6月30日一杯で、飲食店での販売・提供が食品衛生法で禁止されるレバ刺し。ユッケに続き、次々と「生肉食文化」が消えていく

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昨年4月に起きた「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件によって、約半年後にはユッケの調理基準が厳格化、ほとんどの焼き肉店からユッケが消えてしまった。

そして、次のターゲットとして狙われていたのが、生肉メニューの王様ともいえる牛のレバ刺しだったが、とうとう7月1日から飲食店での販売・提供が全面禁止されることが正式決定してしまった。

今回の禁止措置を、焼き肉店の業界団体である全国焼肉協会はどう受け止めたのか? 「はっきり言って禁止ありきの決定で、それに向けていろいろな理屈をこねたということでしょう」と、全国焼肉協会の担当者は納得いかない様子だ。

「そもそもは消費者庁が言い出しっぺなんです。消費者庁が『食の安全を守る』ということで、ユッケの食中毒問題は違反に対するペナルティが甘すぎるから起きたのであって、もっと厳罰化すべきだと厚労省に対策を取らせたことで今回の決定に至ったのです」(全国焼肉協会・担当者)

今後はレバ刺しを提供すると、悪質な場合は「2年以下の懲役か200万円以下の罰金」が科せられる。レバ刺しを出すのはそんなに重犯罪か、というぐらい厳しい。

「最近の消費者行政は、あまりにもブレが大きすぎます。あれやっちゃダメ、これやっちゃダメと、それこそ食文化はどうなるのか?ということまで考えなくなっている」(全国焼肉協会・担当者)

ただ、もはや何を言っても食品衛生法で決められてしまった以上、手遅れである。今、焼肉店では最後のレバ刺しを求めて“特需”が起こっている。

「いや〜、すごいですよ! 予約の段階での“レバ刺しの取り置き”なんて、今までなかったですからね。先ほどのお客さまなんて、3名さまで3人前を注文して、それだけ食べて帰りました(苦笑)」(東京・六本木の高級焼き肉店)

「提供禁止の正式決定以降、ほぼ100パーセントのお客さんがレバ刺しを注文してるよ。だんだんレバ刺しの在庫が減ってきてて、もしかしたら6月末までもたずに売り切れになるかもしれないね」(東京・新宿の焼き肉店)

店にとってはうれしい悲鳴だが、当然、今後を憂(うれ)う声はある。

「ユッケのときもそうだったけど、やっぱりお客さんは減るからね。レバ刺しは人気メニューだし、利益率が高い。あんまりこういうこと言っちゃいけないけど、レバ刺し禁止で、人は死なないけど、焼き肉店は死ぬかもしれないね」(東京・新橋の焼き肉店)

食中毒のリスクに十分配慮しなければならないことは理解できる。だが、いきなり全面禁止は妥当な判断なのだろうか。国民の安全と食文化を巡る議論は、今後も続きそうだ。

(取材・文/頓所直人)

■週刊プレイボーイ28号「追悼特集さらばレバ刺し!」より