北海のペースを狂わせた鹿児島実・1番有村の初球攻撃

 大阪桐蔭の初球攻撃により、今や初球攻撃が戦術のトレンドとなりつつある高校野球だが、その重要性が高まるのではないかと感じる試合であった。

 今大会の開幕戦は創立100周年の鹿児島実と今大会、全国最多の36回目の出場を誇る北海との対決。 いきなり鹿児島実の1番有村 健太(3年)が初球のストレートを捉えて右前安打を放つ。最速140キロの速球を誇る山本 樹(3年)は制球を乱し、2番安藤 優幸(3年)に四球を与えると、一死二、三塁から連続のバッテリーミスで2点を先制する。その裏、北海は丹野 涼介(3年)の適時二塁打で1点を返す。

 北海の山本は、2回以降、140キロ台の速球で押す。ノーワインドアップから始動し、左足を胸元の近くまで高く上げていきながら、コンパクトなテイクバックから勢いを生かしたフォームで投げ込む。背筋の強さ、肩の強さが秀でており、しっかりと腕が振れた時は、常時140キロ前半・最速143キロを計測。スライダー、カーブ、チェンジアップのキレは悪くない。おそらく南北海道大会では、ストレート、変化球ともにコントロール良く決まった投球を見せていたのだろう。

 しかしこの試合、初球攻撃によりリズムを崩してしまったのか、3回表、綿屋 樹(2年)の2点適時打を浴び、1対4とリードを許した。3回裏、鎌仲 純平(3年)が2ラン本塁打を放ち、4対3と1点差に迫るが、4回表、第1打席に安打を放った有村が左前適時打を放ち、5対3と点差を広げる。さらに5回表、スクイズとエース橋本の適時三塁打、二死満塁から3番室谷太郎(3年)の適時打で5点を追加し、10対3と差を広げる。その後も勢いが止まらず、15対3と突き放す。北海の山本、渡辺は2人とも好投手。

 渡辺もノーワインドアップから始動し、左足を高々と上げながらバランス良く立ち、真っ直ぐステップをして、スリークォーター気味に腕を振って投げ込む。常時135キロ〜142キロの直球、120キロ前後のスライダー、130キロ台のスプリット、100キロ台のカーブをテンポよく投げ分ける好投手だが、この日はややボールが真ん中に集まったところを狙われていた。それにしても鹿児島実のコンパクトな打撃スタイルと、狙い球を逃さない集中力が素晴らしい。

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 だがこれほどの得点を挙げたのも、有村の初球攻撃から先制点を取り、自分たちのペースに持ち込んだことが要因だろう。 鹿児島実はエースの橋本がダイナミックなフォームから繰り出す常時140キロ前後の直球、スライダーを外角中心に投げ分ける投球で、6回途中まで4失点。やや制球を乱したところはあったが、しっかりと腕を振って対応することができていた。2番手の有村 健太(3年)も135キロ前後の直球とスライダーのコンビネーションで北海打線を抑える。鹿児島実は8回表にも3点を追加し、18対4で14点差で大勝を決めた。

 19安打を打った鹿児島実の中でもよかったのは、1番有村の攻撃的な打撃スタイル、バットコントロールの良さが光り、3番室屋 太郎(3年)はどっしりとした構えから、インパクトまで無駄のないスイングで鋭いライナー性を飛ばす強打者。4番綿屋は速球、変化球に対しても突っ込むことなく、軸が安定した打撃で広角に打ち返す打撃が光った。彼ら以外も、打者のレベルが高く、守備も安定していて、大差がついても、犠打で走者を進める試合運びを見ると、隙がない。全国レベルの強豪と感じさせる戦い方であった。

 敗れた北海は、大差がついたとはいえ、選手の個々のレベルは高かった。本塁打を放った鎌仲は、どっしりとした構えから雰囲気があり、やや遅めの始動からボールを手元まで引き付けて、縦のスイング軌道から放たれる打球速度の速さ、飛距離、スイングスピードは全国屈指の強打者。また3番丹野は鋭いヘッドスピードから二塁打2本を放った強打者。弧を大きく描くスイングをしており、本塁打を打てるスイング。試合運びによっては逆の展開になってもおかしくないぐらいの個々の能力の高さはあった。

 大差がついた試合展開になったのも、先頭・有村の初球攻撃から始まった。開幕日の試合運びは伝染しやすい。先頭打者の積極的な攻撃が今大会多くみられる予感がする。

(文=河嶋 宗一)

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