学生の窓口編集部

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かつて、「プールや海水浴のあとは水道の水で目を洗いましょう」と教えられた時代があります。そのためか、いまも目がしょぼしょぼするときやコンタクトレンズを外したときに、水道水で目を洗う習慣はありませんか。

眼科専門医でみさき眼科クリニック(東京都渋谷区)の石岡みさき院長は、「いまでは、水道水で目を洗うと悪影響があることが分かっています」と言います。詳しいお話を聞きました。

■水道水に含まれる塩素が目の表面を傷付ける

水道水が目によくないとはどういう理由なのでしょうか。石岡医師はこう説明します。
「水道水で目を洗うことは、以前は奨励されて学校でも教育されていましたが、今の医学では否定されています。水道水には、感染症を引き起こすウイルスや細菌、病原微生物を消毒するための塩素が含まれていて、これが目の表面を傷付けるおそれがあるからです。

目の表面は3つの層で覆われています。外側は油層、真ん中が涙層、内側がムチン層です。ムチンとは糖分とたんぱく質の混合物で、涙や水分をためて目の潤いを保ち、眼球を保護する役割があります。水道水で目を洗うと塩素がこのムチンを洗い流すため、目に傷が付く可能性が高くなるのです」

ただし、「目にゴミなどが入ったときは別」と、石岡医師は注意を付け加えます。
「ゴミやまつ毛、洗顔石けん、シャンプーなど、水道水よりも目に傷を付ける危険性が高い異物が入った場合は、すぐに水道水で洗い流してください。水道水でムチンを洗い流すことよりも、異物のほうが目に傷を付ける可能性が高いからです」

日常的に、水道水でいつも目を洗う必要はなく、危険でもあるということですか。
「そうです。特に目に異常がないのに、コンタクトレンズを外すたびに目を水道水で洗うとか、入浴中に顔を洗うついでにシャワーで目を洗い流す人もいます。洗顔や洗髪、歯磨きと同じ感覚で、日常的に水道水で目を洗う行為は、目を傷付けるだけです」(石岡医師)

■コンタクトレンズを外したときの付着物は、汚れではない

目の表面に傷が付くと、どのような症状が現れるのでしょうか。
「目の感染症である角膜炎(かくまくえん)や結膜炎(けつまくえん)を引き起こす危険性が増します。また、アレルギーやアトピーがある場合は塩素で傷ができやすい傾向にあり、充血しやすくなります。目の充血は、炎症や傷などの異変が起きているというサインです」と石岡医師。

1日使ったコンタクトレンズを外すと汚れがたくさん付着しています。目を毎日洗った方がよいと思い込んでいました。
「レンズに付いているのは、ムチンや、はがれた上皮細胞(じょうひさいぼう)で、汚れではないことがほとんどです。それを目の汚れと勘違いして水道水で目を洗うと、目の表面を保護している物質をわざわざ洗い流して傷をつくるだけになるのです」(石岡医師)

■目は涙などの成分で守られていて、自浄力がある

かつて、「水道水で目を洗え」と教えられた世代は、「洗顔時や入浴時など、日常的に目を洗っている」と言います。どうすればいいでしょうか。
「以前は、抗菌作用のある市販の点眼薬がなかったので、感染症を予防するために、水道水で目を洗うしかなかったんです。いまは薬局で、防腐剤が含まれていない生理食塩水の『人工涙液』の点眼薬が売られているので、緊急時ではなく日常で目を洗いたいときはそれを使用してください。

本来は、異物が目に入ったときでも、人工涙液の点眼薬で洗い流す方が安全ですが、入浴中にシャンプーが目に入って痛いときに、それらを取り出す余裕はないでしょう。緊急性がある場合は現実的な対応をしてください。

知っておきたいのは、目の表面は三層の成分で頑丈に守られていて、自浄力が備わっているということです。過剰な洗眼や点眼をすると、それが妨げられてしまいます」(石岡医師)

目は、歯や髪と違って洗うものではなく、ムチンや涙で保護されているため、水道水で洗い流すと目の機能を妨げて傷を付けるだけ、ということです。ゴミや異物が入ったとき以外、日常的に水道水で目を洗うことはやめるようにしましょう。

(品川緑/ユンブル)

取材協力・監修 石岡みさき氏。眼科専門医。医学博士。みさき眼科クリニック院長。横浜市立大学医学部卒、アメリカ・ハーバード大学に留学、眼の免疫の研究に従事。帰国後、東京歯科大学市川総合病院にて角膜・前眼部疾患について学ぶ。両国眼科クリニック院長を経て現職。専門はドライアイ、眼のアレルギー。
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