前代未聞のデコトラ演劇、横浜に現る!

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「ステージトレーラー」という車をご存知だろうか? 

 ステージトレーラーとは、トレーラーの荷台が舞台になっているステージカーで、台湾では700〜800台も走っているそうだ。そんな「ステージトレーラー」が、横浜赤レンガ倉庫にやってきた。やなぎみわ氏による、日本で唯一の台湾式ステージトレーラーを使った前代未聞の野外演劇プロジェクト「日輪の翼」が、横浜を皮切りとして開幕したのである。



「日輪の翼」の舞台は、原作となる中上健次の小説『日輪の翼』をベースとし、同著者の『紀伊物語』、『千年の愉楽』等からも物語が盛り込まれている。

 物語の元となった『日輪の翼』は、熊野の<路地>から立ち退きを命じられた老婆たちが、同じ<路地>出身の若者が運転する冷凍トレーラーに乗って、流浪の旅をするロードノベルである。



 出自の同じ、老婆たちと若者たち。道中で老婆たちは神々に出会い、若者たちは女漁りに走る。エロティズムと信仰……。トレーラーをステージにし、ロードノベルが繰り広げられる。演劇としても見ごたえのある作品であるが、「日輪の翼」を観劇し、この舞台を『演劇』とひとくくりにすることは憚れる。パフォーマンスの内容が、役者による演劇にとどまらないのである。



 野外ステージにはトレーラーだけでなく、クレーン車が設置されている。空中では、そのクレーン車からロープを垂れ下げ、サーカスのパフォーマンスが行われる。

 トレーラーの中や大地にはポールダンスを舞うためのポールが設置され、ポールダンサーたちが華麗に舞う。



 地上ではタップダンサーが大地を踏み鳴らし、ギターやドラム、三味線だけでなく、鍋なども用いて、音楽をかき鳴らす。演者たちが踊り、歌い、奏でていく様はまるで祭りであり、私は以前観て感動した農村歌舞伎のそれを思い出した。農村歌舞伎は素人が集まり行っているものなので、今回のような完成された巧さなどはない。

 しかし、神に奉納する舞台であるためか、神々しさを感じたのである。今回の舞台でもそれを感じた。

 さらに、一番神々しさを感じたのが、天候である。「日輪の翼」初回公演の舞台である横浜赤レンガ倉庫は、雨に降られていた。客席に屋根のない野外ステージの為、観客らは雨合羽を着ての観劇であった。住み慣れた故郷から立ち退きを命じられた老婆と若者による旅の道中から、物語は始まっているわけであるが、そこに雨が降っている。目的も行く先のあてもない物語の冒頭に雨。

 やがて物語が進行し、老婆たちはそれぞれの場所を見つけ、目的を見つけていく。それに伴うように空が晴れていく。極め付けは終盤。クレーンから布が落ちるシーンでは、狙っていたように大きく優しい風が吹き、布を空いっぱいに羽ばたかせたのである。 野外ステージでは、予想だにしない天候が舞台の進行を左右する。

 悪天候は、時にその舞台を中止にさえ追い込んでしまいかねないのであるが、今回のようにプラスのスパイスとして働く事もある。そこに面白味を感じると共に、芸能の始まりは神への奉納であったということを再確認したのである。



 こうして、横浜赤レンガ倉庫にて、日本で唯一の台湾式ステージトレーラーでの舞台「日輪の翼」は、幕を開けた。今後「日輪の翼」は、和歌山、高松、大阪にて公演を予定している。もちろん演出家や役者だけでなく、舞台となるステージトレーラーごと全国を巡り、その内側に描かれた大輪の花を、各地で咲かせていくのである。

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(取材/尾山奈央)

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