Jリーグで活躍する畑尾大翔選手(左)と、独ヘルタ・ベルリンの細貝萌選手が対談

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「CTEPH(シーテフ)、慢性血栓塞栓性肺高血圧症」という難病の存在を「一人でも多くの人に知ってもらいたい」と、2013年からバイエル薬品とともに啓発活動に取り組んでいる、ドイツ・ブンデスリーガ1部のヘルタ・ベルリンで活躍する細貝萌選手(29)。

一方、気づかずに放置していれば、CTEPHになってしまう可能性がある慢性肺血栓塞栓症を克服してJ1・ヴァンフォーレ甲府でプレーする畑尾大翔選手(24)。

2015年6月21日、そんな2人が病気の早期発見、早期治療を訴えるとともに、日本に現在わかっているだけで約2000人いるとされるCTEPH患者にメッセージを送った。

「ファンの励ましが大きな力に」

CTEPHは、肺の血管の内側に血のかたまり(血栓)が詰まり、血液が流れにくくなって、肺動脈へかかる圧が上昇する肺高血圧症の状態が続く病気。肺と心臓の血液の流れが悪くなるので、息苦しさやカラダのだるさ、胸の痛みなどの症状が表れる致死性をもつ難病指定の疾患。

治療法としては、血栓を取り除く外科手術や、カテーテルで血管を広げる治療が行われている。また、最近では肺動脈を広げる作用がある内服薬での投薬治療もあるが、「医師のあいだでもあまり知られていない病気なので、診断できないケースがあるほど」と、東京大学医学部附属病院循環器内科の牧尚孝助教は話す。

畑尾選手は、「最初はなにがなんだかわからなかったんです。『なんだかコンディションが悪いな』というくらいでした。それがしだいに悪化して、肋骨が折れているような痛みが走った」と、振り返る。病院で検査した結果、放置すれば難病のCTEPHになってしまう慢性肺血栓塞栓症と診断された。

それが早稲田大時代の2012年。当時、主将としてチームをけん引したが、この病気のせいで全日本大学選手権(インカレ)の出場は叶わなかった。

その後も「5年生」として大学に残った畑尾選手は、病気との格闘が続く。同期の友達や仲間がJリーグや一般企業で活躍する姿に、「正直、焦りましたよ。悔しかった」。その一方で、「応援してくれているファンから、メールやSNSでの応援メッセージがうれしかった」とも語る。

13年9月に手術を行い、その後は懸命にリハビリを積みながら、14年3月に大学を卒業。同年6月にヴァンフォーレ甲府入りした。ピッチに立って、「もうアップしているときのファンの声援だけで泣きそうでした」。

そんな畑尾選手に、細貝選手は「知られていない病気だと、なかなか(周囲の)理解も得にくいよね。すごいよ。ホント、大変だったと思う。家族のサポートや周囲の協力も大変だったと思う。それがなければ、前進していけないから。つらいときのファンの励ましも、『こんなに思ってくれる人がいる』って感じられるので大きな力になるよね。僕もそういったことがわかるから、こうした(「CTEPH啓発大使」の)活動をしているんだけど」と話す。

難病患者をサポート! みんなで走った1329キロメートル

じつは細貝選手が「CTEPH啓発大使」に就任したのには、こんな理由がある。

「僕は兄の影響でサッカーをはじめたのだけど、その兄が病気でサッカーを続けられなくなった。つらそうな兄や家族の大変さを目の当たりにして、自分自身、病気をすごく身近で感じることが多かった。そんなこともあって、自分でもなにか病気で苦しんでいる方やご家族の方をサポートしたいという気持ちが強かった」

バイエル薬品は、「CTEPH」のことをたくさんの人に知ってもらい、多くの患者への支援につなげていくことを目的としたCTEPHの啓発プログラム「6 Minutes Run for CTEPH」を、13年から実施。15年6月21日は、その結果発表会も行われた。

この「6 Minutes Run」(6分間走)は、CTEPHの診断時の目安「6分間歩行」にちなんで設定。東京や札幌、大阪などのイベントで、細貝選手や一般公募の参加者が6分間に走った合計距離と、細貝選手が公式戦で走った走行距離を合計して、1キロメートルにつき1000円で換算した金額を患者への支援プログラムや活動団体にバイエル薬品が助成するプログラム。

過去4回のイベントで走った距離が792キロメートル。細貝選手が公式戦で走った距離537キロメートルの合計は1329キロメートルで、132万9000円を、肺高血圧症(PH)患者をサポートするNPO法人PAHの会へ寄付した。

細貝選手は「自分がサッカー選手として、全力で走っている姿を見せることでサポートできればという思いもありますし、この『CTEPH』という病気をもっと多くの人に知ってもらいたい」と話す。

多くの人に「知ってもらう」ことで、CTEPHの早期発見、早期治療にもつながる。「慢性肺血栓塞栓症はなかなかわかりづらい病気で、自分もCTEPHになってしまう前に発見できたので早期治療ができました。自分で判断せずに、医師に診てもらうことが本当に大事です」と畑尾選手。そして、たとえ病気だったとしても、「夢や目標に向かって、ポジティブな気持ちを持ってほしいです。夢や目標への強い気持ちを持ち、それに向かっていくことは治療にもつながると思います」と、CTEPH患者にエールを送る。