韓国戦後記者会見ドキュメント「辞任を求める空気」

■会見場の雰囲気を変えた質問
口火を切ったのは、某新聞社の記者だった。
「優勝を目標としていたが、この結果を招いてしまった自らの責任についてはどう考えるか?」
記者会見はまず監督が試合の感想を語り、その後、質疑応答になる。その一問目まではだいたい間が空くものだが、この日ばかりは違かった。おそらく、“負けたらこれを質問する”と決めていたであろう質問が間髪入れずに飛んだ。
「元(フィジカル、代表の戦術感ともにオランダ戦くらい)の状態に戻るのが一週間以上遅れたのがあります。優勝を逃したことへの責任ですが、批判は甘んじて受けないといけない。ただ我々は、ここで足踏みしているわけにはいかない。前に進まないと」
いつもの仏頂面のコメントで岡田監督はかわしに入るが、今日ばかりは“ブーイング”というサポーターの後押しもあってか、メディアも引き下がらない。

矢継ぎ早に別の新聞社の記者が「前に進むということだが、新しい選手もいないし、あとは欧州組が加わるだけですよね。(いつものメンバーで長くやってきて何も変わらないのに)これでどうやって前に進むというのか?」と指摘するが、これも「今のメンバーでいいゲームができたことも十分にありました。プラス海外組、1人、2人新しい選手が入れば、前に進めると思っています」と具体案のない答えで煙に巻く。

さすがにしらけてしまい、これ以上の責任追及は無駄だという空気が流れ、話は“日本的な戦術の話”に移ってしまう。そんなしばし続いた緩い空気は、Football Weeklyのジャーナリストが発した質問で一変した。
「(先ほどの)責任を取るということに関しては、ご自身が辞めるということも含めて責任を取るということもあると思うが、(辞任という責任のとり方を)考えているか?」
質問後、岡田監督の表情を写そうと一気にカメラのフラッシュがたかれる。それは2006年ドイツW杯以降の試合後監督会見で初めて見る光景だった。妙な期待感が漂う異様な雰囲気の中、岡田監督はあくまで平静を装った。
「私の進退に関しては、契約上、勝とうが負けようが協会が権利を持っています。そのために会長や技術委員長が私を見ている。選手がついてきてくれる限り、選手だけを投げ出すことはできないと思っておりますので、辞任は考えていません」

■閉塞感をどうやって打破するか
選手がついてこない――。
そんな状況は、いままでの日本代表になかった。エキセントリックと言われたトルシエ元監督ですら、選手に受け入れられていた。それは当然でもある。皆、W杯に出たいのだ。監督についていかなければ、そのメンバーから外されるのは常識である。
韓国戦後、「所属クラブがチームとして100%の出来ならば、いまの代表は何%の出来ですか?」と選手たちに訊ね回ったが、数字は絶対に答えない。しばしの沈黙の後、あたりさわりのない答えをする。たとえ分析でも、代表の批判になることを発言しては、大きく記事にされてしまう。そして、それがどんな影響を及ぼすかを選手たちは理解している。

2007年12月に岡田監督が代表監督に就任して以来、初めて公式の場で起きた辞任を求める声。“岡田監督交代へ”を加速させようとする空気が会見場に流れたが、先の質問に続く記者は現れなかった。
厳密に言えば、続きたいジャーナリストはいたのだが、司会者が「質問はあと2名とさせていただきます」とインフォメーションし、司会者に指された2名が別の質問をしたのだ。最後の質問の答えを聞かずに、何人かのジャーナリストたちが会見場を後にしたのは言うまでもない。

韓国戦後の会見であきらかになったのは、岡田監督に辞任の意思はさらさらないということ。つまり、日本サッカー協会が解任しない限り、監督交代はない。
しかし、犬飼基昭会長は試合後、「総合的に判断して、現時点では代えない方がいい。ここにきて新しい人というのはリスクが大きすぎる」と語り、原博実技術委員長も「やろうとする方向は間違っていない」と続投を明言した。

現実的に岡田監督が解任されることはないだろう。皆、諦めに似た気持ちを日本サッカー協会に対して抱いている。
それでも、韓国戦後、サポーターは岡田監督を解任へ追い込むきっかけとなってほしいとブーイングでメッセージを送った。記者会見場では、何人かのジャーナリストが日本サッカー協会へアンチテーゼをつきつけた。
こういった火がもっと大きくなっていけば、一人ひとりの声で日本サッカー界を変えることもできるのではないか。そんな“青い気負い”を抱いた夜だった。(了)

文/石井紘人(いしい はやと)
某大手ホテルに就職するもサッカーが忘れられず退社し、審判・コーチの資格を取得。現場の視点で書き、Jリーグの「楽しさ」を伝えていくことを信条とする。週刊サッカーダイジェスト、Football Weeklyなどに寄稿している。