ボナベントゥーラを差し置いて直接FKを蹴った本田。チーム内で揺るぎない信頼を掴んだ何よりの証拠だろう。(C)Getty Images

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 1-0で勝利した2月27日のトリノ戦(セリエA27節)、26分のシーンだった。ゴールまで25メートルのやや右側の位置で直接FKを獲得したミランは、ジャコモ・ボナベントゥーラと本田圭佑がボールの前に立ち、何やら言葉を交わす。
 
 蹴ったのは本田。鋭いボールはゴール左隅に飛ぶ。しかし、クロスバーに弾かれる。あと数センチずれていれば、ゴールネットを揺らしていたに違いない紙一重の一撃だった。
 
 ミランは43分には同じくゴールまで25メートル、ほぼ正面の位置で再び直接FKのチャンスを得る。これも本田とボナベントゥーラがボールの前に構えて、やはり本田が蹴った。しかし、今度は壁に阻まれた。
 
 この意義はかなり大きい。本田は昨シーズンこそ直接FKを何度も蹴ったが、今シーズンはほとんどの場面でボナベントゥーラやマリオ・バロテッリにキッカーを譲ってきた。ちなみに、両者ともここまで直接FKで1ゴールずつを挙げている。
 
 CKは蹴ってきたし、FKの場面でもボールの前に立っているので、チーム内でプレースキッカーのひとりに指名されていたのは間違いない。しかし、右利きのボナベントゥーラやバロテッリよりも、左利きの本田のほうがゴールを狙いやすい位置からの直接FKも、“囮”になる場面が今シーズンはほとんどだったのだ。
 
 しかしトリノ戦では、二度あった直接FKのチャンスでいずれもキッカーを担った。これは本田が直接FKのチャンスを任せてもらえるほどチーム内で信頼を掴んだ証拠だし、本人にも自信と積極性が芽生えているからだろう。
 
【試合レポート】ミラン 1-0 トリノ

 実際、この日の本田はコンディションの良さが身体のキレに表われており、攻守で効いていた。ミランが4-4-2、トリノが3-5-2のシステムを敷いたため、対面したWBのブルーノ・ペレスに対して右SBのイニャツィオ・アバーテと連携すれば2対1の有利な関係を作れたこともあり、攻撃ではビルドアップの段階からボールによく絡めており、その後の崩しからフィニッシュにも積極的に関与。クロスと枠内シュートは、いずれも両チーム最多の3本を記録した。
 
 それでいて、相変わらず守備面でも高い貢献を見せる。トリノが攻め込みミランが引いた局面ではアバーテの手前まで戻って守備ブロックに参加し、速攻を食らっても素早いネガティブ・トランジション(攻→守の切り替え)から全速力で帰陣。後半半ば以降はトラップミスやパスミスが増えるなどやや息切れしたが、それでも決して足を止めなかった。チーム2位の10.977kmという走行距離に、それは如実に表われている。
 トリノ戦は90分間を戦い抜き、これで公式戦通算でスタメンは13試合連続、フル出場が6試合連続。試合後にシニシャ・ミハイロビッチ監督が「本田はチームと一緒に成長した」と語るなど、指揮官の信頼をガッチリと掴んだ。
 
『スカイ・スポーツ』がマン・オブ・ザ・マッチの「7」を与え、『メディアセット』や『ミランニュース』も決勝ゴールのルカ・アントネッリに次ぐ「6.5」と高評価を与えたこの日のパフォーマンスに、本人も手応えを感じたのだろう。試合後には自信に満ちたコメントを残している。

 
「今日は難しいゲームだったが、勝点3を獲得することができた。僕は以前と何も変わっていないし、義務を果たすだけ。僕は典型的な10番ではないけど、常にベストを尽くして良いパフォーマンスを見せようと思っている」
 
「いまはチームの雰囲気が良いし、チャンピオンズ・リーグ出場権(セリエA3位以内。ミランは現在6位)を諦めるのはまだ早い。今年に入って敗れたのはボローニャ戦(1月6日)だけで、その後の9試合では多くのポイントを稼いだ(勝点19)。自分たちを偉大なチームだと思ってはいけないが、素晴らしいチームなのはたしかだ」
 
「もちろん、これからも非常に難しいゲームが続く。それに、フィオレンティーナ(3位)は良いサッカーをしているし、ローマ(4位)とインテル(5位)もなかなか負けない。しかし、僕らも最後まで自分たちを信じるべきだ。ミハイロビッチ監督と一緒に前へ進んでいきたい」
 
 今後は3月1日にアレッサンドリア戦(コッパ・イタリア準決勝セカンドレグ)、3月6日にサッスオーロ戦(セリエA28節)と連戦が待っている。本田とミランのパフォーマンスに引き続き注目したい。
 
文:白鳥大知(サッカーダイジェストWEB)