インタビュー:バベル監督「日本が大好きだから日本で撮影したい」
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督インタビュー

「境界を形成するものは、言語、文化、人種、宗教ではなく、私たちの中にある」
3大陸4言語、世界規模のスケールで人類の絶望と希望を描いた衝撃のヒューマン・ドラマ『バベル』のメガホンを取ったのは、メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督。長編監督デビュー作にしてアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『アモーレス・ぺロス』、続く『21グラム』で世界中にその名を轟かせてきた鬼才だ。まもなく日本公開を迎える最新作『バベル』について聞いた。

■この映画では、4つの異なる国における、3つの異なる状況が描かれています。その全てが壊れやすい状況。このような大胆でユニークな物語をどのように生まれたのでしょう?

監督:これはとても長いプロセスだった。過去6年間でいろいろな国を旅して、アイディアを得てきたんだ。母国を離れてロサンゼルスに住んで約5年だが、第三世界を離れ移民として先進国の大都会に住みながら見聞きし、我々の世界がどうあるべきかという考えが膨らんできたんだ。

■『バベル』というタイトルについて

監督:4つの物語にはたくさんの主題が詰まっている。多くのレイヤーがある。これだというタイトルを求めて、最悪で、間違った、陳腐な、全く意味を成さないタイトルをたくさん考えた。ある日、聖書の創世記を思い浮かべ、バベルの塔を思った。シンプルな言葉だと感じたんだ。DNAのような総合的な言葉だ。この映画のテーマである “意思伝達の欠如”につながる言葉でもある。それにもっと知りたいという気持ちを起こさせ、会話への扉を開く言葉だ。

■舞台のひとつに日本を選ばれたのは?

監督:箱根に行ったことがある。たくさんの木々の中に、豊かに流れる水、湧き出る湯気、飛び交うカラス、温泉で作る温泉たまご、深い霧といった美しいイメージに出会った。そしてそこに、10代の知的障害の少女と一緒に歩く老人がいた。彼女は大きな音を立てながらゆっくり歩いていた。老人は彼女の腕を取って、愛と尊厳と思いやりに満ちていたんだ。私はそのイメージにとても感動した。なんと奇妙で愛に満ちた孤独な姿だろうと。身体的な障害はあってもそこには何かがあった。私はそれに惹き付けられたんだ。同じときになぜか道やレストランで、日本人の沢山の若い聴覚障害者の人たちと出会った。私は奇妙な気持ちでそのレストランを出た。その後、ある少女が歯医者にいる、奇妙でエロティックな夢を見たんだ。それが全部つながりあって、10代の聴覚障害の女の子と妻を無くした父親のストーリーを描く可能性について考えた。よくわからないが、少しずつできあがっていったんだ。そして脚本のギジェルモに電話で説明した。それに日本が大好きだから、ぜひいつか日本で撮影したいと思っていたんだ。

■キャスティングについて

監督:ケイト・ブランシェット、ブラッド・ピット、ガエル、アドリアナ・バラサ、役所広司といった俳優陣に、本当に信頼してもらえたことを光栄に思う。アンサンブル演技の役を引き受けてくれた彼らの勇気を称えたい。これは派手な映画ではない。高予算の映画でもないし、必需品を得るのも大変だった。だからキャラクターの礎として、私には彼らが必要だった。短い時間でも、強烈な個性と演技力によって、即座に通じ合える俳優が必要だったんだ。それぞれのエピソードは短くて、せいぜい25分くらいの物語が4つ集まった映画だ。だから俳優と即座に意思の疎通をとる必要があったし、彼らはそれができる人たちだった。