【ライブドア・ニュース 26日 東京】 ─ 火山活動の影響で全村民の島外避難が4年4ヵ月余り続く東京都三宅村(伊豆諸島・三宅島)の住民は、来月以降、避難指示解除により帰島できることになった。その一方で、生活基盤や安全対策など帰島をめぐる状況と住民の意向との「ねじれ」が、住民説明会や役場の相談窓口で顕在化している。未だガスが放出し続け、マスクが手放せない生活が続く中、今月5日に出された避難指示解除を、複雑な思いで受け止めた島民も少なくない。2月1日の夜10時30分、帰島する第一陣の住民約100名を乗せた定期船が、東京・竹芝桟橋を出航する。(特集・全6回)


「リスク・コミュニケーション」
村民、聞き慣れぬカタカナ言葉に戸惑い


写真は、説明会で村執行部に質問する村民(先月23日、都庁にて)
 帰島には「火山ガスとの共生が不可欠」とする三宅村は昨年末の12月24日、ガスの濃度の高い地区での住民の居住禁止や立入り制限を掲げた「安全確保条例」を制定した。村の責務として、村民との「リスク・コミュニケーションの促進」が掲げられている。

 リスク・コミュニケーションとは、災害や危険な化学物質などのリスクに対し、住民が適切に対応できるよう、情報や考え方を共有するための対話を意味する新たな造語だ。この聞きなれぬカタカナ言葉に、戸惑う村民は少なくない。

 規制の対象となる「火山ガス高濃度地区」の157世帯・331人に向け、村は同条例案を議会に提出した前日の昨年12月23日になり初めて、住民説明会を都庁で開いた。118名の参加者からは新条例の内容について、「なぜ直前まで住民への説明がなかったのか」などと、村の説明責任を問う声が続出。これまで行き場のなかった住民の不安が噴出した。

 説明会に参加した山本喜美代さん(63)は「村は『自己責任』での帰島と言うけど、近所は70代以上のお年寄りばかり。ガスが出たらどう抱えて逃げればいいのか、教えてくれない」と頭を抱えている。

 昨年7月に村が行った村民意向調査よると、回答者の77%が、説明会が開かれた場合に出席する意思を示した。安全条例でリスク・コミュニケーション機会の設置を掲げるものの、これまで村によるその実施には至っていない。今後のその機会について、「都内での説明会は予定していない。帰島後、島内の各地域で小規模の説明の機会を設ける」と弁明した。仕事や学業を理由に早期帰島できない村民への対応は、港区の同村東京事務所に残る職員約10名が対応することになる。

 火山ガスからの身を守るための避難マニュアルや心構えなど書かれた「防災のしおり」が、役場から村民の手に届けられたのは、帰島が始まる11日前となる今月20日。住民説明会で不安に悩む村民に、その発行を確約してから1カ月かかった。帰島開始まであと6日。火山ガスへの心構えもままならず、故郷を目指す村民も少なくない。【了】

ライブドア・ニュース 常井健一記者

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