ザッケローニ監督になって強国を相手にアウェーで究極の腕試しをするのは、今回の欧州遠征(10月12日のフランス戦=パリ郊外サンドニと16日のブラジル戦=ポーランド)が初めて。ホームでこそ南米王者アルゼンチンを1-0で破る大番狂わせを演じたことがあるが、相手が本気で挑んでくる敵地は勝手が違う。その意味では今回の遠征はまさに試金石だった。

 フランスにはベンゼマ(Rマドリード)、リベリ(バイエルン)、キャバイエ(ニューカッスル)、ブラジルにもネイマール(サントス)、カカ(Rマドリード)、フッキ(ゼニト)と有名選手がそろい、ザックジャパンはとんだ赤っ恥をかくのでは…と懸念されていたのだが、フランス戦の後半43分に香川真司(23、マンチェスター・ユナイテッド)が技ありの決勝ゴールを決め、世界中のサッカーファンをびっくりさせた。
 「フランスのデシャン監督は4日後にW杯最終予選のスペイン戦を控えていたこともあり、ちょうどいいかませ犬になると…ナメきっていた。香川をどう抑えるかはポジション次第。本田圭佑(26、CSKAモスクワ)抜きではつなぐサッカーが出来ず、ロングボールを多用するしかないだろう、と上から目線でした。実際、W杯日韓大会を翌年に控えたトルシエ監督時代には、中田英を擁して乗り込んだものの、W杯&欧州選手権王者のフランスに0-5で大敗。それも今回と同じサンドニのフランス競技場が舞台です。そのときの屈辱は今でも『サンドニの悲劇』として語りつがれており、協会首脳も疑心暗鬼でした。しかし、ザッケローニ監督だけは、今回の本田の負傷を好機ととらえ、トップ下を香川にスイッチし、日本とフランスの評価を逆転させるまたとない機会として虎視眈眈でした」(欧州在住のサッカーライター)

 今遠征の本田は、右ふくらはぎ打撲を理由にスタメンを外れ、ベンチに控える戦術を選択した。10月7日の国内リーグのSモスクワ戦では1ゴール、1アシストを決め、欧州最大のスポーツ紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』で欧州ベストイレブンに選ばれていたことを思うと、不自然な欠場には違いなく、さまざまな憶測が流れた。
 まずは「敵前逃亡説」。スポーツ紙デスクが話す。
 「体調が万全でないことは確かでしょうが、試合に出られない状態ではなかった。現地で負傷した前田遼一(磐田)や伊野波雅彦(神戸)は帰国したのに、本田だけはチームにとどまっていた。要は右足負傷を理由に敵前逃亡したのです。フランス、ブラジルに大敗すれば、商品価値がガタ落ちしてしまう、当初それを恐れたのです。ここで活躍すれば、来年1月の欧州移籍市場でビッグクラブへの移籍の道が開けるのに、それを自ら拒んだわけで、日本に勝機はないとハナから決め込んでいたのです」

 今夏の欧州移籍市場ではリバプール(英プレミア)とパリSG(フランス)を第一希望として交渉に臨んだというが、スペインを筆頭に欧州の各クラブは経営破綻の危機に瀕しており、移籍金が12億円ともいわれる本田の願いはかなわなかった。
 次に市場が開くのは来年1月だが、ブラジル代表のMFカカ、FWアウベス(バルセロナ)、オランダ代表のMFスナイデル(インテル)、フランス代表のFWナスリ(マンチェスターC)でさえ、財政難から放出リストに載っているとされ、それよりランクが下がる本田がビッグクラブに移れる可能性は低い。
 「これまでザックジャパンは17勝8分け2敗ですが、その2敗は本田が不在だった北朝鮮とウズベキスタン戦。それを逆手にとって、完敗が予想された今遠征でいかにオレ様の存在が大きいかを見せつける腹だったのです。しかし、結果的にこれが裏目。トップ下の香川が目立つ結果になってしまった。この選択ミスで本田のビッグクラブへの夢は消滅したといっていい」(大手広告代理店担当者)

 もうひとつ。本田がフランス戦出場を拒んだのは、ザッケローニ監督から「ボランチへの配置転換」を打診されたから、という情報もある。
 2014年のブラジルW杯出場は決まったも同然の日本だが、急務なのが本大会へ向けてのボランチ陣の再構築。現在は主将の長谷部誠(ヴォルフスブルク)と遠藤保仁(G大阪)が指定席だが、ザッケローニ監督は若返りを図っている。とりわけ長谷部は今季の開幕前に戦力外通告を受けており、今季のリーグ戦はすべてベンチから外れている。「今回が最後の日本代表」という構想もあり、ザッケローニ監督は長谷部の役回りを本田に期待しているのだ。
 しかし、本田はあくまで「トップ下」にこだわり、香川とのいがみ合いが続く。そこで先のフランス戦では本田の定位置だった「トップ下」には香川を起用せず、中村憲剛(川崎)を配置。しかし、防戦一方だったため、後半17分に中村と長谷部を下げて乾貴士(フランクフルト)と細貝萌(アウクスブルク)を入れ、香川をトップ下に。ここから日本はリズムをつかみ、カウンターから決勝点をゲットした。
 「2列目でC大阪出身の乾、香川、清武弘嗣(ニュルンベルク)の“セレッソ三銃士”が出来上がり、ザックジャパンの完成形が垣間見られた。これこそ香川を最大限に生かすシフトです」(専門誌ライター)

 策士策に溺れる。