カードルには普通の人がもらえる基本年金に加えてカードル専用の年金(全てのカードルに加入義務あり)があり、老後は通常の人より多くの額が給付されるそうだ

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フランス人は休んでばかりいる。バカンスが終わったと思ったら、すぐ次のバカンスがやって来る。バカンスの合間に仕事があるんじゃないかというくらい、休んでいるイメージが強い。一方で「有給はあっても取れない」「サービス残業」「社畜」という言葉が並ぶ日本から見ると天国にさえ映る。本当にフランス人は休んでばかりいるのだろうか。

確かにフランスの労働時間は日本に比べて短い。法律上、日本は週40時間となっているのに比べフランスは週35時間と5時間少ない。有給休暇は年30日が認められており、加えて日本のように取りづらい「空気」は無い。こういう数字が強調されると「やっぱりフランス人は休んでばかりいる」というイメージが強まるのだが、ここで一つ疑問が起こる。こんなに休んでばかりいるのに、なぜフランスの社会は(ここ最近は不況だけれど)それなりに回っているのだろうか。企業に務めるフランス人たちに聞いてみると、どうやら「カードル」という存在に注目する必要があるそうだ。

フランス語の「カードル」を直訳すると「枠」という意味だが、企業における「カードル」とは社内のエリート層を意味する。ざっくり言うと、社内には能力ある一部の人と普通の社員がいて、前者は高給がもらえる代わりに労働時間に関係なく馬車馬のように働く。後者は高給でない代わりに定時で帰れるという仕組みだ。

カードルとして採用される人は、大学ではなくグランゼコール(大学より上に位置づけられる高度専門教育機関)を卒業して就職する場合が多い。こう書くと(試験という意味で状況は少し違うが)日本の公務員の「キャリア」と「ノンキャリア」みたいに思われるかもしれない。しかし学歴や就職で失敗した人は一生カードルになれないわけではない。再チャレンジの道も残されており、普通の社員で採用されたものの、その後社内で努力を重ねカードルになる人も多くいる。そしてカードルに中にもランクがあり、より経営のトップに近いカードルになるには他のカードルとの競争に勝つ必要がある。

さて、カードルは労働時間の規定に関係なく馬車馬のように働くと言ったが、実は正確な答えではない。確かに、本来カードルにとって給料とは、自分の能力で生み出す成果の請負額であり時間は関係なかったが、労働時間が39時間から現行の35時間に変更された2000年(20人以下の事業所では2002年から)、カードルにも状況に応じて労働時間の基準が設けられた。しかし全てのカードルに定められたわけではなく、最上位のカードルには時間の制限はない。

日仏の社会を比較する時よく言われる例がある。それぞれの車両に動力が分散されている新幹線と、前後の動力車で残りの客車を引っ張っていくTGV。そんな特徴がここにも表れている。
(加藤亨延)