【バイトテロ】犯人、店、親、ネット民…犯罪自慢で「法的責任」どこまで!? 弁護士に聞いた

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店内の冷蔵庫に寝転がる、ピザの生地を自分の顔に貼付ける、調味料のボトルを鼻の穴に突っ込む――こうした悪質なマナー違反や犯罪行為を短文投稿サイト・ツイッターに写真付きでアップし、炎上するケースが後を絶たない。

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犯人の多くがアルバイト従業員であり、舞台となった企業には大きな被害が避けられないことから、最近では「バイトテロ」という言葉も定着しはじめてきた。

当人のツイッターが炎上するだけならまだしも、コンビニが本部からフランチャイズ契約を解除されたり、飲食店がバイト全員を解雇し閉店してしまったり、もはや“一個人の悪ふざけ”では済まない事態に発展するケースも出ている。

こうした一連の事件、悪いのは明らかに行為者本人だが、雇用していた店側の責任はどの程度あるのだろうか? また、こんなバカ息子に育ててしまった親に法的責任は生じるのだろうか? 労働問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士に、“犯罪自慢で責任の生じる範囲”について聞いてみた。

今回想定した架空の事件は、よくニュースで報じられている下記のような平均的ケースだ。

【事例】
良心的な接客で知られる居酒屋チェーン「ホワイト亭」。そこで働く19歳の大学生アルバイト・A君がある日、ふざけて食材の入った冷蔵庫に足を突っ込み「涼しいなう」と写真入りのツイートを投稿。すぐさま炎上して、ネットの有志によりホワイト亭△△支店の出来事だと特定された。

本人はツイッターアカウントを削除して逃亡を試みたが、情報はすでに拡散してしまっていて手が付けられない。結局、この事態を知ったホワイト亭本部は公式サイトに謝罪文を出し、当該アルバイト従業員を解雇するとともに店舗を臨時休業。店内の全面清掃および冷蔵設備の買い換えを強いられた。また、この行為があった日以降に来店した客から申し出があれば、飲食代金を全額返却すると発表した。

■犯罪自慢した本人の法的責任

不用意な行為をツイートしてホワイト亭のブランドイメージに泥を塗ったアルバイト学生・A君。すべての元凶である彼の責任は道徳的にも法的にも大きい。

刈谷弁護士が挙げた“賠償請求され得る範囲”は下記の通り、きわめて広いものだ。

・企業全体のイメージダウンに対する損害
・店舗の清掃費用、新しい冷蔵庫の購入費用
・事件の影響で廃棄された食材のコスト
・臨時休業しなければ得られるはずだった利益
・申し出た客に返却する飲食代金
・キャンセルせざるを得なかった広告・宣伝費用
・客が精神的苦痛により企業を訴えて認められた場合の賠償金
・客が体調を崩したなどの健康被害に対する補償(実際に食中毒が起こり因果関係が認められた場合)

また、ステーキハウス「ブロンコビリー」足立梅島店のように、わすか2人のバイト店員が悪ふざけ投稿したことによって他の従業員22人を巻き込んで閉店したケース。これだと請求範囲はさらに広がる可能性があるという。

・閉店により契約履行できなくなった取引先、仕入れ先などに支払う違約金
・巻き添えで解雇される22人への支払い金(給料数ヶ月分など)
・退去に伴って発生する損失(賃貸借の違約金、無駄になった内装費用など)

刈谷弁護士は「アルバイトの悪ふざけ程度で閉店までするのが妥当かどうかという点も含め、必ずしもすべての損害賠償請求が認められるとは限りません」としながら、超高額の請求となることも否定しない。

「社会的な注目度が高い事件の場合、後から真似しようとする人間が出るのを防ぐため、あえて抑制効果を狙って“全部乗せ”で請求することはあります。このあたりは企業側と弁護士が打ち合わせて決めることですね」。

事実、他の報道によればブロンコビリーで“やらかした”2名の元アルバイトに対しては、数千万円規模の賠償請求が予想されているという。さらには威力業務妨害や偽計業務妨害といった刑事責任が加わる可能性もあり、ちょっとした悪ふざけが高く付いたものだと言える。

ちなみに今回の記事はバイト従業員を例にしているが、客として訪れた人間が同じように犯罪自慢をしても、やはり同じ考え方が適用されるという。むしろ「雇用している店側にも一定の責任があるのではないか」という考えが通じない分、実は“ただの客”のほうが裁判で認められる賠償額が高くなる可能性があるそうだ。しっかりキモに銘じておきたい。

■店舗関係者の法的責任

では次に、こんなことをしでかすA君を雇ってしまったホワイト亭(企業側)の責任はどうなのだろうか? 採用担当者、新人教育の担当者、先輩や同僚、店長など、たった1人のアルバイト店員にも多くの人間が関わっている。

刈谷弁護士は「まず関係者に刑事責任はありません。民事上の責任についても“行為者に対して損害賠償を請求する”のが大原則です」と、企業側の人間については明確な賠償責任を否定する。ホワイト亭のチェーン本部が店舗の先輩スタッフに「お前の教育が悪いから後輩が冷蔵庫に入ったりなんてするんだ!」と怒ったところで、それは本部の責任でもあるからだ。ましてや採用担当者が「ああ、こいつは店舗に配置したらいずれ冷蔵庫に入るだろうな」などと予想できるはずもない。

ただし、A君本人が冷蔵庫に入っている現場を目撃したにも関わらず、店長が見て見ぬフリをしていたならば監督責任が生じてくる。

また、一連のバイトテロ事件は基本的に文章と写真がセットになっている。つまり冷蔵庫に入ったA君以外にも、それを止めずに一緒になって面白がり、撮影役を引き受けた同僚がいたはずだ。仮にその同僚をB君と名付けよう。

こんな場合、B君は犯行の幇助役どころか「たとえ冷蔵庫に入っていなくても主犯と完全に同じ賠償責任を負います」と刈谷弁護士は言う。仮にホワイト亭からの訴えが通り、400万円の損害賠償が確定したとすれば、A君とB君の支払い義務は200万:200万ではない。2人とも満額400万円の支払い義務を負うのだ。

「法律で定める損害賠償請求は“被害者の保護”を優先します。総額400万円がホワイト亭に支払われるまで両名の債務は消えません。その負担割合には関知しませんので、A君とB君が話し合って勝手に決めてくださいということです」。

たしかに総額400万円の判決に対して、200万:200万だけの支払いに固定してしまうと、片方が債務の半分(100万円)を踏み倒せば、ホワイト亭は最大でも300万円しか受け取れなくなる。これでは“被害者の保護”原則に反するから、まずは両名に満額の責任を負わせようというのだ。「俺は撮影しただけなのにどうして!?」という同僚・B君の叫びは誰にも届かない。

■犯人を育てた両親の法的責任

バイトテロ事件のニュースを聞くたび、誰もが考えるであろう「どんな環境で育ったらこうなるのか?」「親の顔が見てみたい」。二十歳前後にもなって幼児レベルの判断しかできなかったA君を育てた両親に、法的な責任は生じるのだろうか?

刈谷弁護士は次のように話す。「両親には責任無能力者に対する監督義務がありますが、その境界は判例では小学6年生から中学1、2年生くらいです。今回のようにアルバイトできる年齢になれば独立した“別人格”と見なされるのが普通で、育て方が悪いからといって損害賠償の請求はできません」。

ただし親にも実害が一切及ばないわけではない。ご近所から「あそこの息子さんが…」と陰口を叩かれるのはもちろん、金銭的な出費もあり得る。

「加害者が支払い能力の低い若者だった場合、たとえ高額の請求が裁判で認められても実際に支払われない可能性が出てきます。それを見越して“本来なら2000万円の賠償請求ですが、ご両親を保証人にして500万円、10年分割の支払いにしませんか?”といった和解で決着を付けることが多いですね。私たちも仕事をしていて、“回収の可能性”は一番気にするところですから」と刈谷弁護士は語る。A君自身は巨額の賠償金を回避し、ホワイト亭側も無難に回収可能な金額を得られるわけだ。

なお、和解に持ち込まなくても、アルバイト採用時には両親が「身元保証人」になっているケースも多く、その場合は保証人としての立場からごく自然に両親が損害額を肩代わりする結果となる。

このように、たとえ直接の賠償責任はなくても、バカ息子を世に放った“製造者責任”は両親にも重くのしかかるのだ。

■犯人の情報を拡散させたネット住人の法的責任

犯罪を自慢するのがネット上であれば、手痛いおしおきを食らわせるのもネット住人。反社会的な行為に悪びれもしない犯人に対し、怒りを剥き出した「特定班」と呼ばれるネットの有志たちが個人情報を詳しく掘り起こし、「全力で潰すぞ」のかけ声とともに凄まじいスピードで犯人の情報を拡散させる。本名フルネームはもちろん住所地、生年月日、通っている学校、交友関係、過去の犯罪歴(飲酒や万引き自慢など)まで晒される情報は幅広い。

また、本人の学校名や関係先が判明すれば、そこに電話やメールで詳細を知らせる「電凸」も彼らの得意技だ。そうした“正義感”あふれる有志の活動によって解雇、内定取り消し、留年、退学処分などを食らった人間は少なくない。

しかし当人はこう考えるかもしれない。「たしかに炎上させるようなツイートは悪かったが、報道もされていない個人情報まで掘り起こして拡散するのはやり過ぎだ。俺の人生を狂わせたネット連中を訴えてやる!」と。

第三者から見ればどっちもどっちな話だが、こんな場合は犯罪自慢した人間から、ネットで個人情報を拡散した人々に損害賠償請求できるのだろうか?

刈谷弁護士によると「理論的には請求可能です。ただし現実にそれが割に合うかどうかと言えば別問題になります」という。

こんなケースは、刑事責任としては名誉毀損、侮辱罪などがあり、民事でも同じく名誉毀損、そしてプライバシー侵害などに該当する。しかしこの程度では実際に刑事事件となって逮捕・起訴まで発展するとは考えられず、また民事事件としても扱いにくい。損害賠償を請求する前提として、いくつもの“壁”があるからだ。

特定班が多く活躍する匿名掲示板「2ちゃんねる」を例にすると、まずは訴えの対象を特定するため2ちゃんねる側に当該書き込み(個人情報の暴露)を行なった本人のデータログ開示をさせなければならない。そして、そこからログを取得したとして、今度はそのIPアドレスを割り振ったプロバイダ側への開示命令を出すことが必要。

仮にここまでやって本人を特定したとして、そもそも「フェイスブックに書いてあるプロフィールや日記が果たして“高度に秘匿されるべき個人情報なのか?”」という問題もある。それらを全部クリアしても、得られる損害賠償金はさほど多くない。かかった労力や時間、費用に比べるとまったく割に合わないという。

「なので普通は損害賠償請求までは考えず、サイト運営者に仮処分命令を出して、個人情報の載った部分を削除してもらって終わりです。そのあたりが現実的な落としどころですね」と刈谷弁護士は話す。

ただし「消すと増えます」というネットスラングが示すように、一度でも拡散されてしまった個人情報を完全に消し去ることは事実上不可能だ。いずれ本人が心を入れ替えて就職活動に励んだとき、採用担当者がA君の名前でネット検索をかけ、過去の不祥事を知るパターンは十分考えられる。そうなれば決して雇ってはくれないだろう。

遊び気分で犯罪行為をネット投稿している人たちに問いたい。「まだ未成年だから」「そのうち武勇伝として語れるから」「簡単にテレビのニュースに出られるから」。そんな安易な考えでツイッターに投稿して関係者や家族を巻き込み、自分の一生を台無しにする――その覚悟があなたには、ありますか?

【取材協力】
刈谷龍太・・・弁護士(東京弁護士会所属)。弁護士法人アディーレ法律事務所パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を専門に扱う部署に所属。問題点を的確についたシャープな切り口のトークには、内外問わず評価が高い。サッカーが大好きで、休日はサッカー・フットサルを楽しむ。サッカー日本代表の試合は、睡眠時間を割いてでもリアルタイムで観戦するほど。ブログ『こちら弁護士刈谷龍太の労働相談所』も更新中。

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