日本シリーズ第2戦で7回3安打1失点と好投した武田(右)と、ねぎらうソフトバンク・秋山監督=10月26日・甲子園 ©KYODO NEWS IMAGES INC.

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◆ チームを救い、勢いをつけた「魔球」!

 CSを4連勝で勝ち上がった阪神と、最終戦までもつれる戦いを制したソフトバンク。甲子園球場で始まった日本シリーズ第1戦は、勢いに乗る阪神が6対2で制した。いいところなく初戦を落としたソフトバンクが第2戦のマウンドに送ったのは、高校卒3年目の右腕・武田翔太。キレのあるストレートと、すさまじい落差の「魔球」縦スラで阪神打線を翻弄し、6回2死までパーフェクトに抑える好投。阪神ファンをもどよめかせ、チームに勢いをつけた。

 武田は大分生まれの宮崎育ち。宮崎市立住吉小学校では、まずソフトボールに親しんだという。住吉中学校では軟式野球部に所属し、軟球で142キロを投げる逸材として注目を集めた。3年夏の県大会で優勝。九州大会に出場するも、初戦で北九州市立大谷中学校(福岡)に敗れた。なお、大谷中のエースで主軸は三好匠(現・楽天)。その年の全国中学校軟式野球大会で3位となるチームだった。3年秋にはKボール(硬球と同じ硬さと重さのゴム製ボール)の選抜チーム「宮崎K-CLUB」のエースとして全国大会出場。近藤健介(現・日本ハム)が主将を務めた「千葉マリーンズ」と対戦した記録が残っている。ちなみに、優勝は三好匠がエースの「福岡選抜」だった。

 九州の野球関係者が注目した進学先は、宮崎市内にある宮崎日大高校。1年秋からエースとなり、九州大会出場を果たす。しかし、フォームに安定感がなく、球筋はバラバラ。ストレートは速いが、変化球はカーブだけ。試合を見ていた関係者は「素材はいいとして、2年後にドラフト1位指名されるとは思えなかった」と振り返る。

 そこから、フォームの修正と変化球の習得、柔軟性のある体作りに取り組み、「脱力した状態から、リリースの瞬間にすべての力を指先に」という理想のフォームを作り上げた。変化球は、タテのスライダー、カットボールなどをマスター。心理学の本を読んで精神面も鍛え、無敵の高校生投手へと成長した。

 150キロ超のストレートに、多彩な変化球。「九州のダルビッシュ」と称され、プロ12球団のスカウトが視察に訪れるまでに。「体のバランスがよく、力強さもある」「タテのスライダーは絶品。下にストンと落ちるカーブはプロで少ないので通用する」「集中力がありながら楽しんで投げている」……。「今年の高校生でナンバーワン」と明言するスカウトもいた。

◆ 「ダルビッシュ2世」から「ホークスの武田翔太」へ

 しかし、全国デビューを期待された3年夏は、県大会準々決勝で敗退。9回、脱水症状から足がつって降板し、チームはサヨナラ負けした。それでも、武田の進化は止まらない。野球部を引退後、食事と筋力トレーニングで肉体を強化。2年夏に70キロだった体重は、80キロを超えるまでになった。

 10月下旬のドラフト会議では、ソフトバンクが1巡目指名。秋山幸二監督は「ダルビッシュ有や田中将大に匹敵する力がある投手」とコメント。「九州の球団で行きたい気持ちもあったので、本当にうれしいです」と笑顔を見せた武田は、目標とする投手を聞かれ、杉内俊哉(現・巨人)、ダルビッシュ有(現・レンジャーズ)、和田毅(現・カブス)らの名前をあげている。入団会見では「スピードボールで三振も取りたいですが、頭を使った投球ができる投手になりたい」「ダルビッシュさんの2世と呼ばれるのはうれしいですが、これからは『ソフトバンクホークスの武田翔太』といわれるように頑張ります」と、自らセールスポイントという笑顔で話した。

 プロ1年目は7月7日に、初登板・初先発・初勝利。そこから4連勝して8勝1敗。パ・リーグから優秀新人賞の特別表彰を受けた。

 期待された2年目の昨季は、右肩を痛めて4勝4敗。リーグワーストの74与四死球も記録した。リハビリと並行して改めてフォームを見直し、今年8月に復帰すると3勝3敗。なんとか間に合った日本シリーズ第2戦、高校時代には届かなかった聖地・甲子園球場で7回を被安打3(1失点)。シリーズ初勝利を飾ったのだった。

 試合後は、「最初は緊張したけど、楽しめました。また一回り大きくなれたかなと思います」とコメント。窮地を脱した秋山監督は「甲子園の応援は凄かったけど、負けずに自分のピッチングができた。素晴らしかった。最高」と手放しで褒めた。

 まったく予断を許さない日本シリーズ。夜空に舞って落ちてくる「魔球」が、再びソフトバンクを救うのだろうか。

文=平田美穂(ひらた・みほ)