吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSのメンバーのなかで一番成功してるのは僕なんで(キッパリ)」(3)

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 プロインタビュアー吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。アイドルグループBiS、BiSHなどのプロデューサーである渡辺淳之介さんをゲストに迎えてエクストリームすぎるプロデュース論を聞いたインタビューも今回が最終回。BiSとは違うBiSHの育成法、ライブなどについて聞きました!

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■お金をメンバーに還元し、グループをよりお茶の間に広げるために

──BiS解散後、いま手掛けている後継グループのBiSHはかなり平和になったように思えるんですけど、やっぱりBiS時代の反省は相当したわけですよね。

渡辺 しましたね、完全に。

──メンバーをあまり追い込みすぎてはいけないんだな、とか。

渡辺 はい、だからいまは嫌われないようにしてます。

──まずそこ(笑)。

渡辺 まずメンバーに嫌われないようにっていうところと、あとお客さんにも嫌われないように。

──そしてメンバーにもいい給料を払おうっていう。

渡辺 そうですね。ただ、それは会社の問題だったんで、もともと僕が独立した理由もそこだったんです。ホントは僕はつばさにいたほうがよかったんですけど。

──ただ、どうしても会社組織だから、会社のいろんな人を食べさせなきゃいけない以上、BiSがあれだけ体を張っているのにそんなにお金がもらえない状況ができちゃって。

渡辺 そうなんですよ。僕はつばさのなかでは最終的には優遇してもらって好きなものも買えたし全然よかったんですけど、メンバーだけはかわいそうだったんで、だったら違う組織を自分で作ってやったほうがいいんじゃないかって。

──BiSみたいなやり方していると笑顔が見れないということに気づいて、BiSHには優しくして、お金もちゃんと払って追い込まないようにしてるのはすごくいい話だと思うんですけど、BiSの辞めたメンバーは怒るだろうなと思って。「なぜ体を張った私たちは報われなくて、体を張ってないBiSHが!」みたいな。

渡辺 まあ、怒らないんじゃないですか? だって、いまだに辞めたメンバーたちBiSの名前を使ってるじゃないですか。BiSが嫌で嫌でしょうがなくて辞めたはずなのに、何おまえ使ってんだよ、みたいな。何人かのメンバーは「もう芸能活動はしません」とか言ってたのに、舌の根も乾かないうちに「元BiSです」って、嘘でしょみたいな感じでしたけど。

──BiSに複雑な感情はあるだろうけど、ちゃんと利用してるじゃねえかよ、と。

渡辺 だし、それやったらダサいのもよくわかってるだろうから。あとすごい残念な話ですけど、BiSのメンバーのなかで一番成功してるのは僕なんで(キッパリ)。たぶんふつうの人間であれば、僕についてきとけばよかったかなって思うんじゃないかな。でも、BiSはあそこまでしかいけなかったんですよ。

──横浜アリーナまでいったとはいえ。

渡辺 なので、その失敗を活かしつつ、僕というハードが前よりは強くなったので、このハードを使ってもっと売れるには、もっと薄いものをやらないとお茶の間に広がっていかないということに気づいたんですよ。

──あそこまで濃いと、ちょっと好き嫌いが分かれる。

渡辺 そう、好き嫌いが分かれちゃいけないんだって気づいて。でも最初は、ホントに始めたときのクソインディーズの素人のときは、嫌われないと客が増えなかったんですけど、いまは嫌われると逆に客が減る状況になっちゃったんで、意味わかんないんですけどね。僕がやってたエクストリームなものを好きでみんなが観てるはずなのに。

──エクストリームすぎる、みたいな反応になって。

渡辺 はい。おかしいな、みんなもう一回それを求めるんじゃないんだ、みたいな感じはすごいしますね。



■ステージ上は聖域だから客席とは一線を引きたい

──BiSが与えた影響としては、運営&お客さんが目立ちすぎるようになってきたって面もあると思うんですけど。

渡辺 いまウチはもうあきらかに「お客さんは主役じゃない!」って言い放ってるグループだと思うんですけど。リフト(オールスタンディングのライブ会場で客が他の客を高く持ち上げる行為)が禁止だったりとか。あと最たる例だなと思うんですけど、誕生日に近いライブとかになぜかお客さんが演出を加えてくるんですよ。

──そういう文化ですよね、アイドル界は。

渡辺 こないだも「●●さんを呼んでます、ゲストパスを出してください。で、ステージ上に登場させたい」って言われて、「おい、ちょっと待って。なんでステージ上の話をお客さんに決められなきゃいけないんだ!」と。

──ステージ上のことはお客さんに関わらせたくないんですね。

渡辺 ステージはステージ、客席は客席、線は引きたいですね。

──お客さんが暴走するのはBiSによって生まれた文化だと思ってるんですけど、渡辺さんはそこには一線を引きたいわけですね。<

渡辺 そうですね。BiSによって生まれたのかもしれないですけど、BiSでも、それこそ「生誕で●●さんを呼んでステージに上げたい」って言われて断ったんですよ。「ふざけんな、おまえらがフロアで何かやることに対して俺らは文句は言わない。だけど、なぜおまえらが勝手に●●さんを呼んでメンバーの生誕を祝わせる演出をするんだ!」って。だから基本的にスタンスは変わってないんですよ。やるんだったらフロア上で勝手にやれ、と。それはたしかにお客さんの自由なんですけど、ステージ上は聖域だっていうことで。たぶん結構セットリストとか伝えちゃうアイドル運営がいるんだろうなと思うんですけど、僕たちは公開したことはないし、BiSのときから徹底してやってはいるんですけどね。

──自由にさせてくれるところがあるから、そういうものだと思ってるんでしょうね。

渡辺 そんなヤツらが売れるわけないじゃないですか。でんぱ組も絶対に教えてないですよ。だから、BiSが弱いものが好きな人たちの集合体だとしたら、BiSHっていうのは強いものが好きな人の集合体にしたいんですよ。

──客層もあんまりかぶってないですよね。

渡辺 でんぱ組とかは多分最初は弱い側だったんですけど、強い側にシフトしたんですよね。だから、こっちじゃないとダメなんだなと思って。

──それが一般に届くようなやり方なんじゃないか、と。

渡辺 はい。あと僕を正当化するわけじゃないですけど、だったらもっとエクストリームに追い込まないと僕みたいにはならないと思うんですよ。それが正解かどうかは別として、僕がいまこの状況にいられるのはBiSがエクストリームなことをやってきたからなので。いい勉強させていただいて、いい踏み台になってくれたのがBiSで。でも、僕は常に言ってましたからね、BiSのメンバーにも「これはおまえらがジャンプするための踏み台なんだから、常に考えろ。おまえがこのあと何をするのか」。それこそ寺嶋由芙も、ゆるキャラのタレントになりたいって言ったんで、最初はOTOTOYの連載を彼女にあげてそれをやらせてあげて。で、彼女はすごい頑張ったのでゆるキャラ大使みたいになれた。僕的には一応そういうものは与えてるんですよ。逆に「OTOTOYで連載をやりたい」って言ったテンテンコは締切を守らなかったんで、それは潰したんです。締切を守らないヤツはいらないって。僕はBiSのメンバーのなかでは一番気持ちよく踏み台にしたと思う。

──ちなみにBiSのラストライブには行くべきだって由芙さんを説得したこともあったんですよ。

渡辺 ああ、やっぱりダメだったですか?

──全然ダメでしたね。

渡辺 全然ダメなんだ。ホントにあいつも超いいヤツだなと思ったんですけど、ちゃんと花出してくれて。だから、その花もちゃんとみんなが客席に入りやすいエレベーターの一番前に置いてあげたんですよ、宣伝してあげようと思って。花を出すぐらいだったら来ればいいのになって思いますけどね。まあ、それはこっちの理論なんでなんとも言えないですけど。

──由芙さんとしては「向こうがちゃんと公式な場で謝罪しない限りはありえません」みたいなことでしたね。

渡辺 何を謝罪しなきゃいけないのかわからない(笑)。なんか、やっぱりいけないことがあったんだな。

──確実にあったんだと思いますよ!

渡辺 おもしろかったですよ(笑)。頭いい子だと思ってたんで、そこまで追い込んじゃったんだなとは思いましたけどね。



■悪口を言うとバカに見えるし、信頼されない

──それぐらいボロボロだったグループが横浜アリーナまでいって、渡辺さんがいま自分の本を出すまでになってるのが単純にすごいですけどね。

渡辺 ホント、必然だった気もしますし、偶然だった気もするんですけど、とにかく自分を売るということに関してはブレてないので、自分に損か得かでしか動いてないんです。そこはBiSの元メンバーたちは視野がすごく狭かったんだろうなと思うんですよ。僕は統括して見なきゃいけない立場だったのもあるんですけど視野が広かったので、どうやったら損か得かを考えてきた。たとえば去年の『TIF』にBiSHが出られなくなりました(観客が暴れすぎて出演がキャンセルになった)けど、僕たちは「ありがとう」しか言ってないんで。そういうことだろうなと思うんですよね。

──わざわざそこで悪口を言う必要はない、と。

渡辺 それを言っちゃう人がいま多いと思うんですよ。人を食ったみたいな感じにしたほうが頭よく見えるのに、残念だなって。そこをホントに赤裸々に書いちゃうアイドルの運営もいるじゃないですか。なんでそこ書いちゃうんだろう。笑顔で送り出してあげようよ、みたいな。俺は言わないっていうのが自分のスタンスで。そこがファンからするとすごく信頼してくれた部分なんじゃないかなっていう気はしてるんですよね。悪口を言うと信頼されないと思うんですよ。それは全部狙ってやってるんで、嫌なヤツなんですけど(笑)。

──問題あるはずの人なんですけど、そのへんのバランスがうまいというか。

渡辺 そうだと思いますね。僕がうまいのはそこなんでしょうね。もちろん悪口は言いますけど、表立ったときはポジティブな話しかしないっていうのが一番なのかなと思っていて。

──ボクも、どれだけ揉めた相手でも悪口は言わないのがモットーなんですよ。

渡辺 悪口を言うと絶対的にバカに見えるんですよ。感情論になった瞬間にどっちもバカになっちゃうんで。僕もいろいろ言われて、たまに言い返すときあるんですけど、それもどうやってポジティブに持っていこうかなっていうところで考えてますね。

──最近、女子大生刺傷事件絡みでフジテレビでコメントして、全然違うことが放送されたことがあったんですけど、それをフジテレビ批判として利用しようとする人が多いのがすごく嫌で。ボクはフジテレビを批判する気もないし、「ボクの言ったこととは違いますよ」って説明しただけで。

渡辺 あのときBiSHにも、めっちゃコメント依頼きたんですよ。全部断ったんですけど。BiSだったら全部ホイホイ受けてたと思うんですけど。「でもウチの番組、視聴率ありますよ」とか言ってきたんで、「僕たちそういう過激なこととかやってないから。代わりにBiSの誰か出しますよ」って言ったら、「いやBiSHさんがいいんです」って。

──いまだにBiSのハグ会とか話題になったりしますからね。

渡辺 そうなんですよ。こっちとしては全然うれしいんですけどね。話題にしてくれることによってBiSHがきれいに見えるから。

──ダハハハハ! いまはそういう汚れた活動をしなくても大丈夫なぐらいになりましたよって(笑)。

渡辺 そういうところもあるんで、僕的には最高のマッチポンプ(笑)。



■音楽と女だけは大好きで真剣に打ち込んでる

──ちなみに、BiSHでお客さんのリフトを禁止したのはなぜなんですか?

渡辺 リフトとかはお客さんがステージ見えないってことにイラつくからですね。なんでおまえの背中を見なきゃいけないんだって。あと裸だったりとか。

──ああ、裸リフトは嫌ですよね。

渡辺 単純に汚いじゃないですか。そこらへんもBiSのときには自重されてたものがあったんですよ。だからそんなに僕は気になってなかったんですね。でも、BiSHになったら際限がなかったというか、ずっとステージ前で壁になってたんで、それは見てらんないなと思ったっていうだけで。ホントは禁止したくないんです。好きにやってくれてみんなが楽しめればいいんですけど。

──あれだけリフト大好きだった電撃ネットワークのギュウゾウさんが、自分のフェスだとリフト禁止にしてたりするのとか面白いですよね。

渡辺 ハハハハハハハハハ! あの人、意外と権力に弱い人ですからね(笑)。「今回はスタジオアルタだからね!」とか言って。

──「だからジャンプも禁止で!」って(笑)。さんざんやってたのに。

渡辺 ホントに不思議な人ですよね。

──渡辺さんの考え方こそ不思議で興味深いですよ。

渡辺 変ですかね。中学ぐらいのときは天才だと思ってたんですよ。なんでもできると思ってたんですけど、なんにもできないですね。

──でも、他人の感情の読めなさがこうやってプラスになるわけですから、そこは同じようなタイプの人に希望を与えられると思いますよ。

渡辺 ホントそうですね。たぶんアスペルガー的な傾向にある子たちは悩んでると思うんですよ。なんでバイトをクビになるかわかんないだろうし、わかんないことが多すぎるんですよね、この人なんで怒ってるんだろうとか。「おまえのその態度はなんだ!」とか言われても、「え? わかんねえな」みたいな感じだったんで、そこらへんは克服できるポイントがじつはあるんですよね。教えてあげたいのは、計算するってこと。顔を見てここがピクッと動いたら怒ってる可能性があるので、しゃべってる雰囲気を見てなんとか言葉尻を注意深く聞いてみようとか。

──経験で学んでいくしかない。

渡辺 そうです。セックスとかも経験で学ぶかもしれないな、女がどうやったらヤれるとか。

──それも相手の感情が読めないとひどいことになりますよね。

渡辺 そうなんですよ。でも、いまのとこ音楽と女だけは大好きなんで、そこには真剣に打ち込むから大丈夫なんでしょうね、僕の脳内コンピュータが。

──ほかのことには問題も多いけど。

渡辺 まったくもって人間関係とかボロボロですよ、ホントに(笑)。ヤバいです。音楽でつながってる人間関係はありますけど、それ以外は結婚式とか全然呼ばれないですもんね。

──どう考えても何かありますね(笑)。

渡辺 なんかやっちゃってるんですね。

──結婚式に来たら、たぶん空気を読まないでスピーチで変なこと言うと思われてるんでしょうね。

渡辺 そうです、間違いなく。浮気相手の話とか。

──ウケればそれでいいっていう(笑)。

渡辺 最近は言わないですけどね(笑)。 

プロフィール


音楽プロデューサー

渡辺淳之介

渡辺淳之介(わたなべじゅんのすけ):1984年、東京都出身。高校を中退した後に大検を取得して早稲田大学に入学。大学卒業後、音楽業界へ。数々の過激な活動で知られるアイドルグループBiSを手がけて大きな話題を獲得する。BiS解散後は、自身の会社である株式会社WACKを設立。アイドルグループBiSHやGANG PARADEなどをプロデュースしている。今年の4月にはその半生を追った書籍『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(宗像明将・著 河出書房新社)が刊行された。また、このインタビュー後の7月8日に新メンバーを募集し元リーダーのプールイと共にBiSを再始動させることを発表してファンを驚かせた。

プロフィール


プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。