10か月前の話だが、2011年8月11日付け本コラムで次のように書いた。

消費税の軽減税率について、「今は5%であるので、軽減税率はない。ところが、10%になれば、軽減税率かゼロ税率の話が必ず出てくる。そして、特定業界は軽減税率かゼロ税率が認められる。例えば、新聞は紙面上では消費税率引き上げに賛成であるが、一方で新聞社には軽減税率が認められることは財務省との間で暗黙の了解になっているという噂だ。……財務省も税率引き上げの一方で、軽減税率などを認めることが権限拡大になるので、ハッピーなのだ」

新聞への軽減税率導入を要求

消費税増税法案は、12年6月26日衆議院本会義で賛成363、反対96という圧倒的多数で可決した。この賛成数は衆議院で3分の2以上であり、再議決が可能なため参議院を無力化できる数だ。民・自・公による事実上の増税翼賛会の誕生だ。

その3党の増税談合過程で、軽減税率が盛り込まれている。新聞協会に加盟している大手新聞は、もちろん消費税増税大賛成で、増税翼賛会のお先棒を従来から担いでいる。

衆議院本会義の可決後、27日の各紙社説は、朝日「一体改革、衆院通過―緊張感もち、政治を前へ」、毎日「大量造反で通過 民主はきっぱり分裂を」、読売「一体法案可決 民自公路線で確実に成立を」、産経「増税大量造反 3党合意これで持つのか 首相は除名処分を決断せよ」、日経「『決める政治』の道筋を示した3党連携」だった。

その一方で、超党派議員が新聞、出版物の消費税率引き上げを反対し、日本新聞協会もそれを後押ししている。活字文化議員連盟(会長・山岡賢次民主党衆院議員)による20日の会合には、日本新聞協会の秋山耿太郎会長(朝日新聞社社長)らが出席し、新聞への軽減税率導入を求めた。なんのことはない。消費税引き上げに賛成しながら、新聞は軽減税率を求め、そのロビーイングを行っていたわけだ。

財務省には「禁酒令」も

軽減税率には具体的に(1)非課税の適用、(2)免税か仕入れ控除ありという二つのタイプがある。(1)は消費税アップによる仕入れ価格アップだけコスト増となるだけでメリットがない。このタイプの業界として医療があるが、めざとい新聞業界はその轍を踏まないだろう。(2)は仕入れコストアップも控除でき、場合によっては輸出業者のように税還付を受けられるかもしれない。輸出依存が大きい大企業が消費税増税に文句を言わないのも理由があるのだ。おそらく新聞業界はしっかりと(2)を求めてくるだろう。

新聞業界が軽減税率を求めているのは前から知っていたが、財務省との関係では、2010年11月、前財務次官の丹呉泰健氏(59)が読売新聞に天下ったころから、かなり煮詰まっているなと感じた。

新聞業界も喜んでいるが、財務省も同じだ。26日の衆議院本会義の採決後、財務省内では安堵感が漂っているという。そんな悲願目前で緩みを警戒して、省内で「禁酒令」がでているようだ。また「白い歯も見せないように」と笑顔も自粛されているという。軽減税率は、個別物品ごとの租税特別措置であるので官僚利権になる。酒飲んで笑いたくなるだろう。

++ 高橋洋一プロフィール高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。