▼老親が孫に浪費

■祖母のお金をあてにのんびりと

名古屋市内で貸しビル業を営んでいるA子さんのもとに、10年ほど前、離婚した一人娘が3人の子供を連れて戻ってきました。

娘は音楽大学を出た演奏家。しかし“本業”での報酬は知れたもので、この10年、コンサートごとに「持ち出し」の状態が続いています。にもかかわらず、娘は就職もアルバイトもせず、生活費や演奏活動にかかる費用はすべてA子さん持ち。再婚して出ていく気配もありません。3人の孫たちも、全員がさも当然のように音大へ進学しましたが、その費用もA子さんが自分の収入や蓄えから捻出しました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/PamelaJoeMcFarlane)

A子さんは現在70代。夫とはすでに死別し、40代の娘以外に子供はありません。孫たちは長女と長男が大学を出て演奏家として活動、次女はまだ音大生です。

お嬢様育ちで屈託がない娘は、高級店で食事をしてはインスタグラムに上げるといった、まるで危機感のない暮らしぶり。その姿を見て育った孫たちも、音楽以外の収入源を見つけるつもりはないらしく、A子さんのお金をあてにしてのんびりと日々を過ごしています。このままでは孫たちが自立できない大人になってしまいます。

■祖父母が裕福で、子供を過保護に育ててしまった

音楽の道はお金がかかります。いくら資産家だといっても、A子さんの家計は持ち出しが続き赤字です。しかも貸しビルの改装に充てるつもりだった資金を取り崩してしまったため、唯一の資産であるビルは老朽化。このままでは店子が去り、収入が途絶える懸念も出てきています。

ここまで派手な事例は少ないものの、子や孫がニートのまま自立しないとか、子連れで実家に戻ってきた娘が居ついてしまい、将来の家計が不安だという家庭は増えています。

共通しているのは、祖父母がまずまず裕福で、子供を過保護に育ててしまったということです。どうしたら自立させることができるでしょうか。いくつか提案があります。

まず、同居する子供が就職したら、一人暮らしに必要なほどの生活費を家計に入れさせましょう。

このときに、子供名義で貯金をしたり取り分けておいたりすると、子供に「お金を支払った」実感がないため、効果がありません。私自身は、娘が就職したときに家計に入れさせたお金の一部を、その日のうちに外食代として使ってしまいました。娘には「鬼!」と言われましたが(笑)、そう言われるくらいでいいのです。

■親亡き後に備えて、ご飯くらいは自分でつくれるように

私は引きこもりの相談を受けることも多いのですが、そういうときによくアドバイスするのが「昼夜2食のうち1食は親が用意せず、自分でつくらせてください」ということです。親亡き後に備えて、ご飯くらいは自分でつくれるように促すことが、本当の愛情だと考えるからです。

A子さんのケースでは、何もしなければ遠からず家計は破綻します。それを防ぐには、貸しビルを売り払い、それを機に同居を解消するしかないでしょう。同居したくてもできないような小さな部屋にA子さんが引っ越し、娘と孫たちが働かざるをえない状況をつくるのです。

すぐに自立するのが無理なら、部屋を借りさせて2年分だけ家賃を先払いするといったサポートをしてやればいいでしょう。その覚悟をA子さん自身が持つことが肝要です。

打つべき一手:「鬼」となる覚悟で同居を解消、自立した大人に育てるべし

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畠中雅子
ファイナンシャルプランナー
「高齢期のお金を考える会」主宰。『ラクに楽しくお金を貯めている私の「貯金簿」』など著書、監修書は60冊を超える。
 

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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子 構成=久保田正志 撮影=南雲一男 写真=iStock.com)