北京市協和医院(病院)の李太生教授はこのほど、中国において性行為によりHIVに感染した人がエイズを発症までの期間が短くなっていることを明らかにした。これまでの欧米の研究では、平均で8年程度とされていたが、中国では5年程度で発症しているという。中国新聞社が報じた。

 李太生教授はこれまで、中国におけるHIV感染とエイズ発症について研究してきた。日本の東京大学医科学研究所アジア感染症研究拠点との共同研究にも参加しており、日中の複数の研究者による論文の著者の1人して名を連ねている。同論文で、東京大学医科学研究所アジア感染症研究拠点では岩本愛吉教授(医科学研究所附属病院の感染内科の教授を兼任)や石田尚臣特任准教授が著者として名を連ねている。

 中国新聞社によると、中国国内では北京、上海、広東、河南、陝西、雲南の医療機関13カ所の協力を得て感染者577人におけるHIVウイルスのタイプや発症までの時間を調べたところ、感染から発症までの平均期間は5年程度で、欧米で発表された平均8年よりも相当に短くなっていることが分かったという。

 李教授は、中国では欧米で多くみられるHIVとはタイプの異なるウイルスが増えていることが、発症までの期間が短縮している原因である可能性があるとみている。

 李教授の詳しい研究内容は雑誌「AIDS」(電子版)1月号で発表され、中国内外の専門家の注目を集めているという。

 李教授は、中国の場合にはHIV感染者に対しては臨床的な監視を強め、薬物の早期投与が有効と主張。さらに、中国における研究成果は、状況が似ている東南アジア地区におけるHIVの研究に参考になるとの考えを示した。

 エイズの病原となるウイルスは「Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)」であり、略称としてHIVと呼ばれる。感染後は多くの場合、一時的な症状が出るものの、HIVの増殖にともない免疫担当細胞であるCD4陽性T細胞も多く作られるようになるため、症状はいったんおさまる。

 HIVはCD4陽性T細胞を破壊するため、HIVが一定以上増えるとCD4陽性T細胞が不足して、ニューモシスチス肺炎やカポジ肉腫、悪性リンパ腫、皮膚がんなどの悪性腫瘍、サイトメガロウイルスによる身体の異常が発生し、生命に危険が及ぶようになる。

 これらの症状は、免疫力の低下にともない通常は発症しない感染症があらわれるもので、総合的な病名としては後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome)と呼ばれる。一般的には略称としてAids(エイズ)の病名が用いられることが多い。(編集担当:如月隼人)