オークランド・アスレチックスの本拠地オークランド−アラメダ・カウンティ・コロシアム。土曜日デーゲームにもかかわらず、空席の目立つ2階席と、化粧シートで覆われた3階席。満員の球場を沸かせてきた松井秀喜が、閑散とした不人気球団でプレーする心中はいかなるものか。(撮影日:2011年9月3日)



9月29日、MLBの2011年レギュラーシーズンすべての日程が終了した。両リーグともにワイルドカード争いが最終戦までもつれるという、最後まで白熱したシーズンの幕切れであったにも関わらず、日本国内で大きく報道されたのはイチローの年間200本安打記録が10年で途切れてしまったこと、さらには松井秀喜の来シーズンの去就問題であった。さらには両選手の所属するマリナーズとアスレチックスが、来春、東京で開幕戦を開催するとのニュースも流れていた。

私ごとで恐縮なのだが、9月初旬にアメリカで野球を観戦する機会を得た。

9月3日(土)カリフォルニア州オークランド。アスレチックスの本拠地オークランド−アラメダ・カウンティ・コロシアムで開催されたこの日のカードは、松井秀喜とイチローが直接対決する“好カード”だった。土曜日のデーゲームということもあり、スタジアム最寄り駅は、プレイボール予定の13時05分より1時間以上も早い時間にもかかわらず、多くの観客で溢れていた。そしてそのほとんどが日本人であった。

われわれは当日のチケットを持たずにスタジアムまで来ていた。メジャーリーグのスタジアムに、しかも週末のゲームに当日券で入ろうとする行為は一見無謀に思われるかもしれないが、この日のオークランドに限ってはその限りではなかった。理由は2つ。ひとつ目はこの日のゲームが、アメリカンリーグ西地区の4チーム中、上位2チームから10ゲーム以上離された3、4位チーム同士の争いであること。もうひとつは、両チームともMLB30球団の中でも不人気球団であるからだ。

私が「不人気球団」と定義する理由は観客動員数にある。2010年のメジャーリーグの観客数に関するデータを見てみよう。昨シーズン、アメリカンリーグ西地区の2位に終わったアスレチックスの、1試合あたりの平均観客数は1万7511人で30球団中29位。満員率も40.1%(29位)と、その不人気ぶりは突出している。
一方のマリナーズも一試合平均観客数が2万5746人(19位)、満員率も53.9%(21位)と、お世辞にも人気球団とは言い難い(出典:Baseball Info Solutions)。ちなみに昨年まで松井秀喜の所属していたエンゼルスは、試合平均4万133人(5位)、ヤンキースに至っては4万6491人(1位)と、その差を見れば見るほど悲しくなる。

このアスレチックスの数字を日本プロ野球と比較してみよう。1試合あたりの平均観客数1万7800人という数字、日本ではヤクルトスワローズの公表値が1万8513人で、12球団中10位。満員率40%台となると、12球団中最下位の横浜ベイスターズでさえ47.1%なので、それ以下の環境でプレーしていることとなる。

話をオークランドに戻そう。当日券でも十分に入れることを知っていたわれわれは、まずはチケットボックスへ。せっかくの機会なのでイチローをできるだけ近くで見られればと思い、1塁側ファールゾーン(ライトフィールド近く)の空いているところ、できればフィールドに近い位置をお願いすると「待ってました」とばかりにチケットブースのお兄さんが微笑み「It's most nearest seat ICHIRO!」と。そして手渡されたのは、なんとフィールドから2列目のチケットだった。やはり球場はガラガラの様子だ。

スタジアムに足を踏み入れ、あらためて席に座って見回してみても観客席は空席ばかりが目立つ。NFLのオークランド・レイダースと共用スタジアムということもあり、アメフト開催時には使用されるという3階席、4階席には、目隠し用の化粧シートが張られ、少しでも空席感を目立たせない努力がされているのだが、これもまた逆効果で残念なまでに寒々しかった。試合内容としては、今年の新人王候補のピネイダ(マリナーズ)が先発し、松井もイチローもそれぞれヒットを放つなど、それなりの内容のゲームではあった。

先にも少し触れたが、日本人観光客(筆者もそうなのだが)ばかりが目立つスタジアムであった。夏休み期間の休日ということも災い(幸い)してか、広い内野席から聞こえてくる会話のほとんどが日本語で、おそらくスタジアムの6〜7割が日本人という印象。(同日夜に観戦したサンフランシスコ・ジャイアンツ戦は満員御礼にも関わらず、ほとんど日本人を見かけなかったこともあって、さらに特異な印象を受けた)。

ゲーム帰りに乗ったタクシードライバーの兄さん(推定25歳)に「オレは昔からA’sファンなんだ」と話しかけられ、「今年入ってきたアジア人、え〜っとヤスダ? マツダ? ヤツはいいね!」と。「それは“マツイ”のこと?」と返すと「あー、たしかそんな名前だった〜」との返答。09年のワールドシリーズでMVPまで獲得した“MATSUI”ではあるが、移籍1年目のオークランドでは、まだ名前を覚えてもらうのには時間がかかるようだ。

巨人からヤンキース、そしてエンゼルスからアスレチックスへと流れ着いた松井秀喜。日本で報道されるのは、その日の結果やホームラン数だけなので、あまり気にすることもないのだが、かつてのスタープレイヤーが今は閑散とした異国のスタジアムで白球を追っているという現実があることを、少しでも日本のファンにもわかって欲しいと痛感した。

余談だが、来月には同球団GMビリー・ビーン氏を題材とした映画『マネー・ボール』の公開も控えているなど、人気獲得に向けた明るい話題も少なくはない。来シーズンの去就も注目されるこれからの時期。もし移籍するのであれば、観客動員数の多いチームへの移籍を、と願わずにはいられない。

【TEXT=劇!!空間プロ野球 / 青柳潤】


■筆者紹介
青柳 潤(あおやぎ・じゅん)
元雑誌記者、編集者。野球観戦をライフワークと位置づけるほどの“ボールジャンキー”。初めて松井秀喜を見たのは1993年のデビューイヤー。二軍調整中だった夏の時期に、運よく地方巡業に回ってきたイースタンリーグの試合を観戦。3打数3安打の猛打賞だったことを鮮明に記憶している。