ここ最近、東京・築地市場で不穏な動きがあるという。仲卸業者A氏が浮かない表情でこう話す。

「岩礁帯に生息し、普段はそう多く揚がらない“根魚(ねざかな)”が異常に多く競(せ)り場に並ぶんだ。アイナメ、ドンコ、深さ100mほどの海底にいるメヌケ……」

 大漁でめでたいんじゃないのか? 「実は……」と、A氏が小声でさらに続ける。

「去年もそうだった。3月11日の1ヵ月ほど前から、三陸産の根魚が異常なほど入ったんだ。最初は『なんだ?』と思う程度だったが、水揚げが日に日に増えるにつれて“嫌な予感”がしてきた。そして、あの巨大地震だ。ここ数日、根魚の入りは少し落ち着いているが、仲間内であえずガソリンは備蓄しとけ!』なんて言い合ってるよ」

 つまり、地震を察知した大量の根魚が、網に入る層まで浮上して“避難”していると? その漁場はどこなのか?

「ひとつは相模湾を漁場にする三浦半島の佐島(さじま)。そして、より多いのは駿河湾を漁場にする静岡県の焼津(やいづ)あたりだな」(A氏)

 駿河湾といえば、いつ起きてもおかしくないとされる東海地震の想定震源域。そこでは、根魚以外にもさまざまな形で“異変”が起きていた。焼津市の漁師B氏の話。

「商売あがったりだ……。今シーズンはスルメイカがまったく獲れない。例年、70kgから100kgは毎日獲れるのに、今年はよくて10kg程度。この道30年だが、こんな状況は初めてだよ」

 その一方で、同市のエビ漁師は歴史的豊漁に沸いていた。

「こんなのは50年に一度。地元で『本えび』と呼ぶヒゲナガエビが連日、例年の5倍は揚がる。水深300mの海底にいて網にかかりづらく、普段は湾内でも伊豆側でしかほとんど獲れないのに……。うれしい半面、少し不気味な気もするよ」

 50年に一度の大豊漁と、ここ30年でも初めての大凶漁……。さらに、ほかにも海底から“避難”しているような動きを見せる魚がいた。沼津市の漁師がこう話す。

「3月8日、駿河湾沖で体長約2mの“生きた化石”とも呼ばれる深海ザメ『ラブカ』が底引き網にかかりました。水深500mから1000mに生息し、ぶっとい棘(とげ)のような歯が何本も突き出た姿は漁師でもめったにお目にかかれない。実は、2008年4月にもラブカが相模湾で捕獲されたんですが、その1ヵ月後に茨城県沖でM(マグニチユード)7級の地震が起きた。今回も捕獲から1ヵ月がたつので、そろそろ……」

 駿河湾の深海ザメを獲り続けている焼津市の漁師C氏が、その生態について解説する。

「深海ザメは、海中や砂の中のわずかな静電気の乱れを察知してエサの生物を捕らえる。“第六感”とも言われるこの機能が発達しているんですね」

 その“第六感”が地震を予知する……と、C氏は断言する。

「私の場合、『サガミザメ』を目安にしています。漁では水深350mにいるメスを狙って延縄(はえなわ)を垂らすので、さらに100mから200m深海にいるオスは普段はまったくかからない。ところが、忘れもしません。地震が発生した09年8月11日(M6.5・駿河湾地震)、昨年3月11日(M9.0・東北地方太平洋沖地震)、同8月1日(M6.1・駿河湾地震)、今年1月28日(M5.5・山梨県東部・富士五湖地震)に限っては、その3、4日前からオスばかり大量に揚がったんです! 『今度、オスがたくさん獲れたら連絡しろ』と、知人や親戚にはしつこく言われています」

 では、直近の漁獲量は?

「実は体調を崩し、2月から船を出せていません。漁は4月中旬にも再開するつもりです」

 近く東海地震はあるのか。深海ザメの“避難状況”に注目だ。

(取材・文/興山英雄)

【関連記事】
クジラ漂着が頻発する原因は、海底岩盤のヒビ割れで発生する「磁気異常」
富士山、駿河湾周辺で“磁気異常”が発生。東海地震の前兆か?
房総半島の磁気異常が示す「M7首都圏直下型地震」の可能性
やはり起きた“太平洋プレート連鎖型地震”。「東北地方太平洋沖地震」の次はどこ?
本震と余震の間隔が5ヶ月というニュージーランド大地震の異常性