喫茶店が減ったのに女性をはじめとして「コーヒー好き」が増えた時代。そしてコンビニでの売り上げが2割を占めるように。平成のカフェ事情を振り返ります(撮影:大澤 誠)

あと1カ月余りで「平成」が終わり、新元号となる。平成時代は、コーヒー業界・カフェ業界にとってどんな時代だったのか。さまざまな変化を振り返ってみよう。

ただし、回顧だけでは参考になりにくいかもしれない。そこで最後に「新時代に生き残る」視点でも考察してみた。

平成時代に伸長したカフェ業界

まずは数値データから紹介しよう。業界を知る「目安」として理解いただきたい。

(1) コーヒー業界の市場規模 「約2兆9000億円」

「消費者購入額」の推計値(全日本コーヒー協会の調査)だ。消費者が喫茶店(カフェを含む。以下同)でコーヒーを飲んだり、喫茶店や小売店でコーヒー豆を買うなどした数字の総額といえる。

(2) 喫茶店の市場規模 「約1兆1358億円」

こちらは「喫茶店」の数字だ(平成29年外食産業市場規模推計。日本フードサービス協会調べ)。前年比で1.6%増となり、同調査ではブラス成長が続く。かつて1兆円割れ寸前ともいわれた「喫茶市場」は、回復基調に転じている。

(3) 喫茶店の店舗数 「12万6260店」(1991年)→ 「6万7198店」(2016年)


3月17日に閉店が発表された浅草の人気店「アンヂェラス」に並ぶ人々(2月27日筆者撮影)

総務省統計を基にした全日本コーヒー協会のデータだ。発表数値のうち、平成の初め(平成3年)と終わり(平成28年)を抜粋した。平成年間で店舗数は半減し、特に個人経営の店(個人店)の閉店が目立った。その理由はさまざまだが、「店主の高齢化」「後継者不足」「建物の老朽化」などが多い。一方で新規開業も多いが、長続きする店は少ない。

店舗数が半減したのに、市場規模が拡大したのは、後述するコンビニをはじめ、カラオケ店や自販機など「コーヒーを飲む場所」が増えたためだ。平成年間で「コーヒー輸入量(生豆換算)」は約1.4倍に拡大した。全体的には他業界からの参入もあり、活性化した業界だったといえよう。

3強のうち、「スタバ」と「コメダ」が伸長

個人店を中心に店舗数が減るなか、大手チェーン店は拡大した。日本国内で「カフェチェーン店」を多い順に並べると、上位3社はこうなる。

(1) 「スターバックス コーヒー」  1415店 (2018年12月現在)
(2) 「ドトールコーヒーショップ」  1114店 (2019年1月現在)
(3) 「コメダ珈琲店」         812店 (2018年8月現在)


「スターバックス コーヒー 東京ミッドタウン店」は、1階(右のロゴ)と2階(左のロゴ)では、店内の雰囲気が違う(筆者撮影)

先ほどの全体数字(内訳は公表されていないが3大チェーンを含むと仮定)と比較してみよう。調査時期が異なるのを承知で計算すると、約6万7200店のうち、約3340店が「スタバ」「ドドール」「コメダ」になる。「20店に1店が3強の店」という計算だ。

特に、平成後期に拡大したのがスタバとコメダだ。スタバが店舗数500店を達成したのは2003(平成15)年11月。ドトールは翌2004年、早くも国内1000店を達成した。

コメダの店舗数は記録が少ないが、筆者が最初に取材を始めた時期は319店(2008年5月末現在)で、前年の2007(平成19)年に「東京23区内に初出店」した段階だった。


2016年8月、北海道に初上陸した「コメダ珈琲店 東札幌5条店」(筆者撮影)

好みはあるが、スタバは「シアトル系カフェ」、コメダは「昭和型喫茶店」の代表格として店舗数を拡大させたのだ。一方、ドトールは別業態の「星乃珈琲店」が約240店に成長するなど、業態を広げて展開している。

他の業界から「コンビニコーヒー」が参入し、瞬く間に強豪となったのも特徴だ。2013年にセブン-イレブン(セブン)が仕掛けた「セブンカフェ」で火がつき、1杯100円(レギュラーサイズ)のコンビニコーヒーが一大勢力となった。「2018年度で11億杯を見込む」(同社)という。全体の市場は推計で2000億円を超え、前述の喫茶市場の2割を占めた。

セブンのコーヒーを長年取材した1人に、狹間寛氏がいる。業界紙「帝国飲食料新聞」の元編集部長で、現在は経営情報誌『珈琲と文化』の編集を担当している。少し解説してもらおう。

「セブンは、十数年前から抽出コーヒーシステムの開発に取り組み、トライ&エラーを重ねました。例えば『バリスターズカフェ』というエスプレッソタイプのコーヒーも出しましたが伸び悩み、ドリップ式に変えて大成功を収めたのです。セブンカフェのブレンドコーヒーはアラビカ種100%ですが、高級豆ではなくスタンダードクラスでしょう」

「原料豆は系列の三井物産から調達し、焙煎は味の素ゼネラルフーヅ(現味の素AGF)、専用コーヒーマシンは自動販売機製造最大手の子会社(旧富士電機冷機)を傘下に持つ富士電機と共同で開発した。2017年には大幅刷新するなど、品質改良を続けています」(同)

高級豆ではないが、「おいしい」と感じる人が多いのは、「豆の回転が速く、『3たて』(煎りたて・挽きたて・淹れたて)を実現したから」と狹間氏は指摘する。急拡大した反動の課題もあるが、今やコンビニコーヒーは、100円コーヒーの「ディファクトスタンダード(事実上の標準)」になった――と筆者は思う。

コーヒーが好き」という女性も増えた

現在に至る「カフェブーム」が起きたのは、2000年(平成12)年頃からだ。「東京都内のおしゃれ感のある個性的な店を、マガジンハウス系の雑誌や女性誌が積極的に取り上げて “東京カフェブーム”が起きたのが、ブレイクしたきっかけ」(業界誌の編集者)という。

この頃から「喫茶店」に代わる「カフェ」という言葉が一般的になった。厳密には2つの意味合いに大差はないが、喫茶店という言葉には、ひと時代前の雰囲気も漂い、「昭和レトロ」などの枕詞がつく場合も多い。

平成時代のカフェやコーヒーを語る場合、女性が人気を牽引した事実は指摘しておきたい。カフェブームもスタバ人気も女性が主導した。筆者の取材結果でも「コーヒー好き」の女性は間違いなく増えている。

昭和時代後期から平成の初期、女性は総じてコーヒーよりも紅茶を好んだ。だからこそ「ティーサロン」も多かったが、現在その手の店は減った。この間の女性の社会進出もあり、筆者の肌感覚では、女性の好みが「紅茶」→「ミルク系コーヒー」(シアトル系カフェ)→「ブラックコーヒー」に変わっていった感がある。

その結果、メニュー開発も進んだ。かつて「昭和の男性客中心の時代、ブレンド、アメリカン、アイスコーヒーの3メニューで全体注文の6割がまかなえた」(首都圏中堅チェーン店の経営者)という話も聞いてきた。そうした時代にはメニュー開発も求められなかった。現在のカフェで提供される「ラテアート」や「デザインカプチーノ」も、昔だったら支持されたのだろうか。

こうしたラテアートなどをつくる人は「バリスタ」と呼ばれて、若者が好む職種の1つとなった。数年経験を積んだ後、独立開業する人も多い。それにはネット社会の進展で、コーヒー関連の情報が安価に入手できるようになり、「十数年修業して独立」しなくてもよくなったからだ。成功するかどうかは別にして、若者が参入しやすい業界は活性化する。

良質なコーヒー豆をつくる、産地の取り組みなど生産方法が進化し、浅煎りや中深煎り・深煎りなど豆の特性にあった焙煎の研究も進んだ。抽出器具も進化した。意欲のあるコーヒー職人が腕を振るいやすい環境も整った。日本トップレベルのバリスタを取材して感じるのが「昔はコーヒーにそれほど興味がなかった」という人が多いこと。入社して配属された結果、のめりこんだり、一時休養中に奥深さに目覚めたり、理由はさまざまだ。

「バリスタトレーナー」という職種も生まれた。その第一人者が阪本義治氏(44歳)で、世界王者をはじめ日本有数のバリスタを育成して大会に送り出し、好成績を上げる。現在も20代から40代までのバリスタが多数指導を仰ぐ。その功績が認められ、「外食アワード2017」を中間流通・外食支援事業者部門で受賞した。これも平成ならではの動きだ。

コーヒーを革新させてこそ「カフェ」

さまざまな動きを駆け足で紹介したが、今でも「カフェを開業したい」人は多い。ここ数年取材した中には、前職が製薬会社の研究員や銀行員だった人もいる。だが、前述したように個人店が減り、大手が闊歩する時代だ。人気店にするには、どう訴求すればよいか。

筆者はカフェの機能を「基本性能」と「付加価値」という言葉で説明してきた。基本性能とは、飲食の提供・場所の提供で、付加価値は、その店ならではの独自性だ。

まず指摘したいのは、主力商品であるコーヒーを多く販売しないと経営が安定しないこと。現在人気の個人店、たとえば「丸山珈琲」(本社は長野県)も「サザコーヒー」(同茨城県)も、「猿田彦珈琲」(同東京都)も、コーヒー豆販売が主力。「豆売り」で実績を出すのが目指す道だ。イノベーションが激しいので、現在人気の豆や抽出方法が、5年後の潮流になる保証はない。これらの店が、バリスタ育成に力を注ぐのは「潮流を知る」面もある。

そこまで高い目標を持たなくても、絶えず「店の魅力」を見直すことは大切だ。その魅力は飲食の味(基本性能)に加えて、店主やスタッフの接客、居心地、清潔性などだ。

温故知新の視点でいえば、「付加価値」に“飛び地の魅力”で訴求した店は長続きしない。「旅行情報が得られる」「動物と遊べる」という店は興味深いが、何十年も続きにくいのだ。総じて20年、30年続く個人店は、コーヒーへの探求心があり、他の飲食もおいしい。基本性能を掘り下げた付加価値といえる。

こうして考えると、「カフェ」や「コーヒー」には、ビジネス人生のステージを生き抜くためのヒントがあることに気づく。だからこそ興味を持つ人が多いのだろう。