この「新基準値」を策定した厚労省は国際基準に合わせたとか、より安全・安心してもらうため、と胸を張っていた。 

 しかし、前出・野口氏はこう話すのだ。

「科学的に安全と言えるのは、セシウムの数値がゼロになった時です。国が定めた基準だから、『安全』と言わなければならないだけであって、本当は被曝量と発ガンのリスクを考えて、許容できる基準。平たく言うと、我々が我慢できる数値ということです」

 つまり、健康被害をギリギリで我慢して、ヒラメの刺身も我慢しなくてはならないということなのか。

 それにしても、我慢ならないのは東京電力だ。いまだに、福島第一原発からは放射能をタレ流している。

 3月26日には、汚染水処理施設から120トンの汚染水が漏れ、80リットルが海に漏れ出たことを発表した。この汚染水には放射性ストロンチウムが含まれていた。昨年も同様のことが起きている。

 それだけではない。同日には、2号機の格納容器に冷却水が60センチの水位しかなかったことが内視鏡測定で判明。4メートル以下の水位を想定していたというからアキレてしまう。

 元原子力安全委員会委員の中部大学教授、武田邦彦氏はこう言う。

「2号機の原子炉容器と格納容器に穴が開いていることは、すでに明らかになっていました。冷却水の水温からいっても、すぐに危険な状態ではありません。ただ、汚染された水は配管を通じて、タービン建屋の地下、さらには海へと漏れ出た可能性は否定できません」

 こうして漏れ出た汚染水はどうなっていくのか。

 愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授の田辺伸介氏が言う。

「海水に流れ出たセシウムは拡散・希釈をしていくのは事実ですが、湖にインクを一滴垂らしたという話ではないのです。セシウムは土にも吸着しており、海底土は海水よりも高い線量が計測されています。そのセシウムがまた海水に溶け出していくわけです」

 ヒラメやカレイといった底魚が高汚染を示すのは、こうした理由があった。

 しかも、原発だけが問題ではないのだ。

「陸上では除染作業が行われていますが、作業は水を使います。その水は排水溝から川へ流れ、最終的には海に流出していくのです」(前出・田辺氏)

 福島県二本松市と本宮市のアドバイザーを務める前出・野口氏が言う。「福島県を流れる阿武隈川を調査した際に、川へ流れ出る排水溝付近の汚泥が高い線量を示しました。原発事故直後に空気中に出たセシウムが生活排水などとともに、川へ流れていると思われます」

 海の汚染がやまない中での厳しい規制。このままでは、「食クライシス」が発生しかねないのだ。