昨日の電力会社の株主総会は、各社とも異例の長時間になり、大荒れに荒れたと新聞は伝えている。株主側からの提案は合計67件にもなった。しかし、そのすべてが否決され、会社側の提案だけが議決された。別に荒れていなかったのだ。

東電の株主総会では猪瀬直樹東京都副知事が質問に立った。その経営体質について鋭く指摘し、特に公的資金を注入され、国営化されるに至っても社員のボーナス支給を予定していることを、鋭く指摘した。ただし、東京都は石原知事が「原発稼働は必要」との姿勢を示しているため、脱原発の主張はしなかった。

関西電力の株主総会には、橋下大阪市長が直接乗り込み、国が脱原発に梶を切った時に、関電は経営危機を迎えると指摘。原発依存をやめるべきと主張した。この主張の背景には、橋下市長が政権を奪取するという強い野心がにじみ出ていた。

また、一般市民や反原発団体からは、「脱原発」を主張する意見も多く出た。提案もされた。

しかしながら、そうした提案は一蹴された。

電力会社など、日本の主要な企業の株主総会で、会社側の提案が否決されることは、まずない。完全な想定外だ。世間の批判を浴びようが、これを乗り切れば企業は自分たちのやりたいことが出来るわけだから、万全の準備をしている。彼らは、永年の「総会屋対策」を通じて、株主総会に対する絶対的な方法論を持っているのだ。議決権を確保するための会議の運営、安定株主対策、総会への人員の動員、マスコミ対策。昨夜は各電力会社の幹部たちが、ひそかに祝杯を上げたことだろう。

一方で、電力会社の株主総会に出た行政側の人間も、株主総会で何かが変わることなどないことは、百も承知だ。みんな注目度が高いことはわかっているから、ここで電力会社の経営体質を鋭く非難し、「脱原発」の姿勢を世間にアピールすることが出来れば、それで良しと思っている。

マスコミも、厳しい批判にさらされる電力会社について報道はするが、何かが覆るとは全く思っていない。

かくして、東電管内では、社員のボーナス分や充実した福利厚生も原価に含んだ電力料金の値上げが実施され、企業も市民もそれに従わざるを得なくなるのだ。

他の電力会社の管内でも、今はとまっている原子力発電所が徐々に再稼働を始め、数年後には震災前と同じ状況に戻るのだ。

日本では永年、株主総会で異議を唱えるのは「よからぬ輩」だという意識が定着していた。総会で暴れるのは、金銭がほしいから、あるいはアカだから。総会対策とは、健全な議論を促すことではなく「シャンシャン総会」と言われた茶番劇を演出することに他ならない。

日本のマスコミも一般人も、それがまともなことだと思っていた。

1990年頃、ブーン・ピケンズというグリーンメーラー(保有株の高値買取を目的に株を買い占める投資家)が、トヨタ系の小糸製作所の株を買い占め、株主総会に乗り込んで、経営介入をしようとした。このときは総会対策担当の役員が毅然とした態度で要求を撥ねつけ、会場も「ピケンズ出て行け!」の大合唱となったため、ピケンズは退散せざるを得なくなった。この総会対策担当の役員こそが、のちにトヨタのトップに上り詰める奥田碩だったのだ。

当時、多くの人々は、この実質的なトヨタによるピケンズ撃退劇を、大喝采したものだ。

今の電力各社への一般人、自治体の異議申し立ては、こうしたグリーンメーラーに比べればちょろいものだ。何といっても持ち株比率は微々たるものなのだ。荒れた風に見えて、易々と脱原発や経営改善を求める一般株主を撃退したのだ。

欧米では、多くの企業は株主の意向で動いている。株主総会で経営陣が否決されることも珍しくない。このために、株主の顔色をうかがって、短期的な利益を求める施策に走りがちだと批判が出ている。しかし、ひとたび企業が反社会的な行動をしたときには、株主は経営陣に「NO」を突き付けることが出来る。一般人の意見が、会社を動かすことも可能なのだ。

日本はこういう形での健全な株主は全く育ってこなかった。近年は「IR情報」という形で株主に対して情報を公開してはいるが、それは株価の維持のためであって、株主から健全な意見を求める為ではない。一皮むけば「総会屋対策」なのである。

私は日本の「資本主義」は、どこかで大きな間違いをしたまま成長してきたような気がする。企業が常にまともな判断をし、健全に成長するという前提のもとに、全権をゆだね、企業のやり放題を放任してきた付けがここへきて回ってきたように思う。

少なくとも一般市民にとっては、電力会社は選ぶことが出来ない。そして、彼らが何をしようと、それを阻止することも不可能だ。それが民主国家日本の現状なのだ。

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