よりは上じゃないといけないけど、じゃあ本人になれるかというと、惜しい感覚で違う気がするんですよね…。その微妙なラインでいい距離感を保って演じたときに、よい評価をいただけることが多くて、この方向性で研究し、極めていけば面白いことができるのかなと思っています。

――もしかしたら、そのアプローチは、普段の鈴木さん自身の、他人との距離の取り方と近いのではないでしょうか? ガツンと距離を縮めたり、他人の領域に乱暴に入り込むのではなく…。

おっしゃる通りだと思います(笑)。やっぱり、性格が出ちゃうんでしょうかね…?



――他人に対しての誠実さが、役柄に対しても同じように出ているんだと思います。今回の『あずみ〜戦国編』は、人気漫画を原作に、過酷な運命を背負い、乱世に身を投じる忍びたちの戦い、青春を描いています。鈴木さんが演じるうきはは、ヒロインのあずみ(川栄李奈)と共に戦う忍びですね。

いまの時点で、まだ完璧に「こうしたい」という全体像があるわけではないんですが、バラバラのパーツで「こういう要素を入れていけたら…」と考えているものはあります。

――現時点でのイメージで構いませんので、ぜひ教えてください。

まず、戦国時代ということで、“生きるか死ぬか”という問題があります。その中で、それぞれの人物ごとに“生きる”ということの意味が異なるんですね。あずみは「生きるって何だろう?」という疑問の答えを探している人物。一方で、うきはにとって、生きるとは「大切な存在を守る」ということです。



――うきはにとって、大切な存在とは、ずっと見守り続けてきたあずみですね?

あずみを想い、彼女のために命を懸ける――それって、現代社会では頭で考えても、難しいことですよね? だからこそ、役者として「命を懸ける」という表現に挑戦したい。どこまでその本気を伝えられるか? 勝負ですね。その愛の大きさによって、あずみが素敵に見えたらいいなと思ってます。もうひとつは、年齢の壁ですね。

――年齢の壁?

うきはは、おそらく10代で、現代の感覚で言えば、子どもっぽい描き方もできるんでしょうが、当時の時代で考えると、すでに大人と見なされる年齢に入っているんですよね。だから、現代の同年代よりも強い責任感を持っていたり、大人びたところがあると思います。

――当時は、10代の半ばで元服(=大人になるための儀式)しますからね。

その大人びた空気を繊細に表現することで、ふとした瞬間の、ちょっとした子どもっぽい行動で「あぁ、そうは言っても、まだ10代なんだよね」とお客さんに感じてほしいんですよね。もうひとつ、マニアックな部分では“足音”も大切にしたい。足音を“消す”部分ではなく、あえて“鳴らす”ところに意味を持たせたいと思っています。



――精神的な部分から肉体性まで、複数のパーツから、うきはを作り上げようとされてるんですね。

このバラバラのパーツが、稽古で徐々につながってくると思います。まずは稽古場で、岡村(俊一)さんの演出の空気感を吸収して、作り上げていきたいです。

――最初に挙げてくださった要素――うきはのあずみへの想いは、現代を生きる観客にとっても、最も共感しやすい感情であり、楽しみにしている部分だと思います。

僕にとってはそこは決して得意分野ではなく、むしろ苦手なところであり…。正直、最初にプロットや設定を聞いて「大丈夫か、俺?」って(苦笑)。でも、そこで負けちゃうと、この作品、厳しいので、自分の中で勝負だなと思ってます。

――文字では伝わりづらいかと思いますが、先ほどから、恋愛に関わる受け答えになると、一気に声のトーンとボリュームが落ちますね(笑)。

…(苦笑)。ただ、うきはもたぶん、恋愛は苦手でしょうし、感情をどストレートに出せるタイプではないと思うんです。そういう意味で、うきはのピュアさがいい感じで出せれば…。

――確かに、鈴木さんとうきはの、控えめな恋愛スタンスは似ているようですね。

理想的なカッコいい男性像というよりも、ちょっとダサい部分があったりして(笑)、でもそれが実は、うきはの魅力につながるんじゃないかとも思うんです。舞台の上で、しっかりと“初恋”をしたいと思ってます!