■2月特集 2015年躍動するホープたち(7)

 昨年12月の全日本選手権で、小塚崇彦や町田樹、無良崇人を抑えて2位になった宇野昌磨、17歳。その才能は、ノービス時代から際立っていた。そして、この1年の急成長は誰もが注目するところだ。

 今シーズンの躍進の要因は、4回転トーループとトリプルアクセルの習得にあった。

「どちらも同じ時期に跳べるようになったけど、跳べない時にもいろんな人に教えてもらって、練習をしてきた結果だと思います」

 こう話す宇野は、昨年夏のオフシーズンに、アンソニー・リュウコーチやイリア・クーリックコーチから、4回転トーループについてアドバイスを多くもらった。その教えを何度も繰り返し、「一番やりやすい跳び方を見つけられた」宇野は、以前からトライしていたトリプルアクセルにも「新たな気持ちで取り組めるようになった」という。

 今シーズン、力強い滑りを見せている宇野が、まず結果を出したのは昨年8月のアジア杯だった。この大会のシニア男子の部に出場した宇野は、トリプルアクセルはSPとフリーともに転倒したものの、4回転トーループをフリーで決めて優勝した。

 アジア杯後、宇野はフリーで4回転を2回入れることを決意し、9月のジュニアGPメーテレ杯(名古屋)では2本目が回転不足になりながらも、ともに着氷して結果は2位。そして、10月のジュニアGPクロアチア杯では2本とも成功させて優勝し、12月のジュニアGPファイナル(バルセロナ)進出を決めた。

 その後、11月下旬の全日本ジュニア(新潟)で初優勝。続くジュニアGPファイナルではフリーで4回転トーループを含むすべてのジャンプをクリアに決め、スピンとステップでもレベル4を取る完璧な演技を披露した。結果は、ジュニアのフリーで初の160点台となる163・06点を出し、合計238・27点で優勝。日本人では05年の小塚崇彦と09年の羽生結弦に次ぐ3人目のジュニアGPファイナル覇者となった。

「SPでは練習してきたことをできていなかったけど、フリーはそのミスを打ち消すくらい、自分でもビックリするような演技ができた。優勝も嬉しいけど、練習してきたことが無駄にならなかったことの方がうれしい。4回転を降りられるようになった時は、スケートをやっていてよかったなと思いました。それを大きな試合で決められたのがすごくうれしいです」

 そして、全日本選手権では、SPで4回転トーループを入れ、ほぼパーフェクトな演技で85・53点。羽生と町田に次ぐ3位につけると、フリーでは165・75点を獲得し、出場4回目の全日本で2位となった。

 指導する山田満知子コーチは「大きな大会で頑張りきれたのが嬉しい。全日本ジュニアでいい演技ができなかったが、昌磨はそれが悔しくてすごく練習をした。一番変わったのはあの時です」と話す。

 宇野自身も「全日本ジュニア後、4回転と2回のトリプルアクセルを練習でもノーミスでできたことはなかったけど、GPファイナルの前に4回転の練習をかなり増やしたので、それが生きたと思います。今年は、今までで一番成長できた1年だった」と笑顔を見せた。

 宇野はもともとスケーティングが基本に忠実。スピンやステップも丁寧にこなすのが持ち味だ。今シーズン、身長が伸びて筋力がついたことで、その持ち味がさらに生かせるようになったといえる。

 羽生は、3歳下の宇野について「ノービスの頃から一緒に試合をしていて、同世代という感じです。そういう選手が出てきたことはうれしい」と、その躍進を歓迎する。一方の宇野は、羽生のことを「ノービスの時もすごい先輩だと思っていたけど、今では一生勝てない先輩だと思っています」と、謙遜して答えていた。

 現在、宇野は4回転の種類を増やすために、サルコウとフリップも練習中だという。同時に、「難しいジャンプを入れることで、表現やスケーティングがおろそかになるのはいやなので、すべて丁寧にやりたい」と、憧れの高橋大輔のような表現力を身につけることも志している。

 宇野は、国際大会のシニアデビューとなった2月の四大陸選手権で5位と健闘。ソチ五輪銅メダリストのデニス・テン(カザフスタン)ら、シニアのトップスケーターとの戦いは大きな糧になったはずだ。3月上旬の世界ジュニア(エストニア・タリン)では、高橋や織田、小塚、羽生に次ぐ日本人5人目の優勝が目標になる。

 宇野の最大の長所、それはいつもスケートのことだけを考えて、競技と真摯に向き合う姿勢だろう。スケート以外は眼中にない。

「スケート以外は何もやらないです。テレビも漫画も見ないし、たまにゲームはするけど、最近は特にはまっているものはないです」

 そんな宇野の身長はここ1年で伸び続けている。現在150cm台後半だが「できれば165cmくらいまで伸びてほしい」。そう言って、はにかむような笑顔を見せる17歳のさらなる成長が楽しみだ。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi