佼成学園、帝京を破る。小玉4安打1失点の完投

佼成学園・小玉和樹

 高校生は、一度成長軌道に乗ると、一気に飛躍することがある。身長168センチ、佼成学園の小さな大投手・小玉 和樹もそのケースだ。昨年の4月7日、春季都大会の3回戦(試合レポート)で帝京と対戦した佼成学園の2年生エースであった小玉は、3回まで抑えながら、打たれ始めると統制が効かなくなり、4回以降、独り相撲をして打ち込まれた。昨年の秋季都大会(試合レポート)でも都立篠崎に、3回に一気に5点を取られて、コールド負けを喫している。 この春小玉は、別人のように成長した。そしてこの日の帝京戦は、この大会に入ってからも、進化を続けていることを実感させる投球であった。

 1回表帝京は、2番酒井雷太がセンターへ低い弾道のライナーの本塁打を放った。しかし、小玉は慌てない。「狭い球場なので、ホームランは2本まではOKと思っていました」と語る。それでも帝京打線には、「体が大きいので、甘く入ったら打たれる」と、警戒を怠らなかった。

 この日の小玉は、「チェンジアップ気味のシンカー」と自身が語る、遅い球を効果的に織り交ぜながら、帝京打線を翻弄し、ここ一番の場面では、141キロほどのストレートを、外角いっぱいにズバッと決めた。そんな小玉の真骨頂は、7回表の投球であった。一死後、3番小峰 聡志に二塁打を打たれるものの、4番中道 大波はストレートで三振を奪い、続く笠井拓弥には10球粘られて四球を出すものの、次の打者の郡拓也には外角いっぱいにストレートを投げ込み、三振に仕留めた。

 佼成学園は打つ方では、2回裏に帝京の先発・伊藤 靖晃を捉える。右前安打で出塁した4番橋本大征を6番中嶋瞭が二塁打で還し同点。さらに7番山崎佑介の中前安打で中嶋も還り逆転した。中嶋はもともと3番を打ち、山崎も2番を打っていた。こうした打者が下位打線にいるのは、藤田直毅監督が打線を組むのに苦労していることを表しているものの、逆に言い方をすれば、上位も下位もさほど変わらない力を持っているとも言える。

帝京・稲毛田渉

 一方帝京の先発・伊藤は、この2点で稲毛田 渉に交代した。「変化球を狙われているときに、抑える球威がない」と、帝京の前田三夫監督は嘆く。それでも代わった稲毛田は、3〜6回を無失点で抑え、試合は緊張感のある状態で7回裏に進む。二死後佼成学園の7番山崎が内野安打で出塁すると、好投の8番小玉がレフト線に二塁打を放ち、待望の追加点。小玉は4回戦の八王子戦でも試合を決める二塁打を放っており、打撃も良い。さらに7回表からライトの守備に入っていた9番剣持幸作の左前安打で小玉が還った。

 8回裏にも佼成学園は、4番橋本、6番中嶋のタイムリー二塁打などで勝負を決定づける、2点を追加した。これまで下位打線で得点をすることが多かったので、橋本のタイムリー二塁打は、「やっと4番がタイムリーを打ってくれた」と藤田監督が胸をなでおろす一打であった。

 9回表帝京は一死後3番小峰が相手三塁手の失策で出塁するも、中道の遊ゴロは併殺打となり、6−1で佼成学園が帝京に快勝した。試合後佼成学園の藤田監督は、「小玉がよく粘ってくれました」と、小玉の好投を称えた。小玉もこの日の好投は、「自信になりました」と、笑顔をみせた。

 一方敗れた帝京の前田監督は、「これ以上勝たせると危険。勘違いする」と、手厳しく語った。それだけ、チームの力が上がっていないことを意味する。特に4番で注目の中道は、昨夏のような躍動感が影をひそめ、不振が続いている。昨秋、打ち込まれた小玉が春には見違えるように成長している。帝京には、もともと力のある選手が揃っているだけに、夏までの時間は限られてはいるものの、成長を期待したい。

(文=大島 裕史)