昨夏5試合で29盗塁マークの蕨が5回10盗塁で圧倒!

盗塁を試みる蕨の選手

 昨年、埼玉大会5試合で29盗塁と驚異的な盗塁数を記録した蕨。昨年は健大高崎が足で全国ブームを巻き起こしたが、ここにも足で勝ち上がったチームがあったのだ。その蕨の機動力を支えるのが就任5年目の黒須監督だ。黒須監督が、走塁を鍛えるきっかけについて聞いてみると、「野球は4つの塁に対し、3つのアウトしかない。ランナー一塁から出塁をして、1つずつアウトで進塁をさせても、得点ができない。ならば、盗塁をすることで、チャンスを広げようと思ったのがスタートでした」

 確かに盗塁をして、二塁、三塁と進めていけば、内野ゴロでも点が取れる確率が高くなる。黒須監督は、走塁の基本的な考え、テクニックを選手たちに叩き込んで、機動力のあるチームとなっていった。この試合でも、走塁でかき回していった。

 まず1回表、瀧澤が失策で出塁、2番五幣が左前安打で出塁。無死一、二塁からダブルスチールに成功。見事な速攻で、3番山崎の犠飛で1点を先制すると、4番馬場の左中間を破る三塁打で2対0。さらにバッテリーミスで生還し、3対1。二死から6番小島が死球で出塁すると、小島が盗塁を決め、二死二塁とすると、7番小澤が左前安打で4対0とする。小澤も、二盗、三盗と決め、この回、4盗塁を決めた。もし盗塁がなければ1点も取れなかったかもしれない。それだけ蕨の足は強力な武器なのだ。

 蕨の選手は元から足が速かった選手、盗塁ができる選手ではなかった。「みんな、普通の選手です。そこから走れるテクニックをたたき込んでいきます」一人の選手だけではなく、多くの選手が走れる。そこが蕨の強みなのだ。

好投を見せる木下投手(蕨)

 その後も、蕨は点を追加していった。2回表、無死一、三塁でチャンスを作れば、一塁走者の瀧澤が盗塁を決め、2番五幣の2点適時打で6対0。これも瀧澤の二盗がなければ、2点を取ることはできないが、何より素晴らしいのは、ワンヒットでホームに還れることである。黒須監督はそのことについて、「うちは打力がないので、前進守備をとられやすく、なかなかワンヒットでも還れない。でもそういう中で、点を取っていくには、リード、スタート、判断を磨いていくしかない」

 確かに本塁を駆け込んだ時の走者は全く迷いが感じられず、非常に思い切りが良かった。蕨は走塁姿勢がしっかりと叩き込まれているのが伺えた。

 蕨は3回以降も足を絡め、また走塁と同時に打線もどう絡められるかもテーマであった。3回表は4安打で3得点、4回表は5安打で3得点を挙げ、計5回で16安打10盗塁12得点を上げ、残塁は5つと非常に効率の良い攻め方ができていた。

 投げては背番号18の木下が好投。左腕からストレート、スライダーを絡め、安定した投球。木下は秋まで背番号1をつけていたが、オープン戦は不調に陥っていた。それでも先発だったのは、捕手の瀧澤が木下に投げさせてほしいと直言したから。「瀧澤は夏も経験している選手。彼が初戦は木下が投げさせてほしいと申し出たので」選手の提案を受け入れているのも蕨のチームカラーである。背番号決めは投票制、また最終的には、黒須監督、部長、主将、副主将、下級生の代表者、チーフマネージャーを集め、代表者会議を実施し、決めていく。自主性を尊重するチームなのだ。

 黒須監督が徹底とした走塁指導を行いながら、選手たちは走塁技術を磨き、そして選手たち自身で、チームの骨組みを作っていく。着実としたチーム作りが行われているのが伺えた。 今まで目標に掲げていた夏のベスト8は昨年で達成した。今年はそれを超えるベスト4を目指して、取り組む蕨ナイン。今後も、足でかき回す蕨野球を見せてくれるか注目をしていきたい。

(文=河嶋 宗一)