スペイン代表のミッドフィルダーのセスク・ファブレガス<br>【photo  by Witters/PHOTO KISHIMOTO】

写真拡大

 9時40分、チューリッヒ中央駅発の「EURO2008スペシャル・トレイン」は、13時26分、定刻通りインスブルックに到着した。

 スイス国鉄の素晴らしさについては、前回記した通りだが、スイスとオーストリアの国境をまたぐ国際列車は、正直言っていまひとつだ。スピードは遅いし、なにより本数そのものが少ない。お互いを結ぶアクセスはとても頼りない。地上をクルマで移動することもけっして楽ではない。欧州アルプスが、国境付近に掛かっているからだ。少なくとも地形的な面からは「共催」には、適した環境とは言いにくいのだ。

 おまけに、オーストリアは国が横長だ。スイスは楕円なので、各会場間を1、2時間で移動できるが、オーストリアはそうはいかない。スイス側から、ウィーンやクラーゲンフルトへ移動するには、10時間以上も費やすことになる。両国の国土は、2つ併せても日本の3分の1程度しかないというのにだ。

 インスブルックの駅に到着すると、目に前にはチロルの山の頂が、壁のように立ちはだかっている。現実のものとは思えない、まるで絵画を見ているような非現実的な風景だ。ノルディックスキーのジャンプ台も見える。インスブルックは、年末年始の恒例行事である「ジャンプ週間」の開催地として知られる。毎年1月4日、その第3戦目の舞台として、この街はひどく盛り上がるのだ。

 日本チームが強かった頃、僕も4、5回、訪れている。オーストリアは言わずと知れたジャンプ王国だ。アウェーの地で、日本人が表彰台のてっぺんに立つに痛快さに何度となく酔いしれた思い出がある。サッカーで叶わぬ夢を、当時の日本のジャンプ陣は実現してくれていたわけだ。

 「チボリ・スタジアム」は、駅前から徒歩で15分の場所にある。スタンドは急傾斜なので、ピッチの眺めは抜群に良い。折から激しく降り出したにわか雨とともに、キックオフの笛は吹かれた。

 スペイン対ロシア。本題はここからになるが、スペインが4−1で大勝した一戦を見ながら想起したのは、日本のサッカーだ。似ている。スペイン人選手と日本人選手には、かねてからかねてから共通の匂いを感じていたが、今回のスペインはとりわけだ。決して大柄ではないテクニカルな中盤選手が、溢れている。

 日本より効率的に配置されていて、中盤の4人が必要以上に濃い関係に陥ることはないが、相手ボールになると、そう強そうなチームには見えてこない点も日本と通底している点だ。

 サッカーは基本的に、相手ボールとマイボールが50対50の関係で、交互に訪れるスポーツだ。マイボールの時だけの印象で全ては語れない。相手ボールの時も、同じように強く見えれば鬼に金棒。巧いチームではなく、強いチームに見えてくる。

 スペインにも強いと言う印象は抱けなかった。ロシアボールの時には、かなりオタオタした様子を見せていた。マイボール時の魅力で押し切った恰好だが、実際の内容は、スコア以上に競っていた。5−3ぐらいが妥当なスコアだろう。

 ポルトガルにも弱冠その傾向がある。相手にボールが渡ると、並みのチームに見える。逆に、相手ボールになると、途端に強く見えるのはイタリアだ。むしろ生き生きして見えるから不思議だ。第1戦ではオランダに0−3で敗れたが、今回はマイボールになったときも生き生きして見えるので、死んだチームと決めつけるのは早計だ。

 ギリシャに2−0で勝ったスウェーデンにも同じような印象がある。派手さはないが、大崩のない、いわゆる計算のできるチームだと思う。

 相手ボール時の動きは、メンタリティと大きな関係があるが、練習の積み重ねによってある程度解消できる問題だ。布陣(=選手の配置)も、大きく影響する。つまり努力と頭脳で底上げを図ることができる。真似のできないスーパースターの個人技とは違う。

 相手ボールの時に強そうに見えるチームはどこか。テレビ画面を通してどこまでそれが伝わるか難しい問題だが、目を凝らしたい点だと僕は思う。

<関連リンク>
[第5回]日本サッカー協会も世界のトレンドを知るべきだ
[第4回]オマーン戦は60点。やっぱり夢は追えない
[第3回]監督の存在感はゼロ。選手が好きにプレーしただけ
[第2回]日本人にC・ロナウドは無理、パク・チソンを見習え!
[第1回]アジアレベルアップの『カギ』は?