映画『キングダム』出演に際し、大沢たかおは15キロも増量したという

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 学校で習った古代中国の有名人といえば、「秦の始皇帝」をまず思い浮かべる人が多いだろう。現在公開中の映画『キングダム』では、配下の武将らとともに初の中国統一へと突き進む若き日の始皇帝・エイ政(えいせい)の戦いが活写されている。エイ政を支えた将軍の一人で、映画では大沢たかおが演じた「王騎」の、史料に残された真実の姿を歴史作家の島崎晋氏が紹介する。

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 映画『キングダム』では、大沢たかおが王騎将軍を演じた。原作の漫画ではプロレスラーのような筋骨隆々たる体型。それとの差があまりに大きなことから、キャストが発表された時点ではミスチョイスとの声が多く挙がったが、さすがはプロの役者。体重を15キロも増やしての肉体改造と演技力で、一連の不安が杞憂であったことをみごと思い知らせてくれた。

 作中で描かれる王騎はエイ政の曾祖父・昭襄王(しょうじょうおう)が定めた「六大将軍」の最後の生き残りで、「秦の怪鳥」の異名で呼ばれた。主人公の信にとってあこがれの存在として描かれているが、前漢時代の司馬遷が著わした『史記』を見る限り、王騎は地味な存在で、その名前が登場するのはたったの2回だけ。

 エイ政の即位とともに、蒙ゴウ(もうごう)・ヒョウ公(ひょうこう)と並んで将軍に任じられたとするものと、エイ政が即位してから3年目の死亡記事があるのみなのである。戦場での活躍については一切触れられていない。独特な言葉遣いや唇が非常に厚いといった容姿に関する特徴はもちろん、その最期にしても、すべては『キングダム』作者・原泰久の創作である。

 そもそも「六大将軍」という制度と名称からして、原泰久の創作なのだが、昭襄王の時代に秦の版図が著しく拡大したことと、王騎を除く5人の将軍がその時代に活躍したことは『史記』からもうかがえる。

 エイ政の祖父・孝文王(こうぶんおう)は3年、父の荘襄王(そうじょうおう)は3日と、ともに在位期間が短かったことから、エイ政の即位とともに将軍に任じられた王騎・蒙ゴウ・ヒョウ公の3人が昭襄王以来の頼もしき存在であったことは間違いあるまい。そのわずかな手がかりから、王騎を非常に魅力的な人物に膨らませた原泰久の想像力と創造力はどちらも相当なものである。

『キングダム』原作漫画には王騎の副官として騰(とう)という人物が登場し、映画では要潤が演じているが、騰の名は『史記』にも見られる。実在の武将ではあるが、王騎との関係は一切不明。騰が姓なのか名なのかすらわかっていない。王騎の副官という設定もまた、作者である原泰久の創作である。

 ちなみに蒙ゴウの活躍については『史記』に詳しいが、ヒョウ公については王騎と同様、具体的なことが一切わからない。ヒョウ公は通称で本名は別にあったと思われるが、これまた解明の手掛かりなし。原作では常に前線にあったから、都でも彼について詳しい者が少ないとの設定になっており、これまた原泰久の巧みさに数えられよう。

※ゴウ=左上に「敖」、右上に「攵」、下に「馬」/ヒョウ=「鹿」の下に部首の「れっか」

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『春秋戦国の英傑たち』(双葉社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。