ソフトウェアが農業をのみ込み始めた:業界変革に挑むIT起業家たち

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世界最強のITスタートアップ養成所「Yコンビネーター」で修行を積んだ、Farmlogsの創業メンバーたち。誰もが使いやすい農業経営を効率化するアプリを開発し、業界にイノヴェイションをもたらしている。

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いまの農場経営を支える大企業は、実はITに関してかなり遅れている。



シリコンヴァレーのスタートアップ養成所「Y コンビネーター」を卒業し、農業経営のマネジメントアプリ「FarmLogs」を開発したジェシー・ヴォルマーがその状況を解説してくれた。



「アメリカの農業を支えている大企業の多くは、数年前からITを駆使したデータ解析農法『プレシジョン・アグリカルチャー』に未来を感じて、そこに多くの資本を投下しているんだ。彼らが行っているのは、センサーを使って位置情報に基づいた農場の正確なデータを取得し、トラクターをコンピューターに自動操縦させて、種を的確にまいていくといった方法。一見それは価値のある仕組みだと思えるけれど、かかわっている会社についてもっと注意深く調べるとその危うさがわかるよ。例えば、農業機械メーカーのジョン・ディアや、バイオ化学メーカーのモンサントにしても、もともとITに強い企業ではないんだ」



ヴォルマーたちからしてみると、農業の世界はITの未開の地。だからこそ、そこは技術力のあるスタートアップにとって可能性に満ちている世界なのだと言う。



「驚いたよ。ほかの業界と比べて農業はこんなにも遅れているのかと。ユーザーエクスペリエンスは最悪で、話を訊いたファーマーたちの多くは、一度ソフトを導入してみたものの、使い方がよくわからないと言っていた。彼らはわざわざお金を払ってそのソフトを使うためのトレーニング講座を受けさせられていたんだ。ぼくらの感覚だと、そんな教室に座って使い方を学ばなければいけないソフトなんてありえない」



ヴォルマーは、シリコンヴァレーで有名なヴェンチャーキャピタリスト、マーク・アンドリーセンの言葉を引用してこの業界の未来を語る。「アンドリーセンは『ソフトウェアが世界をのみ込んでいる』と表現しているけど、農業はまだソフトウェアにのみ込まれていない場所なんだ。でもそれはどの業界でも起こりうることで、いままさに農業で起こり始めている」。








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データ一元化で酪農をスマートに



酪農家もデータの活用に関してはかなり遅れていると「Farmeron」の創業者、マティージャ・コピックは指摘する。



「例えば家畜の運用コストのデータを毎日解析することは、ぼくらITの人間からしてみれば当たり前のように聞こえるけれど、この業界ではこれまでまだ誰もできていなかったことなんだ」



Farmeronは、牛乳の生産量や餌の量など、農場のさまざまなデータを集めて分析できる、酪農家のためのデータ解析ソフトだ。「農場にはさまざまなデータがあるけれど、それを1カ所に集めて分析することがこれまでできていなかったんだ」と彼は言う。例えばFarmeronを使えば、その日に生産された牛乳の量とそれをつくるのにかかったコストを自動的に算出し、毎日ファーマーに提示することができる。それによってファーマーは餌代から人件費、設備費まで、さまざまなコスト削減のプランを的確に練ることができるようになる。



いまでは、牛1頭ごとのデータまで取得可能になっているのだという。「最近、動物の体温や動作をデータ化することができるガジェットが市場に出回ってきているんだ。牛の体内に埋め込むRFIDチップや、首や足首に取り付けるデジタルデヴァイスなどで、それを導入している農家は、それぞれの牛の健康状態をリアルタイムで把握することができるようになっている」。



コピックは今後またさらに大きなイノヴェイションを成し遂げようとしている。「ぼくらはいま世界中の酪農家のデータを集めているんだ。それをまとめて分析すれば、各ファーマーのデータがどういう意味をもつのかを全体のデータと比較してフィードバックすることができるようになる。もちろん各農家のデータのプライヴァシーは守ったうえでね。それは酪農業全体にとっても大きな意味をもつものになると思う。だからいまその実現にいちばん熱心に取り組んでいるんだ」。



もしそれが実現できれば、酪農業の生産効率は飛躍的に向上することだろう。健康的なおいしい牛乳が、より安価でぼくらの食卓に届けられる日も近い。






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