『萌え家電 家電が家族になる日』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

写真拡大

みなさんの中で、家電に話しかけた経験をお持ちの方はいるだろうか。

筆者は、仕事中に突然パソコンがフリーズし、「ごめん、ごめん! 働きすぎちゃったね。あとで十分休ませてあげるからね」と話しかけてはモニターをさすり、早く直ることを祈る。(結局その後、動かなくて強制的に再起動するのだが……)

パソコン自体に心があるとは正直思ってないが、もし長時間動き続けていることを労わってあげたら、パソコンは疲れた身体を振るい起こし、フリーズを解消してくれるのでは……と切羽つまっている時に本気で考えている。

いつも身近にある家電は自分の生活にかなり入りこんでいるため、必要性のレベルは家族や友人とあまり変わらない気がするのは筆者だけだろうか。

家電が家族になりつつある


『スペック重視の時代は終わった。ユーザーの「心」に訴える家電が未来を変える!』と謳っている本がある。
その名も『萌え家電 家電が家族になる日』である。

“萌え”とはアニメ、漫画、ゲームなどのキャラクターに対する愛おしいと思う感情を表す言葉であると認識しているが、家電に“萌え”とは!?

最初、『萌え家電』という言葉に違和感があったが、筆者がパソコンに対して労わる感情を持つことと通じるものがあるな、と興味がわいてきた。

本書では、今まで家電に求められていたのはスペックだったわけだが、今の家電はただ便利なのだけではなく、ユーザーの心をつかみ、愛でられ、家族になりつつあるとしている。
トラブルが可愛いという家電、ロボットの老いと死……などというテーマで家電に対する考えが書かれており、筆者の家電に対する意識がガラリと変わった。

家電を“萌え”擬人化させる研究をしている著者


今、家電業界では何が起こっているのだろう。
担当編集の方に出版経緯を教えてもらった。

「本書の著者・大和田茂さんの研究は、家電を“萌え”擬人化させてスマートハウス(編集者注:電気代やガス代などの光熱費を節約する住宅)に組み込むというもので、ほとんど意味不明でしたが、それでもここから何かが始まるような予感がしました! そこで、和田さんにコンタクトをし、“家電に萌え要素を盛る”とはどういうことか、お話をうかがうことができました」

家電を“萌え”擬人化させるという研究が実際にあるということに驚いた。

同時期に、「脱走するルンバ(ロボット掃除機)がかわいい」「Siriに結婚を申し込んでみた」「サポート終了でAIBOの葬儀が行われる」といった、機械に向かって“好意”や“愛”を示すニュースがネットで話題となってたこともあり、「いよいよ大和田さんの頭の中にあるクレージーさが、市民権を得るようになったのでは?」と思うようになり、著作としてまとめることを依頼したそうだ。

大和田さんの頭の中身がぎっしり入っている本書を改めて読んで、パソコンを労わるという感情が“萌え”に変化する未来を想像してみると、クレージーだが、新しい世界が発見できそうでワクワクした。

「ブルーレイレコーダーは健気ですね」


ちなみに担当編集者が可愛いなと思う家電があるのか尋ねてみたところ、こんな回答をもらった。

「ブルーレイレコーダーなんか健気ですね。HDDからディスク(円盤)に番組をダビングするときに、たとえば、最初は“2時間14分”かかりますと表示されます。が、その5秒後くらいに“1時間42分”と、パッと切り替わったりします。『あの、最初に仕事を引き受けたときは、このくらいかかると思ったんですケド、もう一回見積りを取ったら短縮できます。がんばってもっと早く終わらせます!』といっているような気が……。ウィーンという起動音も、『よーし、がんばりますよー!』と働いている感じがして健気です。その分、発熱もするので、「そこまでがんばらんでもいい」とも思えます。あとは、月並みですが、夏に冷蔵庫を開けて、「あれ、何を取り出そうとしたんだっけ……」とボケっとしていると、ピピピピーと鳴りますね。『ちょっと、ナニしてんの!』と怒られて『この野郎!』となりますが、そこの部分は工夫次第でツンデレっぽくなるのでは?」

担当編集者の予想外に熱量のこもった話を聞いて、筆者の家電達はどうだったかなと、家族を思い出すように家電と一緒に過ごした日々に思いをめぐらせた。

今、身近にある家電に対して「可愛いな」「健気だな」と、“萌え”や“愛情”という付加価値が付き、恋人・家族とほぼ変わらない存在となる家電が出てくるのは遠い未来ではなさそうだ。

とはいえ、これからどんな家電が出てきたとしても、その家電達が寿命を十分に全うできるまで、長く丁寧に付き合っていく未来であるべきだと思う。
(boox/茶谷)