楽天の仮想化された次世代の通信システムは成功するのか? 実証実験施設「楽天クラウドイノベーションラボ」にみる自信の技術とは

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●MNO参入に向けた実証実験施設を公開
楽天モバイルネットワークは2月、報道関係者向けに通信技術の実証実験施設「楽天クラウドイノベーションラボ」を公開しました。
楽天モバイルネットワークは今年10月に移動体通信事業(MNO)サービスへの参入を予定していますが、本施設はその通信設備の実証を行うためのものです。

楽天モバイルネットワークは、当初、MNOへの参入投資額を6000億円と見積もっていました。
しかし、その額について業界関係者からは、
「1桁少ないのではないか」
「まともなエリア展開は不可能」
こうした厳しい声もあがっています。

今回の楽天モバイルネットワークでは、
「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」方式
これを世界で初めて採用しました。

これは、
・ハードウェアとしての通信サーバーやアンテナ設備
・ソフトウェアとしての通信技術
これらを分離させた方式です。

「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」方式は、
・高い拡張性
・シームレスで迅速なリアルタイムアップデート
・ハードウェアの更新や入れ替えが容易
など、様々な点において、これまでの通信設備の常識を覆す革新的なものとなっています。

楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、
「これまでの通信業界のやり方は古い。
20年前に6億円や7億円もしたサーバーは、今や20万円のPC程度の性能しかない。
技術革新によって、少ない投資でこれまで以上に安全で強固なネットワーク構築が可能。

NetflixやYouTubeのような動画配信サービスでは、1日に何百ものアップデートが行われているが、ユーザーがそれを意識することはない。
楽天のネットワークも同じようにリアルタイムでアップデートが行われ、常に安全と最新の通信環境が保たれる。」
と語り、同社のMNO戦略に自信を見せています。


実際に運用される状況を忠実に再現した実証実験用サーバールーム



●最新技術の投入でコストダウン
実証実験施設では、実際の運用を想定したサーバー施設のほか、
・シールドルームを用いた通信テスト
・1万台以上の通信端末(携帯電話やスマートフォンなど)が同時接続された状況を想定したテスト
なども行われます。

いずれの設備も実際にMNOサービス開始時に導入する予定の機器が用いられており、サーバー施設などは楽天グループが使用しているものと同型を採用することで、コストダウンを図っています。
また本施設での実証実験自体も、そのほとんどが自動化されており、ここでも効率的な実験とコスト低減が図られています。

楽天モバイルネットワークは、今回の完全仮想化クラウドネイティブネットワークの構築にあたり、インドのIT企業・テックマヒンドラと技術提携をしています。
MNOサービス開始当初は4G(LTE)での運用が予定されていますが、その後の5Gにもソフトウェアの更新のみで対応できる設計とのことです。


サーバー設備の横に並んだシールドルーム



シールドルーム内ではスマートフォンなどを用いた通信テストが行われる



1万台以上の通信端末の接続負荷をテストするシミュレーターエリア



●誰も体験したことのない次世代の通信網に挑む
既存の通信設備を用いない、新規設備によるMNOサービスへの参入は、2005年のイー・モバイル(現ソフトバンク)以来、14年ぶりのことです。

当時から現在に至るまで、通信ネットワークの仮想化といったものはほぼ行われず、サーバーや基地局といった設備とソフトウェアは一体のものとして扱われてきました。

楽天モバイルネットワークが構築しようとしている、エンドツーエンドによる完全仮想化クラウドネットワークは、まさに誰も体験したことのない未知の通信網なのです。


次世代の通信システムは、本当にこれまでにない安全と信頼を実現できるのか?

楽天モバイルネットワークのMNO参入まで、あと半年ほど。
その回答は、私たちの見えないところで着々と整えられています。


執筆 秋吉 健