社是社訓と、経営理念の違いとは?社是と社訓の作り方/小笠原 昭治
【1】社是は、一社に一つ、大方針のセンテンス【2】社訓は、創業者や経営者の、教えや戒め【3】社是社訓と、経営理念の違いは、広義に解釈すると、違い無く、狭義に解釈すると、社是社訓や経営理念の定義に則っているかどうかの違い

1.社是とは?社是の作りかた
社是(しゃぜ)と、社訓(しゃくん)は、社○と社○で、文字づらが似ているため、内容も同じように勘違いされがちですが、異なります。

社是は、国是のように、「この考え方や、方向性で行く」 という(企業の)

大方針を、
一つだけ、
数文字に凝縮した
センテンス(まとまった内容を表現して、言い切ったフレーズ)

のこと。たとえば、
国是と比較
してみましょう。

江戸時代の日本は「鎖国」(二文字)が国是でした。

今の日本は「非核三原則」(五文字)が国是です。

スイスの「永世中立」(四文字)も国是といっていいでしょう。スイスは国是と明言していませんが。

そうした数文字が、

「あなたの会社では、何になりますか?」

というのが社是。
国是が、国家に一つなように、社是も、一社に一つ
です。

「いやいや。何ヶ条も、長々と書き連ねた社是だって、あるだろう」

って?

はい、あります。

それが、社是社訓、経営理念の違いを混同させる原因になっていますので、先ず、言葉の意味から復習してみましょう。

社是とは、辞書によると

「会社や結社の経営上の方針・主張。また、それを表す言葉」

だそうです。要するに、経営の
方針・主張
ですね。

「それじゃ、経営方針と一緒じゃないか」

って?

その通りです。言葉の意味を追究すれば、そうなります。そこで、
一社に一つ
という社是の単一性が活きてきます。
社是は一つ、経営方針は複数可
ですから、
経営方針の中から最も重要で普遍的な条項を一つ
抜き出して社是に掲げれば、社是の出来上がり。

なので、先ずは、経営方針を作りましょう。

では、方針の意味とは?というと、同じく辞書によると、

「めざす方向。物事や計画を実行する上の、およその方向」

だそうです。東西南北、どこへ行くか?
方向性
ですね。つまり、辞書によると、社是とは、

「あっちへ進む」

という経営の
方針と方向性
を指します。両者に共通しているのは、「どこへ行くか」
ざっくりとした方角
です。方角ですから、抽象的で構いません。たとえるなら、飛行機で行くとか、船で行くとか、幾らで行くとか、何月何日の宿泊先はドコにするといった具体性は、あとの話で、先ずは、行き先の方面ありき。東西南北どこへ行くか?それが、国家の場合、

鎖国=幕府だけが貿易して儲けるぞ。基督教を禁止するぞ。
非核三原則=米国の核の傘に入るぞ。戦争しないぞ。
永世中立=自分の国は自分で守るぞ。軍事同盟しないぞ。

という是非になり、これが、企業の場合、社是になりますので、
経営方針の是と非を一つのセンテンスにまとめる
だけで、社是の出来上がり。

では、理念は?というと、同じく辞書では、

「ある物事についての、こうあるべきだという根本の考え」

で(考えで)、社是である方向性も方針も、
理念(どうして、その方向へ進むのか?その針路へ進む考え)
に含まれます。社是も「考え」、社訓も「考え」、理念も「考え」ですので、
社訓も、経営理念も、一緒(=経営者の考え)
となって判断に迷うわけです。

理念が、考えということは、経営方針も、経営戦略も、経営指針も、経営哲学も、経営思想も、企業理念も、企業戦略も、企業憲章も、企業綱領も、企業信条も、企業使命も、行動指針も、行動規範も、すべて理念に含まれます。
すべて理念に含まれるから、経営理念と、社是の区別が、つきにくい
のです。実際、そう考えている(一緒でいいと考えている)企業は多いようで、

社是が、社訓だったり、
社是と、経営哲学が、同じ意味だったり、
企業理念という名の、経営理念だったり、

偉人の人生訓が、そのまんま、社是になっていたり、

まるで修身(戦前教育)のような漢字数文字の道徳

だったりします。だから、社是社訓と経営理念がゴチャ混ぜになり、

何ヶ条も、長々と書き連ねた社是だって、あるし、

漢字一文字や、二文字の社是だって、ある

ワケですが、それで社是を作ることができるのなら、それでいいのです。(あればいいのです。無ければ「あの企業と何が違うの?」と存在意義を示せませんからね)。どんな社是を作るかは、
その企業の自由
であって、正誤の問題ではなく、
経営理念 > 社是
の位置関係であるに過ぎません。

しかし、

「そんなんじゃ、抽象的すぎて、社是を作れないよ」

という企業のために、筆者なりの定義をまとめてみますと、社是は、

一社に一つ

この方向で行くという大方針を

数文字に凝縮したセンテンス(まとまった内容を表現して言い切ったフレーズ)

です。以上の
三項目が、社是には、揃っている
こと。そう定義すると、ほとんどの企業の社是が、社是ではなく、経営理念や、経営方針や、社訓になってしまいますが(本当)、よそ様はよそ様として、

「経営者の考えという広義ではなく、社是の意味に焦点をあて、こだわり抜いて、狭義に考えたい」

という企業の皆様は、

一社に一つ

この針路だけは守り抜くという大方針を

数文字に凝縮したセンテンス(まとまった内容を表現して言い切ったフレーズ)

で社是を作ってみてください。3つの条件という制限がありますから、漠然とした「方向性」よりも考えやすくなるはずです。

むしろ、
造語ならオリジナルの独自性
が出ます。たとえば、キューピー社の社是が、造語です。

http://www.kewpie.co.jp/company/corp/philosophy/

造語ですから、
世界に一つ
他に、同じ社是は、存在しません。

ちなみに、社訓も、「親を大切にする」という、他社には見られない珍しい社訓で、中学生にでもわかりやすく、平易で、社員には親がいて、社員である前に人間であるという本質を突いた社訓になっています。(が、筆者、キューピー社の回し者でも、ファンでもありません、事実を述べたダケでした)
2.社是の定義と、社是を作るときの落とし穴
「社是は一社に2つじゃダメ?」

かって?

いいんです、一つだけ社是にして、あとは経営方針にすればいいんです。

こうしなければならないというルールも

こうあるべきだという義務や押し付けも

さもなくば罰するという法律も

制限ありませんから、どのように作ったって、いいんです。その
社是を、社員が記憶できる
のなら。社是は、法人の心の叫びですから、社員に覚えてもらうには、
「そもそも、社是とは何ぞや?」
の定義から理解してもらうことです。社是の重要性を理解できなければ、社是の意味を理解できるはずありませんね?

それが(筆者の定義によると)
「たった一つ。この方針で、経営していく」
という経営者の念(今の心)です。

今の心ですから、あとで変えたっていいんです。鎖国のように。

あとから変えた例を挙げたいところですが、よそ様の社是を、とやかく言う筋合いではありませんので、漠然とした例を挙げますと、
顧客満足
(四文字)の意味合いを社是に掲げている企業が多いようですね。

一説によると、日本企業の90%(!)が、社是に位置づけていなくても、何らかの企業声明として、顧客満足や、顧客第一を掲げているそうです。

顧客満足を社是に掲げると、他社と同じになって独自性に欠ける他、もう一つ、単なるお題目に終わってしまう落とし穴があります。

顧客満足を社是に掲げるときは、数値目標を掲げ、名文かつ文学的にするだけで終わらせないようにしましょう。

数値(顧客満足度)によって、社是が実現できているかどうか計測可能にしておくことです。余談ですが、これをマーケティングでは、CSM(customer
satisfaction measurement)カスタマー・サティスファクション・メジャーメントといいます。

なぜ、顧客満足度が必要なのかって?

数字で可視化するためです。

余談に余談を重ねますが、CSMを計測して、誰が最も喜ぶか?というと、営業マンです。(その理由は、主題が逸れますので、別の機会に)
3.社訓とは?社是と社訓の違い。
もう一方の社訓は、従業員に守ってもらいたい訓示や訓戒のこと。 家訓と同じです。
訓の前に「社」がつくか「家」がつくかの違い
ですから、家訓のほうがピンと来やすい方々もおられましょう。

江戸時代の商家は、今の会社に相当しますから、たとえば、ドラッガー教授をして「マーケティングの祖」といわしめた三井家の家訓(家憲)を借りると、

同族の範囲を拡大してはいけない。同族を無制限に拡大すると必ず騒乱が起こる。同族の範囲は本家・連家と限定する。

結婚、負債、債務の保証等については必ず同族の協議を経て行わねばならぬ。

毎年の収入の一定額を積立金とし、その残りを同族各家に定率に応じて配分する。

人は終生働かねばならぬ。理由なくして隠居し、安逸を貪ってはならぬ。

商売には見切りが大切であって、一時の損失はあっても他日の大損失を招くよりは、ましである。

他人を率いる者は業務に精通しなければならぬ。そのためには同族の子弟は丁稚小僧の仕事から見習わせて、習熟するように教育しなければならぬ。

大名貸しをしてはならぬ。その回収は困難で、腐れ縁を結んでだんだん深くなると沈没する破目に陥る。やむを得ぬ場合は小額を貸すべし、回収は期待しない方がよい。

以上のように、あなたの会社の従業員に、これだけは守ってもらいたい
創業者や経営者の訓示
(訓えや戒め)を
社訓といいます。
作るのは、創業者や、経営者
ですから、社訓には、経営者の思想や哲学が反映されます。経営思想や経営哲学あっての社訓です。なので、
経営思想や経営哲学を箇条書き
にして下さい。その中から「社員のみんな、こうしてくれ。これだけは守ってくれ」という願いを抜き出してください。それが社訓になります。

英語では、社訓も、社是も、クレド(company credoまたはcompany creed)なので、近ごろでは、英語(やラテン語)で、クレドと呼び、社訓と社是を同一解釈する企業が増えてきました。

それはそれで、その企業の自由とはいえ、しかし、
「英訳すると、同じ意味なんだから、社訓と社是は一緒」
という解釈では、あまりにも日本語が可哀想ですよね(笑)

特筆すべきは、ブラック企業と呼ばれる会社の社是や社訓を見てみると、総じて、

かっこいい(だけで内容に乏しい)
文学的(で意味不明)
他社にも、ありがち(パクった?)
そもそも、社是や社訓が、無い

ことがお分かりになるでしょう。

さて、社是と社訓は異なることがお分かりになりましたか?おさらいしますと、

社是は、会社の大方針
社訓は、訓戒や心構え
社是と経営理念の違いは、広義に解釈すれば、違いが無く、狭義に解釈すれば、社是や経営指針それぞれの定義に則っているかどうか

です。社是や社訓、経営理念を作ろうとすると、先ず、大企業の例から調べ始め、プリンティング(刷り込み)効果が生じ、大企業の社是社訓や経営理念を模範にしがちですが、大企業は勝った官軍ですから、

大企業の企業声明は正しいと思いがちですし、

有名企業というだけで、後光が射しているように見えますし(ハロー効果)

作り方にルールはありません

ので、真似るのも良いでしょうけれども、大企業と戦ってナンバー1を勝ち取るのならばともかく、オンリー1を目指すなら、オリジナルの社是社訓や、経営理念を創るほうが、理に適っていますよね。あなたの会社は、世界で唯一、
あなたの会社だけ
なのですから。

ちなみに、一例として、弊社の社訓と、社是は、こちら(筆者作)

http://www.interactive-marketing.co.jp/ltd/syzskn.html

大企業でなくたって、一寸の虫にも、五分の魂があることを、社是は示すことができますよ。