■27,519人がスタンドを埋めた

2011年7月9日、J2第20節FC東京戦。この日、九州北部で梅雨明けが発表された。快晴の夏空が広がる。

青野浩志社長や渡辺博運営事業部長らが出迎えるゲートに老若男女の波が途切れない。何年ぶりの観戦なのか、昔のユニフォーム姿も目立つ。走り回るスタッフ、大混雑の屋台。入場後もなお電話で知人を誘っている人や久々の再会に歓声をあげるサポーターたちを掻き分けて歩きつつ、人いきれに懐かしさがこみあげる。

選手入場とともに、サポーターズクラブが夜を徹して準備したコレオグラフィがゴール裏を染めた。バックスタンドにも3枚のビッグフラッグ。観客減のため長らく掲げることができなかったが、大旗が並び震える光景はやはり壮観。今日はそちら側でもコールリーダーが応援をリードする。試合がはじまれば、揺れるスタジアム。歓声も悲鳴も奥行きが違う。

他クラブの番記者やかつてのチームスタッフから「何人入った?」とメールが届く。カウントに手間取ったのだろう、いつもより遅い20時33分、オーロラビジョンに映し出された本日の入場者数は27,519人。よくやった、と思った。目標の3万人には届かなかったけれど、まずは十分な数字ではないか。


■等身大の、けれど精一杯の試合

試合は、代表級のタレントを揃え5連勝中の相手に苦戦する予想通りの展開。井上裕大の執拗な追走にも倒れない梶山陽平。羽生直剛を核に流動的な前線。森島康仁は高橋秀人に抑えられ、隙を突いて西弘則が何度も仕掛けたカウンターは今野泰幸と森重真人が率いる守備に刈られた。被シュート数19、被CK数15とほぼ防戦一方。後半には狙っていたサイド攻撃から幾度か決定機も作ったが、いずれもものにできず両軍スコアレスのまま終わる。

危機のたび沸き起こる悲鳴を安堵の吐息に変えた選手たちの懸命なプレーに胸を動かされてか、首の皮一枚で繋がった試合を、多くの観客は楽しんでいた。力量不足を嘆く声は意外に少数。「最初は弱くても下手でも一所懸命に走って感動を与えるチームに」という今季始動時の青野社長の言葉通りになったかたちだ。

さらに意外だったのは、最終ラインで相手の怒濤の攻撃にさらされ続けた阪田章裕の試合後の言葉。「僕も周囲も楽しんでました。勿論勝ちたかったけど、来ても来ても跳ね返すのが面白かった。相手は有名な選手ばかりだし(笑)」と頼もしさを匂わせる。

2万人超の大観衆の前で戦うのは初めてという選手がほとんどだったが、「プレッシャーをちからに変えて戦えた」と清水圭介も充足感を見せた。まさに観客が後押ししたゲーム。81分、三平和司が相手GKと1対1の決定機を決めていれば劇的な勝利になったかもしれないが、それはあまりに出来過ぎな話。現在の大分の等身大の、けれど精一杯の試合を見せることができたと思う。


■継続的な努力で幹を太くしてゆく

今節の入場者数2位のJ1神戸対名古屋戦を1万人近く引き離しての第1位は金字塔だ。青野社長は「スタジアムとはサポーターや行政、企業など全てのちからで作り上げるものだと改めて感じました」と謝辞を述べたあと「高い目標に向けて連日深夜までよく頑張ってくれた」と社員の仕事も評価した。

水島伸吾チーフマネージャーも充実の表情。「3万人に満たなかったら角刈りになる」という公約を果たすため、豊東和夫広報担当と明日は床屋へ行く。目標達成できなかったことは真摯に受け止めるというが、スタジアムに活気を取り戻す目的は果たせたはずだ。

「でもこれで終わっては意味がない。次のホームゲームまでの2週間は、今日の御礼と次へのご案内のために企業や関係者のところを回ります。その繰り返しで観戦に来ていただける環境を築き、徐々に幹を太くしてゆければ」