株式会社エビソル代表取締役社長の田中宏彰氏

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 ベンチャーを起業する際に必須となる条件は時代の風を読むことだろう。風を読み、追い風に乗ることができれば業績は自ずと伸びていく。株式会社エビソルの主たる事業は飲食店の予約管理をデジタル化する『ebica予約台帳』だ。飲食業はIT化が遅れている分野である。

 飛行機や新幹線、ホテルなどはweb予約が当たり前となった現在でも、飲食店における電話予約とweb予約の比率は9:1という。しかし、エビソルは他に先駆けて“飲食店×IT”のビジネスに打って出た。それは時代の風を感知したからである。同社代表取締役社長の田中宏彰氏が話す。

「会社を設立した当時(2011年10月)、スマートフォンとタブレットは急速に普及していました。客がスマホで予約し、店側はタブレットで予約管理するというシステムを構築する環境が整ったわけです。飲食店のweb予約が遅れた理由は大きく二つあると考えていて、一つは飲食店のパソコンを取り巻く環境が良くなかったことですね。パソコンのスペックは低く、インターネットの接続環境は劣悪ということが多かった。もう一つは、現場の人の多くにパソコンに対するアレルギーがありました。キーボードを打つことに馴染まないので、パソコンによる予約管理には否定的だったんです」(田中宏彰代表取締役社長/以下同)

 しかし、スマホとタブレットの普及は、そうした状況を変えることとなった。
「お店の人も個人ではスマホを使いますから、タブレットの操作にも抵抗がなくなっています。『ebica予約台帳』の操作も実際にやってみれば難しくないんですよ」

デジタル化で顧客情報の蓄積が効率的に<>

『ebica予約台帳』サービスの概要

 2015年5月現在、契約店舗数は800店にのぼる。月額利用料20,000円(複数店舗を展開している場合は、10店舗で各店10,000円というようにボリュームディスカウントとなる)に見合うメリットがあると評価されている証だ。

「まず、これまでは機会損失になっていた営業時間外の予約が取れるようになります。web予約を導入すると、電話だけで受け付けていたときよりも予約の総数が増えるのは明らかで、集客を安定的に増やす一つの大きな戦術なんです。それから、お客さまが予約時に自身で入力するデータを蓄積できる点も好評を得ています。“このお客さまは新規なのか、既存のお客さまなのか”ということや、もっと踏み込むと“前回は何を召し上がったのか”ということが、顔を認識していなくてもわかるんです。業界でいうところの顧客認識=リコグニションが容易にできるということは、店側にしてみると大きなメリットなんですよ」

『ebica予約台帳』を導入することで、web予約と電話予約のダブルブッキングは起こらないのだろうか?

「従来の紙の予約台帳をデジタル化したものが『ebica予約台帳』なんです。片手で操作できますから、予約の電話を受けたら、その場で入力できます。web予約の分も含めて一元管理できますからダブルブッキングの心配はいりません。これはオプションになりますけど、グルメサイト経由の予約も一元管理することができます」

 店にとっては、『ebica予約台帳』で受け付けるweb予約は手数料がかからないというメリットもある。一般的に、グルメサイト経由でweb予約を受け付けると手数料はだいたい5〜10%ほどだという。そもそも予約の多い繁盛店ならば、月額20,000円の『ebica予約台帳』導入は費用対効果が抜群だろう。

 ところで、エビソルは東京の恵比寿にオフィスを構え、現在の自社ホームページのトップには「恵比寿、おもてなしのある街」とある。恵比寿へのこだわりがありそうだ。

「我々は販促支援のビジネスをやろうと決めたので、商売繁盛の神様、えびす様のお膝元で始めようと。会社設立もえびす講の日、10月20日にしました。恵比寿が大好きなんです、僕たち(笑)」

 恵比寿は飲食店の激戦区で、おいしいものといいサービスを提供する店が集まっている。そういう意味でも『ebica予約台帳』を提供するエビソルの拠点としてふさわしいといえるだろう。

電話とwebの「9:1」の差をひっくり返す<>

『ebica予約台帳』の端末画面。これが従来の「台帳」代わりとなる

 飲食業界のweb予約を一般化させようというエビソルの事業は、9:1(電話予約:web予約)からの挑戦といえる。現在は圧倒的な差だが、田中社長は逆転する自信があるという。過去、実際に「9:1」をひっくり返した経験があるからだ。

「前職はインテリジェンスという会社に勤めていたんです。そこで2000年にwebによる求人メディアOPPOを立ち上げました。当時の応募は電話が9、webが1で、現在の飲食店の予約と似た状況だったんですね。業界に影響力のある方からも、『アルバイトはweb応募にはならないよ、田中くん。アルバイトは電話で面接が始まっているんだから』と言われました。ところが、OPPOを始めてしばらくすると比率は逆転して、業界によっても違いますが、現在は中途と新卒はほぼ10:0、アルバイトも8:2くらいになっています。エビ反り型のビジネスモデルなので、ブレイクするまでがたいへんですが、飲食店のweb予約も逆転できるという見通しです」

 エビソルの社員はOPPOを立ち上げたときのメンバーが中心だ。インテリジェンスが大きくなっていく過程で、それぞれが大手IT企業などに転職していったが、田中社長の呼びかけで再集結したのである。ベンチャー精神をもったプロフェッショナルたちが集まり、一つの目標に向かって力を結集している点がエビソルの強みだ。

「2020年の東京オリンピックまでに契約3万件というのが目標です。いろいろな試行錯誤をしながら、お客さまに利用していただく必然性をつくっていく取り組みが非常に重要だと考えています。日本の飲食店のおもてなしのレベル、スタッフのリテラシーは世界でほぼナンバーワンだと思うんですが、予約についても便利で心地いいサービスが増えていったらいいですね。『ebica予約台帳』のweb予約フォームも、現在提供している英語・中国語の他にも需要の多い言語に順次対応できるよう、多言語対応可能な仕様に先日変更しました。このような必須とされるインバウンド対応のほかにも、今後も店舗の商売繁盛につながる、メリットの高い機能の提供をしていきます」

(取材・文/浅羽 晃)

田中宏彰(たなか・ひろあき)株式会社エビソル代表取締役社長。獨協大外国語卒。1996年インテリジェンス入社、2005年執行役員。2011年10月株式会社エビソルを設立し、現職。