胸に秘めている悶々としたものを誰かに打ち明けたいとき、どんな人に相談するのがいいだろうか。経験豊かで人間的に優れた人が良いのだろうか。でも完璧な答えをもらったら、かえってダメな自分とのギャップに悩んでしまうかもしれない。
書籍『中原昌也の人生相談 悩んでるうちが花なのよ党宣言』は相談者よりもネガティブな回答もあるが、一周回ってポジティブに着地して、強く生きていこうと読者に思わせてくれる一冊だ。

「人を誘うには、まず自分がぐでんぐでんに酔っ払う」



中原昌也さんは、音楽制作、小説やエッセイ、イラストなど多方面で活動している。音楽アルバムは海外からの評価も高く、小説では三島由紀夫賞を受賞するなどマルチな才能を発揮しているが、生活苦は続いているという。多々悩みを抱えてきた人なのだ。本書はそんな中原さんが質問者のさまざまな悩みに答えている。全部で55の相談と回答があるが、その中からおもしろかったものを一部抜粋して紹介する。実際はひとつにつき2ページほどの量がある。

Q:陰口が怖くて飲み会が中座できません。
A:盗聴器を置くことです。(中略)自分のいないところに世界は存在していないと考えればいいんですよ。

Q:積み上がっていくばかりで本が読めない。
A:僕だって、持っている本の10パーセントも読んでないですよ。(中略)本は外から眺めるだけでも意味がある。心が豊かになる。それが本の良いところです。

Q:自分から他人にアプローチできません。
A:(中略)他人で孤独を紛らわそうとするからいけない。人に紛れれば紛れるほど、自分の孤独が浮き彫りになってくるわけですから。
人を誘うには、まず自分がぐでんぐでんに酔っ払う。そうしたら、誰彼かまわず電話できるでしょう。僕も飲んでからだと人を誘えます。

Q:このままアイドルに元気もらってていいのいかな…
A:(中略)僕は誰からももらったことないですよ、元気なんか。
(中略)孤独が怖いというのは永遠の悩みかもしれないけど、誰でも、ずっと孤独でしょう。

特にいいと思ったのはこちらである。中原さんの言葉に、はっとした。

Q:生も死もお金次第ということに絶望
A:僕は自分が幽霊だと思い込んで生きてるから、特に死にたいと思ったことはないです。

人は必ずしも前向きに生きなければいけない訳ではなく、どうすることもできず絶望して嘆くこともなく、何かしらやりようはあるんだなと、一周回ってなんとかやっていこう、と思わせてくれる。

中原さんのあまり知られていない「やさしさ」を見せる


本書出版の経緯について、リトルモアの担当者に話を聞いた。
「中原さんとは以前からお仕事もしていましたし、弊社社長もとても仲良くしていて、自然発生的に新しい企画を考えるような流れになりました。普段は別々の本を担当する編集部3人が異例なことに共同で担当したのですが、話し合ううちに、中原さんのあまり知られていない『やさしさ』が見せられるような方向で考えるようになりました。その発想と人生相談までは少々距離がありますが、なんとなく企画が進みだしたように記憶しています」

本書では各回答の最後に悩み相談に沿った中原さんの映画紹介がある。こんな映画もあるのか、この相談にこの映画、なるほど! と思えて楽しい。こだわったところを聞いてみた。

「並はずれた映画の引き出しをお持ちの中原さんから、それぞれの相談内容に沿って、選りすぐりの1本を挙げていただきました。なぜその映画をセレクトされたのか、作品によっては推理するような気持ちで中原さんの意図をおしはかり、紹介文を書きました。セレクトの鋭さ、面白さ、冗談のようなものもふくめて、さすがとしか言いようのない選択眼がきちんと伝わるよう工夫して書きました」

担当者にお気に入りの箇所を聞いてみたところ「貧乏のままでいるか、抜け出すべくハングリー精神を持つべきか、という悩みに対して、そういう二者択一から解放されるために映画、音楽、文学があるんじゃないか、と回答しているところです。一編集者として、自分の仕事を名誉と思えました」とのこと。読者に向けておすすめしたいポイントは「これまでの中原作品からは想像もできないほどの実用性に富む内容です! あとがきがまた泣かせます」と語っていた。
(鎌戸あい/boox)