三菱自動車の不正問題の余波は下請け企業にも…(画像は三菱自公式サイト)

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三菱自動車の燃費不正問題の影響が、地域経済や雇用にも広がっている。問題発覚を受けて生産停止が続く軽自動車の主力工場、水島製作所(岡山県倉敷市)では従業員約1300人の自宅待機が続き、賃金カットも提示された。取引先の中小部品メーカーも受注が激減しており、経営への打撃が避けられそうにない。

日産自動車の事実上の傘下入りが決まったが、不正問題がどこまで広がるかは不透明で、いずれ大掛かりなリストラ、さらには拠点の再編の可能性もあり、従業員や取引先には不安な日々が続く。

既に岡山では15社が操業停止

「また問題を起こすなんて......」。2016年の5月上旬、水島製作所で働き、現在は自宅待機中の30代の男性は悔しそうにつぶやいた。三菱自は2000年代前半に発覚したリコール隠し問題をきっかけに経営危機に陥り、三菱グループの支援を受けて再建した経緯がある。今回の問題は「まさにこれからブランド復活のスタート」(相川哲郎社長)という最悪のタイミングで起きてしまっただけに、現場でまじめに働いていた従業員の嘆きは深い。

水島製作所は燃費データを改ざんしていたことが発覚した「eKワゴン」など4車種を生産しているが、問題が発覚した4月20日以降、生産ラインを停止している。三菱自は自宅待機中の約1300人に対し、5月は平均賃金の8割超の休業手当を支払う案を労働組合に提示した。だが、真相解明には時間がかかることが予想され、生産停止が長引けば、従業員の生活を直撃しそうだ。

影響は取引先企業にも波及している。信用調査会社、東京商工リサーチによると、三菱自に直接、部品を納入する1次下請け企業は1356社もあり、従業員数は計41万人に上る。岡山県が4月末に公表した調査結果によれば、既に県内の取引先15社が操業を停止していた。三菱自の取引先は全国に広がっており、今後、中小企業の経営や雇用の問題が岡山県外にも拡大する恐れが高い。

三菱自の破綻はなくなったが...

三菱自は5月11日、国土交通省に社内調査結果を再報告したが、その内容は「全容からはほど遠い」(国交省幹部)もので、生産再開までの道筋はまったく見通せない状況。国や自治体は三菱自と取引のある中小企業の支援策に乗り出しているが、部品メーカーからは「問題の全容が一日も早く解明され、生産が元通りにならなければ、根本的解決にはならない」と悲鳴が上がっている。

「今回は三菱グループも助けてくれず、破たんするかもしれない」。業界では、そんな最悪のシナリオもささやかれていたが、5月12日に発表された事実上の日産傘下入りで、破たんの危機は、ひとまず遠のいた。

しかし、すんなりと再建に向かえるかは、予断を許さない。三菱自と日産は2011年に軽自動車の企画・開発会社を折半出資で設立。三菱自が水島製作所で生産した軽自動車を日産にも供給し、それぞれのブランド名で販売しているが、今回まさにその軽自動車で燃費データの不正が発覚した。

日産は今回の問題を受け、経営危機に陥りかねない三菱自に3割超を出資し、事実上傘下に収めることになった。軽自動車だけだった協力関係を一気に拡大し、三菱自の人気が高い東南アジアでのシェア拡大なども狙う戦略だ。

ただ、国内販売の柱となる軽自動車は、今回の問題を受けて三菱自、日産とも販売が激減している。ブランド復活の見通しは立っておらず、日産傘下入りが決まっても、従業員や取引先の不安は簡単にはぬぐいきれない。