LiSA 愛されても満たされない感情と向き合う「今だけは私を見て」
2010年にTVアニメ『Angel Beats!』の劇中バンド「Girls Dead Monster」のボーカルに抜擢され、その翌年にソロデビューしたLiSA(リサ)。以降、8枚のシングルと3枚のアルバムをリリースし、2015年には日本武道館公演を実現するなど、その勢いは止まらない。ジャンルを飛び越えクロスオーバーな活躍を見せる彼女に、ニューシングル『Empty MERMAiD』で歌い上げている“これまで歌えなかった感情”について訊いた。
撮影/アライテツヤ 取材・文/照沼健太 ヘア&メーク/田端千夏
――歌を始めたキッカケは?
幼いころは人見知りで、人前に出ることが苦手でした。でも、家ではすごく元気で、ディズニーの映画を観て一緒に歌ったりしていて、それを見た母が「ミュージカルだったら人前に出られるんじゃないか」と音楽教室に私を入れたんです。
――人見知りなのに教室に入れられて…大丈夫でした?(笑)
最初は「人前に出るのがイヤって言ってるのに、何でこんなところに!?」って不信感と不安ばかりで、隅っこでガタガタ震えていました(笑)。でも、主役の人が頑張っている姿を見て、いつのまにか楽しそうだなと思うようになって。そこから少しずつ性格も変わって、人前でも歌えるようになりましたね。
――好きなアーティストとかいたんですか?
最初に大きな影響を受けたのはSPEED。テレビを観ていたら私と同じような年代で歌とダンスをしている人たちが活躍していて、「こんな風になりたい!」とダンススクールに通い始めました。
――CDと一緒に歌ったりも?
SPEEDしか歌ってなかったですね(笑)。友だちとカラオケに行ったら、自分は島袋寛子さんのパートを担当して。LiSAの楽曲にはハイトーンなものが多いと思うんですけど、これはSPEEDの影響だと思ってます(笑)。
――その頃から歌手になるぞ!と思ってたんですか?
思ってませんでしたね。歌手になるのが夢だと言ってはいけない、とすら考えていました。岐阜県という東京とは離れた場所にいたので、それはもう別世界の話で、夢を見るだけおかしいと。現実にSPEEDがいるとも思っていなかったくらい(笑)。だから、SPEEDみたいになりたいと思っていても、歌手になるぞとは思っていませんでした。
――では、音楽で生きていくと決めたのは、高校でバンドを組んだときなんでしょうか?
高校を卒業するまでは、なんでもできる人に憧れていました。勉強も遊びもできるけど、勉強している姿は見せない。それでいてバンドもダンスもできる、スーパーヒーローみたいな。
――なるほど。
でも、高校を卒業するときに、自分には夢がないことに気がついて。そこで初めて今までやってきたことを振り返って、自分にできることってなんだろうと考えたときに「音楽しかない」と。それからですね、「音楽で生きていく」と口に出して言えるようになったのは。
――上京してから、デビューするためにどんなアクションを起こしましたか?
オーディションはたくさん受けました。それまではバンドをやっていたから、譲れないものが多かったんです。自分をこう見せたい、こう歌いたい、これはイヤみたいな。
――自分の中の制限というか、こだわりがあったんですね。
はい。でも、自分が使えるものはなんでも使おうと思うようになって。音楽系のオーディション以外でも、チャンスがあるならモデルや、タレントのオーディションも受けました。そこで自分を見つけてもらえたのがアニメだったんです。
――そうしてデビューし、今年の5月には「ミュージックステーション」に出演。地上波の音楽番組に出るのは初めてでしたよね。
チャンスをいただいたとき、自分がテレビに出る意味ってなんだろうと考えました。どう映るか分からないし、何が起こるか分からない。どちらかといえば「テレビって怖い」と思っていました。
――それでも出演を決めたのは…?
自分のことを好きでいてくれる人たちが、自分の好きなモノを他の人たちに認めてもらえるチャンスかもしれないと思ったから。自分が地上波の番組に出演したことによって、ファンの皆さんが「俺たちの好きなものってスゴいだろ」って胸を張れるようになったんじゃないかなって。もしそうなら、すごくうれしいです。
――新曲『Empty MERMAiD』は「人魚」をモチーフにLiSAさんが作詞されていますが、この発想はどこから来ているのでしょうか?
自分自身がここまで活動してきて、たくさんの方に受け入れられるようになって、すごく幸せ…なはずですよね。でも、それでも満たされないこの感情ってなんだろうと。
――そんな気持ちになることがあるんですね。
愛されてるはずなのに、愛されてると分かってるのに、それでも空っぽな気持ちがあるんです。それを表現するために、“愛されたいと願っている人”って誰だろうと考えて、マーメイドにたどりつきました。
――「今だけは私を見て」というフレーズが印象的です。
女性は特に、秘めている感情があると思っていて。旦那さんを支えるおしとやかな女性像ってありますよね、昔から。何を言われてもぐっと我慢する、みたいな。
――古き良き“昭和の女性”ってヤツですね。
本当はすごく愛されたいのに、旦那さんは仕事や遊びに夢中だったり、他の子のことばかり見ていたり…。そんなときでも「私を見て」とは言いづらい。けど、みんなが耳を傾けてくれている今なら、私のそういう感情も歌にできるんじゃないだろうかと思ったんです。
――作曲を手がけたのは、ロックバンド「UPLIFT SPICE」のYOOKEYさんですが、これは楽曲が先にあったのでしょうか?
曲が先です。東京に出てきたばかりのころに対バンしたこともあって、もともとUPLIFT SPICEさんの曲がすごく好きだったんです。
――楽曲を聴いたときはどんな気持ちに?
「キター!これだこれだ!」って。この曲があったからこそ、私も自分の感情をぶつけていいのかなと思えたんです。
――今回のシングルに収録されている3曲のうち『Empty MERMAiD』と『リスキー』は自分への愛を強く求めている一方、『虚無』では突き放すような歌詞になっていますね。これはバランスを意識して?
はい。でも、私の中では3曲とも満たされない感情や、女の人の抱えている毒がテーマです。それは表立って見えないけど、みんなが抱えているものだとも思います。
――これらの曲で歌われている愛は恋愛の愛だけに限らないと思うのですが、LiSAさんの恋愛観も投影されているんでしょうか?
そうですね。私は基本的に、愛って全部一緒だと思っています。自分の欲求があり、相手に対する優しさがあるっていう。
――『Empty MERMAiD』のMVでは、人魚姿のLiSAさんも登場し、ふたりのLiSAさんが向い合って歌うシーンもありましたね。
今回特殊メイクをしているんですけど、3時間かかりました! 寝転びながら「起きたら何になっているんだろうなー」と思ってたんですけど、目をつむったら寝てしまって。目が覚めて鏡を見たときに「なんじゃこりゃー!」と思いました(笑)。
――(笑)。最後にファンの方へメッセージをお願いします。
今回私は、普段表立って現れない人の心の中にある気持ちを歌っています。それは否定しがち、隠しがちなものですが、そんな感情も持ちあわせていてよかったと思える日がいつか来るはず。だから私の歌が、その感情を肯定できる、ひとつのキッカケになればいいなと思います。
撮影/アライテツヤ 取材・文/照沼健太 ヘア&メーク/田端千夏
歌手になるのは夢のまた夢だった
――歌を始めたキッカケは?
幼いころは人見知りで、人前に出ることが苦手でした。でも、家ではすごく元気で、ディズニーの映画を観て一緒に歌ったりしていて、それを見た母が「ミュージカルだったら人前に出られるんじゃないか」と音楽教室に私を入れたんです。
――人見知りなのに教室に入れられて…大丈夫でした?(笑)
最初は「人前に出るのがイヤって言ってるのに、何でこんなところに!?」って不信感と不安ばかりで、隅っこでガタガタ震えていました(笑)。でも、主役の人が頑張っている姿を見て、いつのまにか楽しそうだなと思うようになって。そこから少しずつ性格も変わって、人前でも歌えるようになりましたね。
――好きなアーティストとかいたんですか?
最初に大きな影響を受けたのはSPEED。テレビを観ていたら私と同じような年代で歌とダンスをしている人たちが活躍していて、「こんな風になりたい!」とダンススクールに通い始めました。
――CDと一緒に歌ったりも?
SPEEDしか歌ってなかったですね(笑)。友だちとカラオケに行ったら、自分は島袋寛子さんのパートを担当して。LiSAの楽曲にはハイトーンなものが多いと思うんですけど、これはSPEEDの影響だと思ってます(笑)。
――その頃から歌手になるぞ!と思ってたんですか?
思ってませんでしたね。歌手になるのが夢だと言ってはいけない、とすら考えていました。岐阜県という東京とは離れた場所にいたので、それはもう別世界の話で、夢を見るだけおかしいと。現実にSPEEDがいるとも思っていなかったくらい(笑)。だから、SPEEDみたいになりたいと思っていても、歌手になるぞとは思っていませんでした。
スーパーヒーローになりたくて
――では、音楽で生きていくと決めたのは、高校でバンドを組んだときなんでしょうか?
高校を卒業するまでは、なんでもできる人に憧れていました。勉強も遊びもできるけど、勉強している姿は見せない。それでいてバンドもダンスもできる、スーパーヒーローみたいな。
――なるほど。
でも、高校を卒業するときに、自分には夢がないことに気がついて。そこで初めて今までやってきたことを振り返って、自分にできることってなんだろうと考えたときに「音楽しかない」と。それからですね、「音楽で生きていく」と口に出して言えるようになったのは。
――上京してから、デビューするためにどんなアクションを起こしましたか?
オーディションはたくさん受けました。それまではバンドをやっていたから、譲れないものが多かったんです。自分をこう見せたい、こう歌いたい、これはイヤみたいな。
――自分の中の制限というか、こだわりがあったんですね。
はい。でも、自分が使えるものはなんでも使おうと思うようになって。音楽系のオーディション以外でも、チャンスがあるならモデルや、タレントのオーディションも受けました。そこで自分を見つけてもらえたのがアニメだったんです。
――そうしてデビューし、今年の5月には「ミュージックステーション」に出演。地上波の音楽番組に出るのは初めてでしたよね。
チャンスをいただいたとき、自分がテレビに出る意味ってなんだろうと考えました。どう映るか分からないし、何が起こるか分からない。どちらかといえば「テレビって怖い」と思っていました。
――それでも出演を決めたのは…?
自分のことを好きでいてくれる人たちが、自分の好きなモノを他の人たちに認めてもらえるチャンスかもしれないと思ったから。自分が地上波の番組に出演したことによって、ファンの皆さんが「俺たちの好きなものってスゴいだろ」って胸を張れるようになったんじゃないかなって。もしそうなら、すごくうれしいです。
愛されても満たされない感情がある
――新曲『Empty MERMAiD』は「人魚」をモチーフにLiSAさんが作詞されていますが、この発想はどこから来ているのでしょうか?
自分自身がここまで活動してきて、たくさんの方に受け入れられるようになって、すごく幸せ…なはずですよね。でも、それでも満たされないこの感情ってなんだろうと。
――そんな気持ちになることがあるんですね。
愛されてるはずなのに、愛されてると分かってるのに、それでも空っぽな気持ちがあるんです。それを表現するために、“愛されたいと願っている人”って誰だろうと考えて、マーメイドにたどりつきました。
――「今だけは私を見て」というフレーズが印象的です。
女性は特に、秘めている感情があると思っていて。旦那さんを支えるおしとやかな女性像ってありますよね、昔から。何を言われてもぐっと我慢する、みたいな。
――古き良き“昭和の女性”ってヤツですね。
本当はすごく愛されたいのに、旦那さんは仕事や遊びに夢中だったり、他の子のことばかり見ていたり…。そんなときでも「私を見て」とは言いづらい。けど、みんなが耳を傾けてくれている今なら、私のそういう感情も歌にできるんじゃないだろうかと思ったんです。
――作曲を手がけたのは、ロックバンド「UPLIFT SPICE」のYOOKEYさんですが、これは楽曲が先にあったのでしょうか?
曲が先です。東京に出てきたばかりのころに対バンしたこともあって、もともとUPLIFT SPICEさんの曲がすごく好きだったんです。
――楽曲を聴いたときはどんな気持ちに?
「キター!これだこれだ!」って。この曲があったからこそ、私も自分の感情をぶつけていいのかなと思えたんです。
――今回のシングルに収録されている3曲のうち『Empty MERMAiD』と『リスキー』は自分への愛を強く求めている一方、『虚無』では突き放すような歌詞になっていますね。これはバランスを意識して?
はい。でも、私の中では3曲とも満たされない感情や、女の人の抱えている毒がテーマです。それは表立って見えないけど、みんなが抱えているものだとも思います。
――これらの曲で歌われている愛は恋愛の愛だけに限らないと思うのですが、LiSAさんの恋愛観も投影されているんでしょうか?
そうですね。私は基本的に、愛って全部一緒だと思っています。自分の欲求があり、相手に対する優しさがあるっていう。
――『Empty MERMAiD』のMVでは、人魚姿のLiSAさんも登場し、ふたりのLiSAさんが向い合って歌うシーンもありましたね。
今回特殊メイクをしているんですけど、3時間かかりました! 寝転びながら「起きたら何になっているんだろうなー」と思ってたんですけど、目をつむったら寝てしまって。目が覚めて鏡を見たときに「なんじゃこりゃー!」と思いました(笑)。
――(笑)。最後にファンの方へメッセージをお願いします。
今回私は、普段表立って現れない人の心の中にある気持ちを歌っています。それは否定しがち、隠しがちなものですが、そんな感情も持ちあわせていてよかったと思える日がいつか来るはず。だから私の歌が、その感情を肯定できる、ひとつのキッカケになればいいなと思います。