――水沢恵の役を演じるために何か特別な練習はされましたか?

竹内:撮影前には基本的なことが頭に入っていましたので、恵さん自身が精通している惑星地形学について伺ったりとか、準備はそれくらいでしたね。皆さんは実在するモデルの方がいましたけど、私には、はっきりと実在するモデルがいなくて目指すものがないんですよね。博士号が欲しいけれど、論文を書いて送っては不可で、どうにもならない宙ぶらりんな状態に置かれているっていう設定で、そんな彼女が、「はやぶさ」のプロジェクトに関わった7年間で、変化していく。私自身の持っている「自分が何者であるのか」という、その「何でもない心もとなさ」みたいなものを、そのまま重ねていけばいいのかなと、初めは思いましたね。

――モデルがいないということが、一番難しかったところですか?

竹内:うーん、何と言うか…うらやましかったんです(笑)。だって、皆さんは確固たる足場があって。坂上さんを演じた高嶋さんも、鶴見辰吾さんも山本耕二さんも、皆さんは自分の役割と仕事とポジションがはっきりしていたので…でも「逆にこれはおいしいと思って取り組むしかないな」というのはありましたね。自身の足場が固まっていないお陰で各担当の作業の様子を見に行けて、それらのお手伝いをしながらプロジェクト全体を知ることが出来るわけですから。ある種、観てくださるお客様と近い目線に建てるんじゃないかな、という印象がありましたね。

――オリジナルがない分、イメージをつくることに制限がかからなかったのですね。

竹内:そうですね。確かに、どなたかを演じなければならないとなると、それはそれで、皆さんプレッシャーがあるでしょうし、そういう意味では、楽というのかフリーな状態でいられるというのが一つ良いことなのかな、と思いますね。

――水沢恵を演じる上で、気をつけた点は何かありますか?

竹内:まず、衣装とメイクに関しては、監督に「こんな感じで」というイメージがしっかりあったので、監督の意図にあった眼鏡のフレームだったり、衣装の素材の感じだったりというものを合わせていきました。そこから「じゃあ、恵さんという人をどうしていきましょうかね?」と監督に相談すると、「棟方志功が絵を描く時にキャンバスにものすごく目を近付けるけど、あれみたいにやってください」って言われたので、調べて、やってみました。あとは、話をする上で人の目を見て話すというのが、どこか鉄則だったりするように育ってきてはいたんですけど、それをしないで行こうと。監督からは、「人と話しをする時に目を見たりするのがとても苦手だ、と思いきや、ここぞという時、自分が熱くなれることに対しては獲物を見つけたとばかりに見つめて話をしてください」ということだったので、ちょっと人との話し方とかタイミングをずらしていくような感じはありましたね。

――西田敏行さんが演じる的場さんの宇宙の話に食いついた時とかもそうでしたね?

竹内:ええ、他にも、子供であろうと容赦ない専門用語の嵐で宇宙の魅力を語るとか、そこを身に付けるのは大変でしたね。言葉を話すのが難しいのではなく、説明している一面のくだりを自分なりに租借するのがとても難しかったです。ひとつの短い専門用語を調べるとページいっぱいに説明が書いてあって、そこには、またさらに知らない言葉がいくつも含まれていて、それをひとつずつ拾っていくと果てしなくて果てしなくて。要点を絞って覚えるということ、いまだにあの時はよくやったな、と思います。

――映画の中で出てくるお気に入りの専門用語は何かありましたか?

竹内:専門用語よりも名言のようなものが多く出てくるな、と思います。坂上さんの「なぜ出来ないんだ、じゃなくて、どうやったらできるかを考えませんか」とか。それは物事を発想する時にとても大事だな、と。にっちもさっちもいかなくなった時に、おかれた状況を嘆くばかりではなく、”やる”という方向は同じなのだから”やり遂げる為”に発想を変えていくという。言葉のエネルギーですよね。坂上さんは背中を押してくれるタイプの人でしたね。要所要所にすごく印象的な言葉があって、それは「いただきだな!」と思いました。

――確かに、いろいろな良い言葉がありましたよね。高嶋さんが演じる坂上も含め、いろいろな登場人物が出てきますが、その中で気になった方はいますか?

竹内:生瀬さん!! 生瀬さんには、「ずるい!」とまずお会いした時に言いました。一瞬で全てをさらえるパワーが素敵で、役者として格好いいな、と。

※生瀬勝久は、「はやぶさ」の熱狂的なファンの役を演じている。四六時中パソコンの前で、「はやぶさ」の状況をチェックして一人で大騒ぎしているニートという設定。

――そうですね。「はやぶさ」のプロジェクトの大事な変化の時に出てきて、全ての注目を奪い取っていきますよね(笑)

竹内:登場する度に人生の変化というものが分かるし、最後は脱ニートですからね。カップルが結婚して子供が生まれてなど、プロジェクトの進行と共に多くのはやぶさファンの時の流れが感じられましたし。

――7年のプロジェクトの間に、人も変わって行くのですね。

竹内:蛭子さんのシーンだと、お孫さんがだんだん大きくなっていくんですよね。そういう描写が面白かったりしました。そういった意味だと、恵さんには大きな変化が何もないですね。「何年後とかの時間経過で髪型とか変えますか?」と監督に聞いたら、「いえ、恵さんは一切変えないでいきます」って(笑) 自分の人生に迷いなくこの仕事が好きだと胸を張って言えるようになったという成長はありますが。