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●第一印象は最悪?ソフトバンク代表取締役社長兼米Sprintボードメンバー会長の孫正義氏は3月11日(米国時間)、首都ワシントンDCにあるUS Chamber of Commerce (USCC)において、各方面の業界関係者や政府関係者らを前にプレゼンテーションを披露した。同氏のプレゼンは、米国の通信事情に大きな変化をもたらすことを目指したものだったが、その反応はどうだったのだろうか。プレゼンの内容を紹介した前編に続き、後編では米国メディアや関係者らの反応について述べていく。

○"宣戦布告"と捉えられかねないプレゼン

孫正義」という経営者と「ソフトバンク」という企業について、正直なところ米国の多くの人は知らなかっただろうし、おそらく関心も薄かっただろう。米携帯3位のSprint買収という段階になっても、それほど情勢に変化はなかったとみられる。それがT-Mobile買収の話が出て、大手2社の存在を脅かす可能性が浮上し、ようやく事態の大きさに気付いた関係者らが関心を寄せ始めたところでの孫氏によるスピーチというわけで、ある意味でこれが対外的なお披露目では初となるデビュー講演ともいえるものとなった。

筆者個人の感想としてオブラートを包まずにいうと、日本では通用した手法も、米国では単なる宣戦布告にしか受け止められず、協力者を見つけるどころか全員を敵に回す可能性さえある非常に危険なスピーチだった可能性さえある。

特に米国(ならびに日本)の現状を酷評し、携帯電話会社と地域系通信会社(VerizonやAT&Tは両方のサービスを提供している)だけでなく、CATVや政府機関まで含めて「努力が足りない」「自分なら現状を変えられる」とするのは、少なくともスピーチを聴いた人たちにいい印象を与えなかったのではないか。

ただ、具体的にAT&TとVerizon Wirelessの名前を挙げて直接攻撃することはなく、T-Mobile買収に関する話題については最後まで触れなかった。直接刺激することや意図を探られることを避けたとみられるが、逆に米国における情報通信インフラの貧弱さや、日本で同氏が受けた境遇を非難する発言が目立つ形になったのは、関係者向けのアピールとしては逆にマイナスに作用しているとも考えられる。

●各メディアの評価○酷評が目立つメディア論調

一方で、米国のメディアはこのスピーチを受け、今後の展開を予測しつつ、スピーチに対する評価を淡々とまとめている。代表的なものの1つがReutersの「SoftBank CEO says Sprint could shake up U.S. 'oligopoly'(ソフトバンクCEOがSprintは米国の寡占状況を打破すると述べる)」という記事で、スピーチの内容をシンプルにまとめている。

その中で政府関係者の反応が冷たいという話と、AT&TのJim Cicconi氏の「孫氏が米国の携帯電話でよくない経験をしたというなら、それはSprintを使ったからでは?」というジョークが紹介されている。

このほか、AT&T関係者の「もし政府がSprintのT-Mobile買収を認めたなら驚きだというコメントのほか」、Verizon Wireless / AT&T / T-Mobileの3社が直近で値引き競争を繰り広げるなかSprintが静観している様子を指して「価格競争にSprintが不在?」という記事、さらに孫氏のアピール内容は関係者の疑念を払拭できていないという意見など、比較的冷淡な印象を受ける。実際、スピーチで聴衆の反応があったのもソフトバンク株が急上昇して「Bill Gates氏に並ぶ億万長者に?」と語った部分くらいで、あとは淡々としたものだった。

Bloombergの「Sprint's Fight Against Cable Is Just a Fantasy (SprintのCATV会社への挑戦はファンタジーに過ぎない)」という記事では、関係者の「有線と無線では少なくとも100倍の速度差がある」というコメントを紹介するなど、"無謀"といった表現も散見され、さすがに酷評されすぎという感もある。

もっとも、回線を選ぶ基準は速度だけではなく、利便性という点にあり、実際に日本では固定回線をアパートに引かない学生もいることなどを考えれば、無線が有線を侵食するという説もあながち間違いではない。関係者の反発を招く内容という以外は、至極真っ当なプレゼンテーション内容ではあったと思うが、本人の意図とは別の部分で誤解を招きつつ反論が行われているようにも思える。

●米国のLTE速度は世界最低クラス興味深い話としては、同氏自身のストーリーを掘り下げる記事も出始めたことだ。CNBCでのインタビュー動画のほか、日本のユーザーにも興味深いのはBloombergの「How Steve Jobs Got the iPhone Into Japan (Steve Jobsはどのように日本にiPhoneを持ち込んだのか)」という記事だ。同氏がAppleとの日本での独占販売契約を獲得するまでの初期の話がつづられているなど、ソフトバンクがVodafoneを買収してまで携帯キャリアになりたかった理由が記されている。日本でのスマートフォン市場におけるiPhoneシェアが4分の3という、海外の人間には不思議なデータも紹介されており、改めてこの特異な市場が日本で形成された過程にも注目が集まるかもしれない。

正直、第一印象は最悪に近い感じの孫氏の米国デビューではあるが、今後同氏が日本でそうであったように周囲の反発を押し切って携帯業界再編を実現できるのか。2014年はその前哨戦となる年であり、今後2〜3年を経るなかで評価が固まっていくだろう。

(Junya Suzuki)